2018年2月27日火曜日

Babes in the Woods(魔法使いの森)

監督:バート・ジレット
公開日:1932年11月19日
評価点:★6

「シリ―・シンフォニー」の転換点


シリーシンフォニー第32作、カラー製作が開始されてから間もない頃に制作された一篇。古いおとぎ話「Babes in the woods」に、グリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」のエッセンスを多分に入れながら独自に脚色して完成した『ディズニー流おとぎ話』である。

アニメーションについては1932年のディズニー作品と考えると概ね及第点と言うべきか。「魔女の家」や「不気味な森」の美術設定は、5年後の「白雪姫」にも繋がる怪奇的な魅力を放っている。また冒頭の魔女の岩を紹介するシークエンスについても、そのアニメーション、背景美術の美しさは特筆すべきであろう。

だが、キャラクターのデザインや作画に関しては…少し微妙と言わざるを得ない。特に子供たちのデザインについては―32年製作だという制作時期を考慮してもお世辞にも秀逸とは言えないー、かなり凡庸なものである。
小人についても同様で、同時期に制作された秀作『Santa's Workshop』(1932)とほぼ同じデザインにもかかわらずその魅力が『サンタ』に比べて充分に発揮できなかったのは残念だと言う他はない。

しかし、この作品が公開された32年11月に、ディズニーでは作品クオリティの向上を図るため、スタッフを集めてシュイナード美術学校の夜間部で独自にアート・クラスを開くようになる。
そのためこの作品以降、スタジオでは驚異的なスピードで作品の完成度が向上していくのだ。そういう意味では、この作品はディズニーにおける『古典的なアニメーション』からの転換点とも言えるだろう。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月23日金曜日

Betty Boop's Bamboo Isle(酋長の娘)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年9月23日
評価:★7

妖艶なダンスが楽しい一作


ハワイアン・バンドの「ロイヤル・サモアンズ」が奏でるハワイアンメロディーをバックに、ベティとビンボーが南国の島で一騒動を起こすという一種の探検物。

まずビンボーがウクレレをかき鳴らしながらボートで海を渡るシーンから物語は始まる。この時期(1932-34年頃)のフライシャー作品は総じて作画のクオリティーもトレス精度も高く、安定した独特の完成度を誇っているのも特徴の一つである。ストーリーは一応存在するが、ギャグとダンスシーンの為に後付けされたような物だ。そう、この作品の要となるのはハワイアンミュージックと共に繰り広げられるそのダンスシーンなのである。

ステレオタイプな先住民族に襲われそうになったビンボーは、顔に泥を塗りたくり頭に骨をぶっ刺す(!)事で自分も先住民族になりきり窮地を脱する。
ビンボーを仲間だと思った先住民たちは、彼に丁重なもてなしをする。そのもてなしの一つが、ロトスコープを用いて作画されたリアルなフラダンスだ。
フライシャー兄弟自身が1919年に発明し、サイレント期の作品のみならず『ベティの家出』(1932)等で絶大な効果を上げたフライシャー定番の手法であるが、本作品でも効果的に用いられている。

そして何よりこの作品の最大の魅力は、同じくロトスコープによって作画されたベティの妖艶なフラダンスシーンであろう。
陽気なハワイアンミュージックをバックに、ベティが滑らかなフラダンスを披露する。この頃の作品群はベティのセクシーさが最も過激になっていた時期にあたるのだが、この作品ではその性的な魅力が最も露骨に表れた例と言えるだろう。

そうしてビンボーは島でのひと時を楽しむのだが、突然雨が降ってくる。当然顔に塗っていた泥は溶けてしまい、怒った先住民に追いかけられるビンボーとベティ。
ノリノリのウクレレをBGMに、しばらくシュールな逃走劇が繰り広げられる。最終的に二人はうまく逃げ切る事に成功し、キスをして物語は終わる。お馴染みのオチである。
ベティ黄金期である32ー33年の数ある作品群の中でも、ハワイアンな空気が美味しい異色の一篇だ。

