2018年8月27日月曜日

The Goose That Laid the Golden Egg(フィリックスと金のガチョウ)

監督:バート・ジレット&トム・パーマー
公開日:1936年2月7日
評価:★6

テクニカラーで蘇ったフィリックス


『三匹の子ぶた』を始めとする、数々の名作を演出したディズニーの名匠バート・ジレットがヴァン・ビューレン・スタジオに移籍して手掛けたシリーズ『レインボー・パレード』。本作は、サイレント時代に絶大な人気を誇ったキャラクター『フィリックス』を主人公とした三部作の一作目。1930年以降新作が作られていなかったフィリックスだが、6年の時を経てテクニカラーで蘇ったのである。
とはいっても、オリジナル版のクリエイターであるオットー・メスマーとパット・サリヴァン(1933年没)は製作に関わっていない。本作はバート・ジレットと、彼と同じくディズニー出身であるトム・パーマーの共同監督作なのだ。

金の卵を産むガチョウと共に、貧しい人々にお金を分け与えるフィリックス。ところが海賊団の船長であるキャプテン・キッドがフィリックスの家に侵入し、ガチョウを奪ってしまったのだからさあ大変。フィリックスは大砲を使って、彼が舵を取る海賊船へと乗り込むのだった。
海賊船に到着したフィリックスは海賊との激しい戦いの末、見事勝利する。そして海賊が今まで盗んできた財宝を街の貧しい人々に分け与えたフィリックスは、英雄として祝福されるのだった。

作画は(ヴァン・ビューレンスタジオの作品にしては)良好であり、演出やデザインの面でも以前の作品より非常に洗練された印象を受ける。ウィンストン・シャープルズによる音楽も良い。1936年という公開時期、そして予算やヒット作に恵まれなかったスタジオの性質を考えると、出色の作品と言えるだろう。
ただこの作品―これは他の『レインボー・パレード』にも言えることなのだが―ストーリーが甘すぎるのだ。ユーモアが少なく、あまりにも王道すぎるのである。
フィリックスはサイレント時代に持っていたいたずら好きで小市民的な性格を捨て、正義感溢れる勇敢な少年に変貌してしまった。ミッキーマウスを演出したバート・ジレットが監督したのだから、ある意味当然なのかもしれないが…。
唯一楽しめるギャグは、フィリックスが自分を砲丸に見立て、大砲を使って海賊船へ飛んでいくというネタだろうか。アニメーション史研究家のレナード・マルティン氏も、このシーンを称賛している。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX (DVD2枚組)

2018年8月21日火曜日

Northwest Hounded Police(迷探偵ドルーピーの大追跡)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1946年8月3日
評価:★10

悪夢的なギャグが素晴らしい、私的ドルーピー最高傑作

ドルーピーが出演する4番目の作品。ドルーピー第一作である『つかまるのはごめん(Dumb-Hounded)』のリメイク作であり、数あるドルーピー出演作の中でも最高傑作(と私は思っている)にあたる名作である。
作画はディズニー出身のウォルター・クリントン、エド・ラヴ、レイ・エイブラムス、そしてプレストン・ブレアの4人。MGM作品ではお馴染みの面々である。
まあこの作品、素晴らしいのなんの。基本的なストーリーはリメイク元である『つかまるのはごめん』を踏襲しているが、ギャグは更にエスカレートし狼のリアクションも冴えに冴え渡り、問答無用の大傑作となった。

アルカ・フィズ刑務所を脱獄したオオカミ。北国に逃げた彼を捕らえるべくドルーピーが彼を追う事になった。追手に気付いたオオカミは急いで小屋に逃げ、一安心したかと思えばなんとそこにいるのはドルーピー!オオカミは山の頂上、海底、空港、映画館と様々な場所へ逃げ回るがどこに行ってもドルーピーが待ち構えている。哀れなオオカミは待ち構えるドルーピーを見る度に超絶的なリアクションを披露。
それならと整形手術を試してみるが整形後の顔はドルーピー、実は外科医の顔もドルーピー。絶望したオオカミはライオンの口の中へと飛び込むがそこにもなんとドルーピー。最終的に彼が逃げ込んだ場所は刑務所の檻の中、これでやっとドルーピーの顔を見なくて済むと安堵するのだったが…。衝撃のオチが待ち構えている。

