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2018年11月24日土曜日

The Barn Dance(バーン・ダンス)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年3月14日
評価:★7


生意気なキャラクターがキュートな佳作


「ミッキーマウス」第4作。前作の『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』に引き続き当初よりトーキー作品として製作されたが、本作は音楽劇ではなくストーリーとギャグが主体である。そのため前シリーズの「オズワルド」を彷彿とさせる楽しい作品に仕上がっており、生意気で野暮ったいキャラクター達が巻き起こす騒動を存分に楽しむことができる。
作画は主にアブ・アイワークスとレス・クラークの2人が担当したようである。本作でもアブのスマートで軽快なアニメ―トが冴えている。

「おんまはみんな(The Old Gray Mare)」のメロディーに乗せて馬車を走らせるミッキー。彼はミニーをバーン・ダンスに誘おうとしたのだが、不運にも同じくミニーをダンスに誘おうとしたライバル、ピートが車でやってくる。ピートの車に惹かれたミニーはピートをダンスの相手に選ぶが、その直後に車が事故を起こしてしまう。そこでミニーはミッキーと共にダンス会場へと向かうのだったが…
なんとミッキーは踊りが大の苦手だったのだ。ミニーの足を何回も踏んづけてしまったので、カンカンになったミニーは踊りの上手なピートを次の相手に選んでしまう。嫉妬したミッキーは機転を利かせてズボンに風船を仕込み、今度こそミニーと上手に踊ろうと画策する。
ところが仕掛けに気付いたピートがパチンコで風船を割ってしまったために、この作戦も失敗。とうとうミニーが愛想を尽かしてしまったので、ミッキーは泣き出してしまうのだった。

悪役が主人公の恋敵として登場し、ヒロインを巡って争うという図式は「オズワルド」を始めとするサイレント時代のディズニー製カートゥーンではよく見られるスタイルであった。本作のプロットやギャグはサイレント時代からの大きな変化はないが、踊りを作品の中心に据えているのはトーキー作品らしい。
本作の見どころは、少し生意気だが生き生きとしたキャラクター達のキュートさに尽きる。現在でこそ「スター」「品行方正」といったイメージが定着してはいるが、1932年頃までのミッキーはいたずらっぽく快活で、少し生意気な少年だった。性格に深みはないが、とにかく元気で明るい典型的なカートゥーン界の住人だったのだ。
また、サウンドトラックも興味深い。本作で使用されている曲は「おんまはみんな」「いいやつみつけた(Pop Goes the Weasel)」「Reuben and Rachel」といった古いフォークソングが中心であり、ポピュラー音楽を所狭しと使いまくっていたフライシャー兄弟やハーマン=アイジングの作品とは対照的である。
そもそも「バーン・ダンス」自体がアイルランドの古い習慣だったらしく、アイルランド系の移民であるウォルトの嗜好が伺える。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年9月24日月曜日

Colonel Heeza Liar's Knighthood

監督:ウォルター・ランツ(&ヴァーノン・ストーリングス?)
公開日:1924年4月1日
評価:★7


ウォルター・ランツが演出した最初期の作品


1913年に、商業アニメーションの草分け的存在であるジョン・ランドルフ・ブレイによって生み出されたキャラクター『ヒーザライア大佐』。最も初期にセル技法を取り入れた事でも有名なこのシリーズだが、ブレイ自身による製作は1917年に一旦終了してしまう。その後6年間のブランクを経て、1923年にヴァーノン・ストーリングスによって製作が再開された。
この作品は、そんな『ストーリングス版・ヒーザライア』の一篇である。
この作品で特筆すべきなのは、監督としてウォルター・ランツがクレジットされている点である。1910年代にインターナショナル・フィルム社のアニメーターとしてキャリアをスタートさせた彼だが、この辺りから演出業もこなすようになっていた。この作品は、彼が監督した最も初期の作品なのだ。
ちなみに、インターナショナル・フィルム社にはランツの他にもビル・ノーランやバート・ジレット、ベン・シャープスティーン、グリム・ナトウィック、そしてジャック・キングといった後に名を残すそうそうたるメンバーが在籍していた。

剣術の練習をする男(実写。ランツ本人)に睡眠の邪魔をされたヒーザライアは、おもむろに昔の武勇伝を語り始めた。
王様に剣術の腕を見込まれたヒーザライアは、王様の付き添いをすることになる。ところが王様が悪者に捕まってしまったので、ヒーザライアは悪者と剣闘する羽目に。絶体絶命のヒーザライアだったが、蚊のおかげでなんとか勝利する。
―ところがそれはみんな大嘘。話を聞いて怒った蚊に咬まれてしまったヒーザライアは、急いでインク壺へと戻るのだった。

同時期のランツ監督作と同じく、この作品はフライシャーの『インク壺』を彷彿とさせる実写とアニメーションの混合スタイルで作られている。とはいえ、『ディンキー・ドゥードゥル』等とは異なりこの作品では実写との絡みは序盤と終盤のみ。メインはあくまでもアニメーションである。後の『オズワルド』を彷彿とさせるのびのびとした動きや自由な発想はもちろん、ランツ自身の怪演も見逃せない。
この作品が発表された時点で、ランツはまだ25歳だった。若々しい自由な発想が光る、楽しい作品だ。

収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年9月18日火曜日

Hot Dog(ハッドッグ)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年3月29日
評価:★7


フライシャーの転換点


『トーカートゥーン』第4作。この作品は、様々な意味でフライシャー・スタジオのターニングポイントとなった記念すべき快作である。「従来の作品との違い」は主に三つ挙げられる。
第一に、フライシャー作品としては初めて全編にセル画が用いられ、濃淡豊かな背景が使用できるようになった。第二に、トーキー初期のフライシャーを代表するキャラクターのビン坊が初登場した。第三に、音楽監督としてルー・フライシャーが参入し、従来よりもはるかに高い完成度で音楽とアニメーションの融合に成功したのである。