 

※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年2月20日火曜日

The Country Cousin(田舎のねずみ)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1936年10月31日
評価点:★8

ディズニーのシニカルな一面が光る傑作


シリー・シンフォニーの中でも中期にあたる作品であり、第9回アカデミー賞における短編アニメ賞を受賞したアニメ史に残る傑作。良く知られたイソップ寓話の『田舎のネズミと町のネズミ』をシニカルかつコミカルな視点で現代風にアレンジし、この21世紀となった現在でも充分すぎる程に楽しめる作品となっている。

あらすじはよく知られた物なので割愛するが、この作品ではその古典的なストーリーに、『白雪姫』の製作に向け格段とクオリティを向上させていったディズニーだからこそ実現できたリアルかつ愛らしいアニメーション、従来の作品とは一線を画すシニカルな視点、田舎ネズミと都会ネズミの対照的なキャラ設定を付け加える事で、寓話を素晴らしいエンターテイメント作品へと昇華させている。
印象的なシーンを述べるとすると、まずはお酒を飲んで酔っ払った田舎ネズミのコミカルなシークエンスが挙げられる。
ゼリーに映った自分に喧嘩を売るギャグや、猫の恐ろしさを全く気にせず縦横無尽に暴れまわるといった要素は、「トムとジェリー」等の1940年代におけるカートゥーンに繋がっていくと言えよう。終始紳士的かつ臆病な態度をとる都会ネズミとの対比も面白い。

また、この作品の最大の見どころともいえる迫力満点のシークエンスといえば、田舎ネズミが街の道路にうっかり出てしまったばかりに、雑踏や車や電車に踏みつぶされたり轢かれそうになったりと散々な面に遭った挙句、擬人化されたクラクションの数々に襲われるスリリングな一連のカットが挙げられよう。
遠近感がばっちり効いており、迫力満点。それでいて程よくリアリティのあるスピーディーな作画は作品に物凄い臨場感を与えている。フライシャーを思い起こさせる擬人化されたクラクションがネズミに怒鳴るシーンでは、ある種のトリップ感覚を味わう事ができる。
この一連のシークエンスについては、当時のクリエイター達にも多大な影響を与えたと思われ、後にフライシャーの「バッタ君町に行く」(1941)やハンナ=バーベラの「ジェリー街へ行く」(1945)で酷似したアングルが用いられている。

とにかくその演出やアニメーションの巧みさは、30年代後半におけるディズニーの真骨頂とも言うべきであろう。黄金期に達していたディズニーの豪華爛漫な作品群の中でも、特に愛すべき一篇である。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月19日月曜日

A Lad and His Lamp

製作:ポール・テリー(実制作を担当した監督はクレジット未記載のため不明、フランク・モーザーか?)
公開日:1929年3月2日(3月10日とする文献あり)
評価:★6

典型的な20年代スタイルが楽しい作品


1920年代を通じて制作され続けた、サイレント期におけるポール・テリーを代表するシリーズ『Aesop's fables』。そのシリーズ中でも末期にあたる作品で、作品のトーキー化を巡ってオーナーであるヴァン・ビューレンと衝突したテリーはこの後4作品の製作を指揮した後スタジオを去る。
その後残留スタッフであるジョン・フォスターらによって同シリーズの製作は続行されるのだが、この作品ではまだそういった波乱が起きる直前の、20年代初期と何の変化もない『典型的なファーブルもの』な雰囲気を楽しむ事ができる。(恐らく音楽はテレビ用にフィルムが再販売された際に改めて付けられたものであり、本来はサイレント作品であったと思われる。)

美容室を営む女ネズミと、彼女を愛する勇敢な男ネズミ、ふたりの仲を引き裂こうとする悪い王様ネコとキャラクター設定もありきたり。ギャグも特別映えるものは殆ど見当たらず、こじんまりとしたストーリーが程良くスリリングに進むといった趣である。