全く、何もかもが素晴らしい作品。まず、冒頭から電気椅子の入り口に『お座り下さい』なんて看板がかかってあるというブラックなギャグが炸裂するのだから最高だ。鉛筆で扉を描いてそこから脱獄する、という『Porky in Wackyland(ポーキーのヘンテコランド)』を彷彿とさせるアニメらしいギャグも楽しい。
そして何より、オオカミが慌てふためき逃げ回るリアクションの面白さ。目ん玉は飛び出し顎は外れ手足はバラバラに…いやはや、『アヴェリー節』全開である。
特に映画館のシークエンスは素晴らしく、「逃げ回る余りフィルムから飛び出してしまう」という『つかまるのは~』から流用したギャグに始まり、スクリーンに映し出されるのはドルーピーだというメタ的なギャグ、そしてそれを見たオオカミのとんでもない驚きっぷり、どれもが最高に面白い。
スコット・ブラッドリーによる音楽ももちろん抜群、作品に満ちている狂気をさらに増幅させている。
オオカミが逃げ回る先にはいつもドルーピーがいる、たったそれだけの事が7分に亘って繰り返されるのに、なぜこんなに面白いのか。とにかく、悪夢的なギャグが冴え渡る奇跡の傑作なのである。


収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection

2018年8月6日月曜日

Reducing Creme

監督:アブ・アイワークス
公開日:1934年5月19日
評価点:★7

コミカルな動きがとにかく楽しい一作


『カエルのフリップ』に次ぎアイワークス・スタジオが製作した『ウィリー・ホッパー』第9作。作画は『Talkartoon』時代のフライシャーで頭角を現したグリム・ナトウィック、バーナード・ウルフの二人。この二人はフライシャー時代に培ったニューヨーク流の軽快な作画スタイルが特徴だったのだが、本作でもそんな魅力が遺憾なく発揮されている。

『痩せクリーム』をマリーに勧められたウィリー。彼はクリームにまつわる災難の話を始める。ある日、ウィリーはネズミをいじめている猫に気付かず猫のシッポを踏んづけてしまう。怒った猫はウィリーに『痩せクリーム』をかけてしまう。すると、みるみるうちにウィリーの体は縮まっていき、ネズミ程の大きさになってしまった。猫に散々にあしらわれてしまうウィリーだったが、なんとか逃げ出し厨房へたどり着く。
厨房では、男がパンを作りながら太った女とイチャイチャ。ウィリーは後を追って来た猫から必死に逃げるが、太った女の服の中にすっぽりと入ってしまう。猫はパン作りの男の服の中に入ってしまい、男と女の2人は軽快なダンスを踊り始める。
服の中から逃げ出した猫とウィリーは、またまた追いかけっこ。そんな時ウィリーは床に落ちていたイースト菌のブロックを発見、食べてみるとみるみるうちに体が膨らんで元の大きさに戻ってしまった。ウィリーはここぞとばかりに、今度は猫に痩せクリームをかけてやると、猫はネズミと同じ大きさになってしまい、それを見て喜んだネズミは仕返しに猫の目を殴りつけるのだった。