車を走らせるビン坊が、街中の女性を次々にナンパする。ナンパの途中で道路を壊してしまったビン坊は警察に捕まってしまい、『ジョニーが凱旋するとき』のメロディーと共に裁判所へと連行されてしまう。
無実を訴えるビン坊はおもむろにバンジョーを取り出し、『セントルイス・ブルース』を歌いだす。堅苦しい雰囲気だった裁判所もいつの間にかノリノリに。ビン坊はバンジョーを一輪車に見立ててそのまま裁判所を逃げ出すのだった。

アニメーターはノンクレジットだが、後にチャールズ・ミンツのスタジオへ移籍するシド・マーカスと1930年当時のスタジオを代表するアニメーターであるグリム・ナトウィックが幾つかのシーンを担当したと思われる。[参考]
特にシド・マーカスが担当したという「セントルイス・ブルース」のシーンは従来のフライシャー作品とは一線を画すクオリティーである。というのも、スキャットの口の動きやバンジョーをかき鳴らす手の動き、音楽にノる無機物たちの動き、全てが完璧に音楽と同期しているのだ。
トーキー初期におけるフライシャーの見どころといえば絶妙な「スウィング感」、つまりジャズとアニメーションの見事な融合が挙げられるのだが、この作品で初めてそれが本格的に実現したのである。
これには恐らく今作よりスタジオの作品に関わる事となったルー・フライシャーの存在が大きく影響していると思われる。ルーはマックス&デイヴの兄弟で、1942年までスタジオの音楽監督として作品に関わってきた。(彼はポパイのウィンピーの声も一部作品で担当している)

この作品は1931年頃に日本でも公開されたようだ。初期のベティ作品と同じく、観客たちを大層楽しませたことだろう。




(劇中で使用された「セントルイス・ブルース」の録音)

2018年9月5日水曜日

Neptune Nonsense(フィリックスと海の神様)

監督:バート・ジレット&トム・パーマー
公開日:1936年3月20日
評価:★7

フィリックスが海底で大冒険


ディズニー出身のアニメーター、バート・ジレットがヴァン・ビューレン・スタジオに移籍して手掛けたシリーズ『レインボー・パレード』。本作は、サイレント時代に絶大な人気を誇ったキャラクター『フィリックス』を主人公とした三部作の二作目である。
監督は前作と同じくバート・ジレットとトム・パーマー。二人ともディズニー出身のアニメーターなだけあって、本作も前作同様ミッキーマウスの短編を彷彿とさせる作品に仕上がっている。

フィリックスが飼っている金魚は、なぜか寂しそう。そこで金魚の友達を見つけてあげることにしたフィリックスは、さっそく釣りに出かける。ところが大きな魚に引っ張られて海底の世界へと真っ逆さまに落ちてしまったフィリックスは、そこで金魚の友達を探す事にした。ところが彼を誘拐犯だと勘違いした魚たちによってフィリックスは捕らえられてしまう。
海の神様と面会したフィリックスが事情を話すと、神様はフィリックスを孤児施設へと連れていった。神様は身よりのない金魚を一匹フィリックスにプレゼントする事にしたのだ。喜ぶ自分の金魚を見て、フィリックスも幸せそうな笑顔を浮かべるのだった。

前作と同様、作画面でのクオリティは従来のヴァン・ビューレン作品に比べて出色の出来である。また美術も素晴らしく、海底の幻想的な世界観を上手く演出している。ギャグこそ少ないが魅力的なアイデアは多く、特に海底に棲む魚たちのシークエンスはかなり快調といえるだろう。
問題としてはストーリーが余りにもありきたりすぎる、フィリックスの性格が良い子すぎるなどという点が挙げられるが、これは素晴らしい美術設定のおかげであまり気にならない。
全体を通して、「Sunshine Makers」(1935)と並ぶ「レインボー・パレード」の最高傑作といっても差し支えない快作といえるだろう。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX (DVD2枚組)

2018年8月6日月曜日

Reducing Creme

監督:アブ・アイワークス
公開日:1934年5月19日
評価点:★7

コミカルな動きがとにかく楽しい一作


『カエルのフリップ』に次ぎアイワークス・スタジオが製作した『ウィリー・ホッパー』第9作。作画は『Talkartoon』時代のフライシャーで頭角を現したグリム・ナトウィック、バーナード・ウルフの二人。この二人はフライシャー時代に培ったニューヨーク流の軽快な作画スタイルが特徴だったのだが、本作でもそんな魅力が遺憾なく発揮されている。

『痩せクリーム』をマリーに勧められたウィリー。彼はクリームにまつわる災難の話を始める。ある日、ウィリーはネズミをいじめている猫に気付かず猫のシッポを踏んづけてしまう。怒った猫はウィリーに『痩せクリーム』をかけてしまう。すると、みるみるうちにウィリーの体は縮まっていき、ネズミ程の大きさになってしまった。猫に散々にあしらわれてしまうウィリーだったが、なんとか逃げ出し厨房へたどり着く。
厨房では、男がパンを作りながら太った女とイチャイチャ。ウィリーは後を追って来た猫から必死に逃げるが、太った女の服の中にすっぽりと入ってしまう。猫はパン作りの男の服の中に入ってしまい、男と女の2人は軽快なダンスを踊り始める。
服の中から逃げ出した猫とウィリーは、またまた追いかけっこ。そんな時ウィリーは床に落ちていたイースト菌のブロックを発見、食べてみるとみるみるうちに体が膨らんで元の大きさに戻ってしまった。ウィリーはここぞとばかりに、今度は猫に痩せクリームをかけてやると、猫はネズミと同じ大きさになってしまい、それを見て喜んだネズミは仕返しに猫の目を殴りつけるのだった。