ただ、この作品はこの時期のファーブル作品の中ではかなり出来が良い部類に入れるべき作品であろう。同時期の他の作品と比べてストーリーがかなりしっかりしており、作画も比較的滑らかに、かつ躍動的に動いているからだ。

特に男ネズミが猫の城に侵入後お化けに襲われるシークエンスに関しては、その背景の精密さや、20年代では異例といえる遠近感と躍動感のある作画が見受けられる、という点で特筆すべきである。

そしてもう一つ注目すべき点は、『ミッキーマウス』の短編『The Gallopin' Gaucho』(1928)と酷似したシーンが存在している事だ。
ディズニーの短編が公開されたのはこの作品が公開された4か月前の28年12月30日であり、この作品がミッキーを参考にしたかどうかはわからない。だが、いずれにしろトーキー移行期の作品群を知る上で興味深い作品である。

※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年2月16日金曜日

The Tortoise and the Hare(うさぎとかめ)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1935年1月5日
評価点:★7

ギャグの新境地を開いたディズニーが放った快作


シリー・シンフォニー第49作。『Three Little Pigs』(三匹の子ぶた)でキャラに今までに無かった個性を与え、強烈な印象とギャグを観客に植え付ける事に成功したディズニーが再び放ったギャグアニメ―ション。
話の大筋、登場するキャラクターに関してはイソップ寓話の「ウサギとカメ」に沿っているが、この作品ではその有名な寓話に適度なスパイスを適度に加え、古き良き童話を痛快な快作に仕上げている。

まずウサギの設定から、今までに無かった個性が溢れている。吊り上がった目、スマートなスタイル、女たらしかつニヒルな性格。しかも甲高い声でよく笑う。所謂トリック・スター的なキャラ設定だが、これは後のウッドペッカーやダフィーダック、バッグスバニーへと発展していく様式の原型ではないだろうか。
対するカメ、こちらはもっぱら田舎臭く従来のディズニーデザインを踏襲したかのようなのんびりとした設定。この二つのキャラの対比が作品の面白さを更に深めているといえよう。

ストーリーは概ね原作を踏襲しておりしっかりと筋が通っているが、先程にも述べた通り幾つかのアレンジが加えられている。
例えばウサギは一旦昼寝をするもののすぐに飛び起き、その次には女たちとテニス遊びに興じている。彼の女たらしで陽気な一面が強調された名シーンである。
ここで彼は一人テニス、一人野球を次々と披露するのだが、この一連のシーンのスピード感たるや半端ではない。
対するカメはのんびり、コツコツとひたすらに走っている。こちらは大きなアレンジが加えられる事は無かったが、最後に首を伸ばしてゴールするといういかにもなギャグで締められる。

30年代の旧式なスタイルから、40年代のリアリティを重視しつつ破壊的なギャグを得意としたスタイルへと変化していく過程がわかる、興味深い作品である。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月15日木曜日

Betty Boop, M.D.(ベティ博士とハイド)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年9月2日
評価:★9

トリップ描写が冴え渡る、狂気の一作


数多くの傑作を残したベティ・ブープシリーズの中でも私が特に大好きな一篇。セクシーな描写とシュールな演出が最も過激になっていた、ベティ黄金期ともいえるこの時期(1932ー33年)の作品の中でも、特に狂気の成分が詰まった屈指の問題作と言えよう。何しろ扱っているテーマはドラッグなのだ。