内容自体はよくあるドタバタギャグなのだが、特筆すべきなのは作画である。
この時期のアイワークス・スタジオにはナトウィックやバーナードを始めとするフライシャーから移籍したスタッフが多数在籍しており、代表者であるアブの作風にフライシャー組の都会的なエッセンスが加わったことで、作品は独特の雰囲気を放っていた。
シュールなキャラクター造形、無軌道でドタバタしたストーリー展開、そして時に粗削りだがいつも軽快な作画、活気に満ちた音楽。これらが当時のスタジオの特徴だった。
この作品では、太った女とパン作りの男がダンスを踊るシーンがフィーチャーされる。このシーンにおけるキャラクターの動きが、まぁ格別なのだ。軽快で、リズミカルで、とにかく愉快!
『カエルのフリップ』や『コミカラー』でもダンスシーンは散見されるのだが、こうしたダンスシーンはまさしくフライシャー的でとても楽しい。
それ以外のシーンでも、ウィリーが縮む時の演出など、このシリーズの中ではトップクラスと言って良いほどの良質な作画や演出が目白押しである。一見の価値があるだろう。



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年8月2日木曜日

Rival Romeos(ライバル・ロメオズ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1928年5月5日
評価:★8

『ミッキーマウス』の原点ともいえるギャグが盛りだくさん


1928年に入り、デザインが丸っこくなって後のミッキーマウスのようなプロポーションになったオズワルド。アニメーションの質も飛躍的に向上し、この頃から後の『ミッキーマウス』『シリー・シンフォニー』といったシリーズに通じる魅力が垣間見えるようになる。
このギャグに溢れた愉快な短編も、そんな1928年度の作品。作品単体でも魅力的な本作だが、この作品を語る上でどうしても外せない点が一つある。それは、数あるオズワルド作品の中でも、後の短編に使い回されたギャグが非常に多いという事なのだ。

彼女のオルテンシアに会いに行くオズワルド。その後ろにいるのは、ブルジョアな身なりをした恋敵ピート。2人は車で競争するが、なんとかオズワルドが先にオルテンシアの家に到着。オズワルドは彼女に歌をプレゼントしようとするが、ヤギに楽譜とバンジョーを食べられてしまう。仕方なくオズワルドはヤギをオルガンに見立てて音楽を演奏するのだった。
ところがそれをうるさく思った隣人の猫が花瓶や額縁を投げてくる。オズワルドがそれらを避けるのに必死になっていると、ようやくピートがオルテンシアの家に到着。二人はオルテンシアを力ずくで取り合いっこしたため、オルテンシアは激怒してしまった。
結局オルテンシアは三番目にやってきたのっぽの犬と一緒にデートに出かけてしまい、ピートとオズワルドはお互いの腰を蹴り合うのだった。

テンポが良くギャグも豊富、それにアニメーションも流麗で、作品単体で観ても十分に楽しい本作品なのだが、注目すべきなのはそれだけではない。
前述した通り、この作品には後のディズニー作品、そしてアイワークス・スタジオ作品に流用されたギャグが数多く見られるのだ。以下、流用されたギャグを筆者が気付いた範囲内で列挙する。

1.冒頭のオズワルドとピートが車で競争するギャグ
『Ragtime Romeo』1931年
(カエルのフリップ、アイワークススタジオ作品)
2.楽譜にハエが止まり、音符と間違えて弾いてしまうギャグ
『名指揮者ミッキー(The Barnyard Concert)』1930年
(ミッキーマウス)
3.オズワルドの口が画面一杯に広がるギャグ、ヤギが楽譜とバンジョーを食べてしまうギャグ、ヤギをオルガンに見立てて演奏するギャグ
『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』1928年
(ミッキーマウス)
4.隣人が壺や額縁をオズワルドに投げつけるギャグ
『カーニバル・キッド(The Karnival Kid)』1929年
(ミッキーマウス)

と、一つの短編内で4つのギャグが後年使い回されているのである。しかもリメイク作としてではなく、それぞれ別作品でギャグのみ拝借しているのだ。特に、ヤギのギャグに関してはあの『蒸気船ウィリー』で作品の要となる要素として再利用されているのだから面白い。
『ミッキーマウス』の原点は、やはりオズワルドだったのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版