内容自体はよくあるドタバタギャグなのだが、特筆すべきなのは作画である。
この時期のアイワークス・スタジオにはナトウィックやバーナードを始めとするフライシャーから移籍したスタッフが多数在籍しており、代表者であるアブの作風にフライシャー組の都会的なエッセンスが加わったことで、作品は独特の雰囲気を放っていた。
シュールなキャラクター造形、無軌道でドタバタしたストーリー展開、そして時に粗削りだがいつも軽快な作画、活気に満ちた音楽。これらが当時のスタジオの特徴だった。
この作品では、太った女とパン作りの男がダンスを踊るシーンがフィーチャーされる。このシーンにおけるキャラクターの動きが、まぁ格別なのだ。軽快で、リズミカルで、とにかく愉快!
『カエルのフリップ』や『コミカラー』でもダンスシーンは散見されるのだが、こうしたダンスシーンはまさしくフライシャー的でとても楽しい。
それ以外のシーンでも、ウィリーが縮む時の演出など、このシリーズの中ではトップクラスと言って良いほどの良質な作画や演出が目白押しである。一見の価値があるだろう。



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年7月15日日曜日

The Mechanical Cow(ザ・メカニカル・カウ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年10月3日
評価:★7

機械仕掛けの牛とオズワルドの冒険活劇


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第4作である。
1932年にサウンドトラックを付加した上で再公開されており、現存しているプリントもその時のプリントが大本だと思われる。(下記の動画リンクは1932年再公開版。鳴き声のような効果音が用いられている)

機械仕掛けの牛を使った牛乳販売を仕事にしているオズワルド。怠け者の牛は朝になってもなかなか起きようとしないが、オズワルドはなんとか牛を起こして仕事を始める。
カバの親子にミルクを売った後、ガールフレンドのオルテンシアに出会ったオズワルドは仕事そっちのけで情事を楽しむ。
ところが突然悪者が現れ、オルテンシアをさらってしまう。オズワルドは牛に乗って悪者の車を追跡し、見事オルテンシアを救出。乱闘の末悪者もオズワルドも崖から落ちてしまうが、オズワルド達はなんとか助かり、悪者は魚に食べられてしまうのだった。

「機械仕掛けの牛」という面白い設定が目を引く本作だが、牛のパーソナリティー自体は他の動物たちと全く変わらず少し没個性な感じ。とはいえ銃に撃たれてバラバラになっても平気で生きていたり、首がマジックハンドのように伸びたりといった破天荒なギャグはなかなか面白い。
本作は『トロリー・トラブルズ』や後の『プレーン・クレイジー』のような、後半のテンポの良さやアクションが醍醐味となる作品であろう。サイレント期ならではのオーバーなリアクションやパントマイムが何度も用いられ、素早いテンポで次から次へとギャグが繰り出されるので、観ていて飽きが来ないのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月6日金曜日

Dumb-Hounded(つかまるのはごめん)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1943年3月20日
評価:★7

逃走劇が楽しい『ドルーピー』第一作


ワーナーでバッグス・バニーやダフィー・ダックといった数々のスター達に命を吹き込んできたテックス・アヴェリーが、MGMに移籍後初めて産み出したスター「ドル―ピー」が主演を務める初の作品である。
ウォルター・ランツのスタジオで頭角を現し、ワーナー時代『メリー・メロディーズ』でその個性を爆発させたアヴェリーだったが、1942年にMGMに移籍するや否や、カートゥーン史上類を見ない爆発的に面白い傑作群を次々と産み出した。この作品は、そんな彼の素晴らしい伝説の幕開けとなった作品と言えるだろう。

刑務所から脱獄したオオカミを警察犬が追いかける。その中でもひと際のんびりとしたテンポで犯人を捜すのはドル―ピー。オオカミはアパート、森の小屋、ハリウッド、そして果ては南極へと逃げ回るが、どこに行っても『なぜか』ドル―ピーが彼を待ち構えていた。追い詰められたオオカミは、ついに高層ビルの屋上から飛び降り自殺…と見せかけ華麗に着地。そのまま逃げようと歩き出した途端、ドル―ピーがビルの屋上から落とした巨大な岩に潰されとうとう捕まってしまった。大手柄を打ち立てたドル―ピーはお偉方から褒美として札束をもらうが、途端に先程までの態度が嘘だったかのようにはしゃぎ回り、一言『ぼくは幸せだ』と言い残すのだった。

逃げ回る余りフィルムから飛び出してしまう、落下するオオカミを葬儀屋が取り調べる、元いたすみかに舞い戻る時は『フィルムの逆再生』を用いるといった傑作なギャグもいくつかあるが、この作品の魅力は、やはり待ち構えているドル―ピーを見た時のオオカミの驚くリアクションの面白さに尽きる。
その驚きようときたら、目は飛び出し服は脱げ舌は飛び出しと大変な騒ぎ。テックス・アヴェリー節全開である。

と、もちろん面白い作品なのだが、初期作品という事もあってか彼特有の魅力がまだ充分に発揮されていないのが残念。テンポやタイミング、そして作品の肝となるキャラクターのリアクションが、後年の作品群と比べてまだまだマトモなのだ。
3年後にリメイク版である『迷探偵ドルーピーの大追跡(Northwest Hounded Police)』が公開されるが、こちらの方がギャグの面でも狂気度の面でも数段パワーアップしていて面白い。(ことさら顔芸の面白さが最高)