物凄い坂を上がり下がりしてやって来た、ベティ率いる販売車。何やら売っているのは「ジッポー」という薬のようだ。お馴染み道化師ココがシュールなギャグを披露するが、客はまだ薬を買う気はない様子。そこでベティが登場、薬の効能を観客に歌で伝える。
すると幾人かの客が登場。やせっぽちの男は見事な肥満体に、老人は赤ちゃんに赤ちゃんは老人に、髭は髪の毛に変わりと次々に効能が現れる。
ここでビンボーが薬を飲みながらスキャットを披露。スキャットに合わせて客はどんどん増え、薬を飲んだ人々は次々におかしな変化を遂げていく。義足は手になり老人は墓になり花は歌い体から骨が飛び出るといった有様、もはや秩序などどこにも存在しない。
極めつけはスキャットに合わせて動物たちが変幻自在に伸び縮みしながら行進するシーンだろう。この一連のシークエンスから溢れ出る狂気の勢いは半端じゃない。こちらまで気が狂いそうになる。
そうしたクライマックスの中、赤ん坊が薬を飲むとアニメーションはオチに向かって暴走していく。
赤ん坊はヨーデル風のスキャットを歌い始めみるみるうちにリアルな顔つきの化け物へと変化し(このシーンは同年公開の映画『ジキル博士とハイド氏』のパロディである)、化け物となった彼の奇声でこの作品は終わる。オチで何もかもをぶん投げてしまうセンスが素晴らしい。

…とまあ、この時期のフライシャー作品全てに言える事ではあるが、あらすじを書く事なぞ不可能な怪作である。シュールなアニメーション、無軌道なストーリー、奇怪な表現、全てにおいて狂気に満ちている。作画を担当したウィラード・ボウスキーとトーマス・グッドソンは何かクスリでもやっていたんじゃないのかと邪推してしまうほどだ。だがこの作品は何もノリだけが全て、という訳ではない。卓越した作画技術を持っていたからこそ生まれた傑作なのだ。
この作品のスキャットに用いられた『Nobody's Sweetheart Now』は1924年に発表されたヒットソングで、こちらのスウィンギ―BGMもまたこの作品の盛り上がりに貢献したといえよう。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

おんぶおばけ(16ミリフィルム版)

監督:横山隆一
公開年:1955年
評価点:★5

素朴かつ抒情的。伝説のおとぎプロ第一作


2018年2月4日に『発掘された映画たち2018』にて上映された幻のアニメ映画。カラーで制作された23分の中篇である。
この作品は、後に『ひょうたんすずめ』『おとぎマンガカレンダー』『五万匹』等数々の実験アニメを制作する事となり、日本アニメ界の重鎮である山本暎一氏や鈴木伸一氏らを輩出した『おとぎプロ』の第一作である。後にTCJ(現在のエイケン)により72年にテレビアニメ化されるが、こちらには「むかしばなし制作」を除いておとぎプロは関わっていない様子。(横山氏は原作・監修としてクレジット)

一見素朴に見えて実はモダンでハイセンス、かつシニカルな作風を得意とするおとぎプロだが、第一作であるこの作品では『素朴』な雰囲気がかなり押し出された作風となっている。後の『まんが日本昔ばなし』にも通じる抒情的で手作り感の溢れる作品だった…という表現が適しているだろうか。
またフジ・イーストマン・アンスコと三種類のカラーフィルムをシーン別にミックスして制作されていた事で、シーン毎に色合いがかなり変わっていたのもなかなか興味深かった。

フィルムの状態は残念ながら決して良好とは言い難く、修復が望まれる。機会があればまた見返したい作品である。
(『発掘された映画たち2018』にて上映)

2018年2月12日月曜日

Birds of a Feather(共同作戦異常なし)

監督:バート・ジレット
公開日:1931年1月23日
評価点:★5

みんなでやれば怖くない、小鳥軍団が鷹に戦いを挑む


シリー・シンフォニー第16作。タイトルはアメリカの慣用句『Bird of a feather』から採られているが、本編はというと何の事はない、ディズニー作品で何度となく用いられてきた勧善懲悪ものである。
ある湖の近く、小鳥たちは平和に暮らしていた。フクロウは歌い鶏は子どもを育てる。そんな平穏な日常が続くかと思いきや、突如彼らを狙う大きな鷹が現れた。彼はヒヨコを誘拐し、自分のエサにしようとしたのだ。そこで怒った小鳥たち。彼らは軍団を組み、集団で鷹に襲い掛かる。あえなく敗北した鷹は、真っ逆さまに地面へと落ちていく。こうして無事にお母さんの元に帰ってこれたヒヨコとその仲間たち。お母さんは息子をしっかりと抱きしめるのだった。