収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection

2018年6月27日水曜日

Dancing on the Moon(月へハネムーン)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1935年7月12日
評価:★7

新婚旅行は月で!ユニークなアイデアが魅力的な作品


『カラー・クラシック』第6作。当時ディズニーが三色式テクニカラーを独占していたため、本作は発色が劣る二色式テクニカラーで撮影されている。とはいえ、この作品はかなり状態の良いプリントが現存しており、三色法にも劣らない鮮やかな色彩が楽しめる。
作画は、後にフェイマス・スタジオの代表的な演出家となるシーモア・ネイテルと、『ベティの白雪姫(Snow White)』を始めとする多くのフライシャー作品に携わったローランド・クランドル。2人は当時フライシャー・スタジオのヘッドアニメーターで、ウィラード・ボウスキーやマイロン・ウォルドマンらと共に30年代のスタジオを代表する存在であった。

『月(ムーン)でハネムーンを』と、新婚夫婦たちが主題歌の『Dancing on the Moon』を歌いながら次々と月行きの宇宙船に乗り込んでいく。遅刻してしまった猫の夫婦も慌てて宇宙船に乗ろうとするが、むりやり乗り込もうとしたところでロケットが発車してしまった。宇宙船から振り落とされてしまった花嫁は激怒、宇宙船に取り残されてしまった花婿は一人寂しくトランプなどをして過ごすのだった。
宇宙船は宇宙空間をどんどん突き進んでいき、あっという間に目的地の月に到着。そこでは、見渡す限りの壮大な月世界風景が広がっていた。カップルたちは月世界での甘いひと時を楽しんでいたが、猫の花婿だけは一人悲しそうに座り込んでいるのだった。新婚夫婦たちがダンスを嗜んでいる時も、猫の花婿は寂しく一人で踊る他はなかった。
ダンスの時間が終わると、宇宙船は地球へと舞い戻る。ハネムーンには赤ちゃんが付き物、コウノトリが地球に帰ってきた夫婦たちへ子供をプレゼントするのだった。
ところが花嫁を連れて行けなかった猫の花婿のもとには子供が訪れず、彼は途方に暮れてしまう。そして、花婿の帰りを待っていた花嫁が駆け寄ってきて、哀れな花婿をぼこぼこに殴り倒してしまうのだった。

少々猫の花婿が不憫すぎる気はするが、『カラー・クラシック』にしては珍しく作品全体にユーモアに満ちており、楽しい一編である。何より、『ハネムーン』を文字通り『月旅行』に仕立て上げるという、フライシャーらしいユニークなアイデアには感嘆するばかりだ。また、『天の川(Milky Way)』で牛が乳を絞られていたり、月がまるであの『月世界旅行』のような姿になるなど、シニカルなギャグも随所に散りばめられており、こちらも面白い。
本作でも立体模型を用いたセットバック撮影(ステレオプティカル・プロセス)が採用されており、作品に素晴らしい遠近感を与えている。新婚夫婦たちがダンスを踊るシーンでの月世界の風景は特に魅力的で、この撮影技法の良さが最大限に発揮されたといえるだろう。
アニメート技術は、30年代中期のフライシャーとしては水準程度。いかにも『1930年代のカートゥーン』な動物キャラたちが、かわいく動き回るのが楽しい。



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

2018年6月11日月曜日

Silly Scandals(ビン坊の寄席見物)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1931年5月23日
評価:★7

歌うベティと幻想的なクライマックスに見惚れる一作


『トーカートゥーン』第22作。ベティ・ブープもこの頃になるとビン坊に代わるスタジオの新たなスターとなり始めており、本作でも1930年にヒットした『You're Driving Me Crazy』を一曲披露してくれる。この作品の見どころは、ずばりこのベティの歌声と、後述するクライマックスの名シーンの2つに尽きるのである。

寄席(ヴォードヴィル)のポスターを街中で見かけたビン坊は、お金が無いのでどさくさに紛れて劇場に潜入する。これが本当の"びんぼう"なんちって… 舞台からベティが登場し、名曲『You're Driving Me Crazy』を披露。ビン坊は客席からベティと一緒に歌い出し、他の観客たちに睨まれてしまう。
続いて手品師が登場するのだが、ビン坊が彼の手品を見て大笑い。怒った手品師は催眠術を使ってビン坊を舞台へ誘導し、ビン坊は様々な魔術をかけられてしまう。終いには頭をポカリと一撃され、映像もサイケデリックに一転、目まぐるしいテンポで変化するアニメーションの中で先程の『You're Driving Me Crazy』を歌い上げるのだった。

この作品でもベティはセクシーさが強調されており、歌っている途中でドレスがずり落ちブラジャーが丸見えになる、なんていうギャグもある。また太ももにガーターベルトを付けているなど、現在知られているスタイルにぐっと近づいている。
そして何より、この作品の肝はシュールで幻想的なラストシーン。ビン坊の顔が分裂し結合し、次々に様々な形に変わっていく。ビン坊だけではなく、背景までもが目まぐるしく変化し動きまくる。まさにサイケデリックなアニメーションが次々に展開していくのだ。

ストーリーは平板で、作品前半では目立ったギャグやアニメ―トも少ない凡作なのだが、このラストシーンが素晴らしすぎるが故に、私にとってはシリーズ中で最も強烈な印象を残した作品の一つなのである。クレジットが散逸したために、作画者が不明なのがつくづく惜しい。私の予想ではシェイマス・カルへインやアル・ユーグスター辺りのような気がするのだが…どうなんだろう。(Wikipediaではグリム・ナトウィックが作画者となっているのだが、本当なんだろうか?)




(ルディ・ヴァリーが歌う『You're Driving Me Crazy』。当時人気絶頂だった彼は『スクリーン・ソングス』にも数多く出演していた)

2018年5月16日水曜日

Felix Saves the Day(フィリックス 野球場で大活躍)

監督:オットー・メスマー
公開日:1922年2月1日
評価:★7

実写とアニメーションの奇妙な融合


1922年、『フィリックス』シリーズは配給元がそれまでのパラマウントからウィンクラー・プロダクションに移行し、より刺激的で個性の強い作品群が産み出される事となる。この作品はそんなウィンクラー配給の下公開されたフィリックス作品の第一作である。
パラマウント時代からその前兆を見せていた個性が、ようやく開花し始めたのもこの時期の作品だ。サイレント時代のフィリックスは独特なパントマイムで感情を表し、「?」や「尻尾」といった記号や体の部位を利用することでトラブルを解決する。この作品でもそんなフィリックスの「お決まり」とも言える個性を思う存分に堪能できるが、この作品の醍醐味は何と言っても「実写とアニメーションの融合」だろう。

ストーリーは、警察に捕まって野球の試合に出られなくなった友人のためにフィリックスが野球にチャレンジする、という物。機転を利かせたオチ、大人びたユーモアがフィリックスらしくて面白い。
この作品では実写の写真や映像が頻繁にアニメーションの中に挿入される。とはいっても、サイレント時代のカートゥーンでは実写とアニメーションを融合させる手法は定番中の定番であり、手法自体に革新性がある訳ではない。
しかし、この作品ではその使い古された手法をうまく活用し、シュールなギャグとして成立させているのが素晴らしい。フィリックスは暴れ回るだけの存在ではなくしっかりとした自我を持ち、実写の世界の中で実写の人物と対話し、行動しているのだ。
特にフィリックスの友人が実写のビルをよじ登っていくシーンに関しては、実写作品やアニメーションでは決して味わう事のできない格別な臨場感を味わう事ができる。

また、この作品は同時期の他のフィリックス作品と比べて背景が細かく、リアルに描かれている。実写映像の使用にしろ、かなり力を入れて製作された事が窺える一作だ。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX ( DVD2枚組 )

2018年5月9日水曜日

Fire Bugs(ピアノ火事)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年5月9日
評価:★7

シュールで荒々しい作画が楽しい一作


『トーカートゥーン』第6作、ビン坊が登場する2番目の作品である。作画はトーキー初期のフライシャー・スタジオを牽引したテッド・シアーズとグリム・ナトウィック。『Swing You Sinners!』や『Barnacle Bill』を彷彿とさせる荒々しくシュールな作画が見ものだ。
消防士のビン坊と馬が火事場へと向かい、ピアノ演奏に夢中になっているピアニストを救出しようと奮闘する物語であり、ストーリーや作品設定に特筆性は余りない。注目すべきはアニメーションと劇伴音楽だろう。

ルー・フライシャーがスタジオの音楽監督に就任したことにより前作『Hot Dog』で突如開花した『音楽とアニメーションの見事なシンクロ』は、本作でも遺憾なく発揮されている。
作品冒頭ではノリの良いジャズが効果的に用いられ、ネズミや馬、そして靴や蹄鉄までもがリズムに乗ってスウィングする。中盤ではお調子者の馬がメンデルスゾーンの『春の歌』に乗せて優雅に踊り、終盤ではピアノ演奏に没頭するあまり火事に気付かないピアニストが『ハンガリー狂詩曲』を熱演。これら全てのアニメーションが見事に音楽とシンクロしており、ギャグとしてもなかなか出来が良い。

まだまだアニメーションは洗練されておらず、試行錯誤の跡が垣間見える。だが、野暮ったくゴム紐のようにスウィングするこの雰囲気は何ものにも代え難い。
フライシャー・スタイルがまだ確立していなかった時期に作られた、狂気に満ちた注目すべき佳作である。

2018年4月10日火曜日

Woodland Café(森の音楽会)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1937年3月13日
評価点:★7

虫たちが繰り広げる熱いジャズ・セッション


シリー・シンフォニー第66作、シリーズの中でも後期にあたる作品だが、当時のディズニーとしては珍しく『ジャズ』を前面に押し出した作品となっている。
『虫が集うナイト・クラブ』というディズニーらしい舞台で繰り広げられる軽快なアニメーションは、独特な都会的センスを纏っているようで、異彩を放っている。

作品の舞台となるのはおしゃれな虫たちが集うナイト・クラブ。ビッグ・バンドの豪華爛漫な演奏をバックに、虫たちは老若男女問わず踊り狂う。
物語中盤で作品舞台がバンドからステージへと変わり、色気たっぷりのハエといかにもワルな蜘蛛による劇仕立てのダンスが繰り広げられる。色気に惑わされた蜘蛛はハエを追いかけまわすが、しまいにはハエがまんまと蜘蛛をやり込めてしまい、煙草を一服。ハリウッド女優顔負けの、なんともアダルトなシークエンスだ。

そして物語は終盤へと進み、舞台はステージから再びビッグ・バンドへと戻る。彼らの演奏はますます白熱し、お客はみんなフロアに集まってノリノリのスウィングを披露する。冒頭ではつまらなさそうにしていた老紳士までもが愉快にダンスを楽しみ、挙句の果てにはぶっ倒れて担架で運ばれてしまう始末。
往年のキャブ・キャロウェイを連想させるようなパワフルな歌声とスウィンギーな演奏が続くなか、クラブ内が熱狂の頂点に達した所で画面がアイリスアウトし、物語が終了する。