ストーリーはきちんと筋が通っているが、これといって面白みがある訳ではなく至って平凡。作画・演出面から見てもまさに判で押したような30年代初期のディズニー作品である。
だが、冒頭のフクロウや小鳥たちによる歌のシーンは見ていて楽しく、ディズニーならではの牧歌的な雰囲気を味わう事ができる。また、小鳥軍団が鷹を襲うシーンもなかなか迫力がありこちらも結構楽しめる。
特別惹きつけられる何かがある、という訳ではないが、7分の間幸せなひと時を過ごす事ができるディズニーらしい佳作である。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月10日土曜日

The Skeleton Dance(骸骨の踊り)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年8月22日
評価点:★9


シンプルかつ緻密、アニメ史に残る不朽の名作


30年代のアニメ業界を震撼させ、商業アニメに数多くの革新をもたらした『シリー・シンフォニー』シリーズの記念すべき第一作であり、今なおその魅力が衰える事のない不朽の名作である。
まず作品は雷と共に大きな目が映るシーンから始まる。カメラが遠ざかると、それはフクロウだった事がわかる。この一連のシーンから、この作品の雰囲気、方向性がすぐに理解できる。次に二匹の黒猫が軽妙なやり取りを交わす。その時突如登場するのが、不気味な一人の骸骨。彼はカメラに向かって大きく飛び込む。この臨場感はそれまでのカートゥーンとは一線を画すものである。

そしていよいよこの作品の醍醐味でありアニメ史に残る名シーンでもある、『骸骨の踊り』が始まる。
このシーンではカール=ストーリングによる音楽とアブ=アイワークスが手がけたアニメーションが完璧に融合し、見事なまでに完璧な視覚効果を上げているのだ。
同時期に制作されたカートゥーンにおいて、怪奇趣味と音楽が融合した好例としては他にフライシャーの傑作『Swing You Sinners!』(1930)が挙げられるが、この作品ではさらに計算し尽くされた演出・作画となっている。コミカルかつ繊細なダンスやギャグが流れるように展開し、朝日が昇ると骸骨たちは自分の墓へと戻っていく。

この作品のストーリーは至って単純で、込み入ったギャグも壮大な作品設定も無く、骨組みは至ってシンプルである。だが、この『骸骨の踊り』はその音楽とアニメーションの融合の見事さ、計算し尽くされた作画と演出において同時期における他社の作品群を圧倒している。そして、現在でも衰える事のない輝きを放ち続けているのだ。

この作品は、当時のディズニーのキーパーソンであり、後に自身のスタジオを立ち上げる事となるアブ=アイワークスがほぼ一人で作画したといわれている。彼は後にコロムビアで『Skeleton Frolics』(1937)という本作のリメイク版を監督するが、この作品の持つ魅力には敵わなかった。


※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月9日金曜日

Chess-Nuts(ベティの将棋合戦)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年4月13日
評価:★7


異様なテンポでギャグが繰り広げられる爆笑作


『Talkartoon』第38作、シリーズの中でも後期に位置する作品。今回主役を張るのは既にフライシャーの花形となっていたベティ・ブープ。脇役として先代のスターであるビンボーとココも登場する。

作品は実写から始まる。老人2人が楽しんでいたチェスから現れたのは『黒のお姫様』のベティと『白の王様』のビンボー。2人は何やら仲良さげだが、そんな時に醜い老人である『黒の王様』が2人を引き離す。
こうして始まった白vs黒の爆笑バトル。もはやチェスなどお構いなし、タッチダウンだの肉弾戦だの大騒ぎ。
果たしてベティ、そしてビンボーの運命は…?

この作品からは、トーキー初期におけるフライシャー作品の大きな魅力であるスウィング的なノリはあまり感じる事が出来ない。だが、全編に渡って繰り広げられる奇妙なギャグ、時たま挟み込まれるベティのセクシーなシークエンスでは、ベティの魅力を思う存分に楽しむ事ができる。
驚くべきなのはそのテンポの良さである。『笑えるギャグ』がハイテンションなノリで大量に放たれるのだ。これはこの時期の作品では異例と言って良いだろう。後に『ポパイ』で完成された破壊的なギャグセンスは、既にこの作品でその片鱗を見せている。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年2月8日木曜日

Koko in Toyland

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1925年1月20日
評価:★5

おもちゃの国を舞台に繰り広げられるドタバタ劇


初期フライシャーの主力シリーズ『インク壺の外へ』では中期にあたる作品。
自分もおもちゃが欲しいと駄々をこねる道化師ココに、マックスおじさんは様々なおもちゃを描いてやる。
喜ぶココだが、勝手に動き始めた泥棒人形がお嬢様人形を誘拐してしまう。ココはお嬢様人形を助けてやろうと木馬でひとっとび…のはずがしょせん木馬、びくとも動かない。
仕方なくココは自力でお嬢様を救出する。だがお嬢様も人形、抱き着いた瞬間バラバラに。
怒ったココは現実世界へと飛び出し、おもちゃを好き放題に動かすのであった。

作品のストーリー構成は平凡、オチも『現実と漫画の融合』という同時期のインク壺作品でよく用いられた物であり、特徴的な面はあまり見当たらない。
だがおもちゃの奇妙なデザインや作品内で何度も登場するその奇抜な発想からは、初期のフライシャーが持っていた独創的な一面がしっかり伺える。
またこの時期の『インク壺』シリーズは1950年代にテレビ・家庭用の16ミリフィルムとして再販売されており、その際に新たに追加されたウィンストン・シャープルズによる軽快なサウンドトラックも作品の魅力を一層高めている。

※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年2月6日火曜日

小人の電話

監督:薮下泰司
公開日:1953年4月17日
評価点:★5


日動が制作した幻のPR映画

2017年11月26日に『神戸発掘映画祭』にて上映された後、18年2月4日に『発掘された映画たち2018』にて改めて上映された実写併用のPRアニメ作品。26分ものの中篇である。
この作品は、まず53年当時としては異例のカラーフィルムでの制作となっている。(用いられたプロセスはフジカラー・ニュータイプとの事)
また、後に東映動画の源流となる日動映画がアニメ制作を担当し、作画には若き日の古沢日出夫や森康二、音楽はクラシック界の重鎮である服部正がそれぞれ担当していたという豪華っぷり。電電公社がスポンサーを担当した、電話のマナーを説くPR映画である。


《内容解説》
ある小人の国に電話が流れつく。これを小人の国の大臣達が研究し、いよいよ電話が完成する。王様は大変喜び、自身の娘と電話大臣の息子とを結婚させるよう命じる。2人はどうやら相思相愛のようだ。
ところが、電話は一向につながらず、聞こえてくるのは雑音ばかり。電話の実験は失敗に終わったのだ。王様は激怒し、2人を無理やり引き離してしまう。電話大臣とその息子は、調査団として電話の先進国である『日本』にはるばる旅に出る事になった。
そして実写パートが始まる。実写の女性が登場し、ミュージカル調に歌いながら電話の『三つの音』について小人達、そして観客達に説明する。
ここからの小人はフライシャーの『インク壺』のような実写合成スタイルで登場し、電話局のおじさんと共に電話の仕組み、マナーについて学習していく。
電話についてしっかり理解した小人達は、意気揚々と自身の国へ帰っていった。
一方小人の国では、愛する電話大臣の息子に会えない姫が、日に日に体調を悪くしていた。王様は姫の体調を心配し、国中に静かにするよう命じたそんな時、調査団が帰ってきたのだ。姫は大変喜び、先程までの病状が嘘のように回復する。
そしていよいよ二度目の電話実験。調査のかいあって、ついに実験は成功した。2人は電話を通じて、お互いの名前を呼び続けるのであった。