この作品の見どころは、やはり終盤の熱いセッションに尽きるように思える。軽快なスウィング『Everybody's Truckin』をバックに、素早いカット割り・煌びやかな美術設計・緻密な動画によって描き出される溌剌としたダンスシーンは、まさに職人技の賜物といえるだろう。一度観たらそのグルーヴ感に酔いしれる事は間違いなし。
シリ―・シンフォニーの数ある短編の中でも、楽しさではトップクラス。まさに一級品の娯楽作品だ。
(『森の音楽会』という邦題は、正直語感が内容にそぐわない気がしないでもないのだが…)



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年4月4日水曜日

The China Plate(桃源の夢)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1931年5月16日
評価点:★7

中国を舞台に繰り広げられる冒険ファンタジー


シリ―シンフォニー第18作、1931年製作の作品である。この作品は少々凝った作りとなっており、物語は冒頭に登場する中国の皿『ウィローパターン』に描かれた風景を舞台に進められる。
威張り散らす皇帝の娘は、お年頃の純粋な少女。綺麗な蝶を追いかけているうちに川に落っこちてしまい、その場にいた釣り人の少年に助けられる。彼は娘を慰めてあげると、二人はたちまち恋に落ちてしまう。
そんな事は断じて許さん、と激怒した皇帝。彼と釣り人との勝負はいつの間にか追いかけっこへと変わり、傲慢な皇帝はついには岩のようなドラゴンに食べられてしまった。二人もドラゴンに襲われそうになるが、機転を利かせて見事退治。めでたく二人は結ばれた、といった具合である。

ストーリーは古き良き伝承風のものとなっており、上手く纏められてはいるが特別に目立つ何かがあるというわけではない。注目すべきはその世界観作りである。
もちろん今観ると若干ステレオ・タイプとなってしまう描写は散見されるが(殊に前半部分において)、そんな時代の隔たりから来る不整合感など全く感じさせないほどの美しさがこの作品には溢れている。
ルディ・ザモラらが担当した作画も31年という制作時期を考慮するとなかなかの高水準。ドラゴン、釣り人&少女、皇帝といった個性的なキャラクターを端麗にアニメ―トしている。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年3月21日水曜日

Egyptian Melodies(エジプトの夢)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1931年8月19日
評価点:★7

画作りの美しさが際立った一作


シリー・シンフォニー第21作にあたる本作品は、タイトルの通り古代エジプトの幻想的なイメージを、エスニックな音楽に乗せて描いたもの。
同時期のシリ―・シンフォニーの御多分に洩れず、はっきりと筋の通ったストーリーは存在しない、ひたすら画の美しさで観客を魅せる作品に仕上がっている。

物語はスフィンクスを映した遠景のカットから幕を開け、次のシーンでは一匹の可愛らしいクモが古代エジプトのピラミッドに潜入する。
その次に登場するカットはある意味この作品一の見どころ、いやアニメ作画史に残る名作画と言えるだろう。

クモが薄気味悪い遺跡内部を探検する様子が、一人称視点の見事な背景動画で克明に描き出されている。カメラアングル、緻密な作画どれをとっても素晴らしい臨場感!観ている側はこちらまでピラミッドを探検しているような気分になる。
後にミッキーマウスの短編『The Mad Doctor』(1933)にも流用される、屈指の名作画である。

ようやく内部に潜入できたと思ったクモだったが、そこへミイラ達が現れ怪しげなダンスを踊り始める。なんと壁画まで動き始め踊り狂い、すったもんだの大騒ぎ。
ディズニー持ち前の細やかな作画や迫力ある構図はもちろん、多重露光を用いたり小気味良いテンポで話が展開されたりと、かなり意欲的な表現を試みている。
恐怖に震えるクモは急いで来た道を駆け戻り、砂漠の果てへ逃げていくのだった。

言葉やストーリーの妙よりも、映像の美でひたすら勝負し、魅せる。これこそクラシック・カートゥーンの一つの醍醐味といえるのではないだろうか。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年3月14日水曜日

Betty boop's birthday party(ベティの誕生日)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1933年4月21日
評価:★7

どたばたパーティーが楽しい佳作


傑作『Snow White』(ベティの白雪姫)の次に公開された、制作時期としては中期にあたる作品。この頃になってくるとココやビンボーの登場頻度は初期に比べると徐々に控えめとなっており、この作品ではほんの少し脇役として登場するに留まっている。

物悲しげにブルースを歌いながら家事を行うベティからこの作品は始まる。どうもこの作品のベティはメイ・ケステルが演じておらず、ケイト・ライトという別の女優が声を担当しているらしい。(参考)確かにいつもと違う新鮮な声色。
ベルが鳴るので表へ出ると、そこにあるのは大きなケーキ。今日はベティの誕生日で、友達はみんなでベティをお祝いしようとしていたのだ。
様々なプレゼントをベティに手渡す動物たち。赤ちゃんが二つの箱を持ってくると、大きな箱から小さい椅子、小さい箱から大きなピアノが飛び出すというシュールなギャグが面白い。

庭で楽しいパーティーが始まり、テーブルを囲んで動物たちが割と下品なギャグを挟みながら食事を嗜む。ロウソクの数によるとこの作品でのベティは14歳らしい。やたらエッチな中学生だなぁ。

…ところが熊とカバが一匹の魚を巡って喧嘩を始めたのがきっかけで、一同大乱闘に発展してしまう。
パイ投げだの皿投げだの、後のポパイに繋がるようなノリの良い破壊的なギャグが続く。
最後にはベティが『ジョージ・ワシントン』の石像と共にボートで逃走してしまう、というこれまたフライシャーらしいシュールなギャグで作品は終わる。
決してシリーズの一二を争う傑作、という訳ではないが、破壊的かつシュールなギャグの数々は今でも十分楽しめるのではないだろうか。乱闘シーンのアップテンポで軽快なBGMも作品を盛り上げており好印象。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年3月8日木曜日

Lullaby Land(子守歌)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1933年8月19日
評価点:★7

夢の世界を美しく描き出した、幻想的な傑作


シリー・シンフォニー38作目と、シリーズの中でも中期にあたる作品。
この時期の作品から、ディズニーは現在にまで受け継がれていく美しい画面構成、卓越したアニメーション技術、色鮮やかな色彩設計を自分の物にしていく。
その最大の成果が1937年の『白雪姫』に始まる長編作品群なのだが、この作品でもそういった後の傑作に繋がる素晴らしい要素を数多く秘めているといえよう。

物語は有名な子守唄『ロッカバイ・ベイビー』をバックに、赤ちゃんと犬のぬいぐるみが幻想的な夢の世界へとたどり着く、安らかで夢見心地なシーンから始まる。

次に我々の目を奪うのは擬人化されたベビー用品たちの大行進。ここまでの一連のシーンにおける色彩設計、そして背景の美しさは素晴らしいの一言に尽きる。
この時期のカートゥーンではこういった『奇妙なキャラクター達の行進』のシークエンスがよく用いられるのだが、幻想的な世界観を演出するにはうってつけの方法だったのだろう。

そうこうするうちに2人は何やら『赤ちゃん禁止の庭園』に迷い込む。そこにあるのはインク、マッチ、はさみといった危険な物ばかり。コーラスによる忠告を無視して赤ちゃんがマッチで遊んでいると、マッチから出た煙が三匹の化け物へと変貌する。
この恐ろしく幻想的な化け物たちのダンスシーンは作品内で最も印象深いシークエンスであろう。
恐ろしい化け物から逃げ、恐怖に怯える二人の前に現れたのは妖精ザントマン。彼の撒く砂を浴びた二人は、瞬く間に安らかな眠りにつくのであった。

この作品は終始甘く美しいBGM、幻想的な世界観で構成されており、カートゥーンに刺激的なギャグを求める人には向いていないかもしれない。(実は筆者もこういう作品が大好き、という訳ではナイ…)
だが、夢見心地で無垢な美しさに溢れたこの作品は、公開から85年が経過した現在でも色褪せる事のない魅力を放っていると言えるだろう。
後にディズニ―自身が似たテーマを扱った短編『子どもの夢』(1938)を発表しており、両作品を比較するのも楽しいかもしれない。




※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月23日金曜日

Betty Boop's Bamboo Isle(酋長の娘)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年9月23日
評価:★7

妖艶なダンスが楽しい一作


ハワイアン・バンドの「ロイヤル・サモアンズ」が奏でるハワイアンメロディーをバックに、ベティとビンボーが南国の島で一騒動を起こすという一種の探検物。

まずビンボーがウクレレをかき鳴らしながらボートで海を渡るシーンから物語は始まる。この時期(1932-34年頃)のフライシャー作品は総じて作画のクオリティーもトレス精度も高く、安定した独特の完成度を誇っているのも特徴の一つである。ストーリーは一応存在するが、ギャグとダンスシーンの為に後付けされたような物だ。そう、この作品の要となるのはハワイアンミュージックと共に繰り広げられるそのダンスシーンなのである。

ステレオタイプな先住民族に襲われそうになったビンボーは、顔に泥を塗りたくり頭に骨をぶっ刺す(!)事で自分も先住民族になりきり窮地を脱する。
ビンボーを仲間だと思った先住民たちは、彼に丁重なもてなしをする。そのもてなしの一つが、ロトスコープを用いて作画されたリアルなフラダンスだ。
フライシャー兄弟自身が1919年に発明し、サイレント期の作品のみならず『ベティの家出』(1932)等で絶大な効果を上げたフライシャー定番の手法であるが、本作品でも効果的に用いられている。

そして何よりこの作品の最大の魅力は、同じくロトスコープによって作画されたベティの妖艶なフラダンスシーンであろう。
陽気なハワイアンミュージックをバックに、ベティが滑らかなフラダンスを披露する。この頃の作品群はベティのセクシーさが最も過激になっていた時期にあたるのだが、この作品ではその性的な魅力が最も露骨に表れた例と言えるだろう。

そうしてビンボーは島でのひと時を楽しむのだが、突然雨が降ってくる。当然顔に塗っていた泥は溶けてしまい、怒った先住民に追いかけられるビンボーとベティ。
ノリノリのウクレレをBGMに、しばらくシュールな逃走劇が繰り広げられる。最終的に二人はうまく逃げ切る事に成功し、キスをして物語は終わる。お馴染みのオチである。
ベティ黄金期である32ー33年の数ある作品群の中でも、ハワイアンな空気が美味しい異色の一篇だ。

 

※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年2月16日金曜日

The Tortoise and the Hare(うさぎとかめ)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1935年1月5日
評価点:★7

ギャグの新境地を開いたディズニーが放った快作


シリー・シンフォニー第49作。『Three Little Pigs』(三匹の子ぶた)でキャラに今までに無かった個性を与え、強烈な印象とギャグを観客に植え付ける事に成功したディズニーが再び放ったギャグアニメ―ション。
話の大筋、登場するキャラクターに関してはイソップ寓話の「ウサギとカメ」に沿っているが、この作品ではその有名な寓話に適度なスパイスを適度に加え、古き良き童話を痛快な快作に仕上げている。

まずウサギの設定から、今までに無かった個性が溢れている。吊り上がった目、スマートなスタイル、女たらしかつニヒルな性格。しかも甲高い声でよく笑う。所謂トリック・スター的なキャラ設定だが、これは後のウッドペッカーやダフィーダック、バッグスバニーへと発展していく様式の原型ではないだろうか。
対するカメ、こちらはもっぱら田舎臭く従来のディズニーデザインを踏襲したかのようなのんびりとした設定。この二つのキャラの対比が作品の面白さを更に深めているといえよう。

ストーリーは概ね原作を踏襲しておりしっかりと筋が通っているが、先程にも述べた通り幾つかのアレンジが加えられている。
例えばウサギは一旦昼寝をするもののすぐに飛び起き、その次には女たちとテニス遊びに興じている。彼の女たらしで陽気な一面が強調された名シーンである。
ここで彼は一人テニス、一人野球を次々と披露するのだが、この一連のシーンのスピード感たるや半端ではない。
対するカメはのんびり、コツコツとひたすらに走っている。こちらは大きなアレンジが加えられる事は無かったが、最後に首を伸ばしてゴールするといういかにもなギャグで締められる。

30年代の旧式なスタイルから、40年代のリアリティを重視しつつ破壊的なギャグを得意としたスタイルへと変化していく過程がわかる、興味深い作品である。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月9日金曜日

Chess-Nuts(ベティの将棋合戦)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年4月13日
評価:★7


異様なテンポでギャグが繰り広げられる爆笑作


『Talkartoon』第38作、シリーズの中でも後期に位置する作品。今回主役を張るのは既にフライシャーの花形となっていたベティ・ブープ。脇役として先代のスターであるビンボーとココも登場する。

作品は実写から始まる。老人2人が楽しんでいたチェスから現れたのは『黒のお姫様』のベティと『白の王様』のビンボー。2人は何やら仲良さげだが、そんな時に醜い老人である『黒の王様』が2人を引き離す。
こうして始まった白vs黒の爆笑バトル。もはやチェスなどお構いなし、タッチダウンだの肉弾戦だの大騒ぎ。
果たしてベティ、そしてビンボーの運命は…?

この作品からは、トーキー初期におけるフライシャー作品の大きな魅力であるスウィング的なノリはあまり感じる事が出来ない。だが、全編に渡って繰り広げられる奇妙なギャグ、時たま挟み込まれるベティのセクシーなシークエンスでは、ベティの魅力を思う存分に楽しむ事ができる。
驚くべきなのはそのテンポの良さである。『笑えるギャグ』がハイテンションなノリで大量に放たれるのだ。これはこの時期の作品では異例と言って良いだろう。後に『ポパイ』で完成された破壊的なギャグセンスは、既にこの作品でその片鱗を見せている。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年2月5日月曜日

なまくら刀(新最長版)

監督:幸内純一
公開日:1917年6月30日
評価:★7

3度の発掘を経て鮮やかに蘇った日本アニメの原点


日本アニメの歴史について少しでも知っている方は、一度は聞いた事があるであろう、現存する日本最古の商業アニメーションといわれる記念碑的作品『なまくら刀』。
これまで2007年、2014年の2回に亘り発掘・復元されてきた。(それ以前にもフィルムコレクターの杉本五郎氏がフィルムを所持していたらしいが、1971年の火事で焼失したとの事[出典])
今回『発掘された映画たち2018』にて上映されたバージョンは、去年発掘されたフィルムを加え新たに復元処理を施した新最長版。今まで確認されていなかった幾つかのシークエンスを追加した上での上映となった。

ストーリーは至ってコミカルかつ明朗である。刀を買った侍が、試し斬りをしようと按摩と飛脚に襲い掛かるが、逆にまんまとやられてしまい、挙句の果てには刀まで折れ曲がってしまうというオチが付く。

この作品の最大の魅力は、やはり卓越した人物描写の細かさが挙げられる。切り紙アニメの長所を上手く生かした作風となっており、キョロキョロ動く目や豊かな表情、その全てが生き生きとしている。また後半の影絵をモチーフとした演出も素晴らしい。
日本アニメ最初期の作品にして、完成された繊細かつコミカルな雰囲気を既に築き上げていたというのはまさに驚くべき事である。

今回上映された『新最長版』では、今回新たに発掘されたシーンが幾つか追加された。
まず按摩が侍を蹴飛ばした後にニヤリと笑うシーンだが、これには実は続きがあり、この後按摩は大口を開けて笑うのである。
また、飛脚が侍から逃げるシーンも今回新たに発掘され、飛脚が木陰に隠れたりといった幾つかの細かいネタがこの一連のシーンで行われていた事も判明した。

こうして日本アニメ最初期の快作が3度の発掘を経て、ほぼ完全な形で見る事ができるようになったのは幸運以外の何物でもない。
『なまくら刀』のみならず、黎明期の日本アニメが更に発掘され、注目を浴びていく未来が来てほしいものである。


なまくら刀[デジタル復元・最長版][白黒ポジ染色版] | 作品詳細 | 日本アニメーション映画クラシックス

なまくら刀[デジタル復元・最長版][白黒ポジ染色版] (The Dull Sword [the longest, digitally restored version]) 製作年:1917年 監督:幸内純一。国産アニメーション映画が誕生した1917年に公開された現存する最古の作品。
(『発掘された映画たち2018』にて上映)