本編はこういった内容であった。おとぎ話と電話のPR要素を上手く絡め、時にはギャンブルネタ等のユーモアも交えながら大衆に電話のマナーを説く、興味深い快作という印象。
関わっていたスタッフの豪華さから、さぞ本編も豪華爛漫なのだろうと期待していたのだが、作画自体は50年代アニメにしてはいささか物足りない感じだった。動きやデッサンはぎこちなく、枚数もかなり抑えている印象を受ける。予算の関係でかなりエコノミーに作っていたのだろうか。

1950年代のPRアニメ作品を観るのはこれが二度目だが(一度目は『ガリヴァー奮闘記』)、その時代特有の空気感やクリエイターの息遣いを感じる事ができ、とても興味深い作品だった。見る機会があれば、何度となく観てみたい作品である。

2018年2月5日月曜日

日乃丸旗乃助 ギヤング討伐

監督:不明
公開日:不明(1930年代?)
評価点:★3

『発掘されたアニメーション映画1』にて上映された玩具映画4本の内の1本。
こちらは1930年代に活動していたライオンフィルムのロゴマークがフィルムに焼き込まれていたため、『飛行家の夢』よりも少し後の時代であろう30年代の制作と思われる。
タイトル自体は中島菊夫による戦前の人気漫画『日の丸旗之助』を冠してはいるものの、キャラクターデザインに関してはむしろ『ドングリドン助旅日記』に近いギョロ目をした少年が主人公となっている。
ストーリーは至って単純明快。動きや演出については同時期の玩具映画特有の独特な雰囲気を踏襲した物となっているが、先程にも述べた通り『キャラクターデザイン』が他の作品とは一線を画す物となっていた。
(『発掘された映画たち2018』にて上映)

飛行家の夢

監督:不明
公開日:不明(1920年代?)
評価点:★3

『発掘されたアニメーション映画1』にて上映された玩具映画4本の内の1本。
他の3本は『ライオン印』がフィルムに焼き込んであったが、これのみ一切のクレジットが無く何の情報も掴めなかったのが惜しい。

ただ最後に一瞬だけ『おわり』というテロップが焼き込んであり、このテロップが恐らく『浦島太郎(仮)』と同一の物だった事が気になった。(恐らく左図の物がエンドカードとして用いられていた)

そしてこの作品、雰囲気や作画が他の玩具映画作品と比べてかなり異質だったのだ。用いている手法は恐らく切り紙だと思うのだが、動きやストーリーの稚拙さに比べて絵自体はバタ臭くなかなか上手いという不思議な作品。恐らく1920年代頃の制作なのではないかと推測する。

(『発掘された映画たち2018』にて上映)

なまくら刀(新最長版)

監督:幸内純一
公開日:1917年6月30日
評価:★7

3度の発掘を経て鮮やかに蘇った日本アニメの原点


日本アニメの歴史について少しでも知っている方は、一度は聞いた事があるであろう、現存する日本最古の商業アニメーションといわれる記念碑的作品『なまくら刀』。
これまで2007年、2014年の2回に亘り発掘・復元されてきた。(それ以前にもフィルムコレクターの杉本五郎氏がフィルムを所持していたらしいが、1971年の火事で焼失したとの事[出典])
今回『発掘された映画たち2018』にて上映されたバージョンは、去年発掘されたフィルムを加え新たに復元処理を施した新最長版。今まで確認されていなかった幾つかのシークエンスを追加した上での上映となった。

ストーリーは至ってコミカルかつ明朗である。刀を買った侍が、試し斬りをしようと按摩と飛脚に襲い掛かるが、逆にまんまとやられてしまい、挙句の果てには刀まで折れ曲がってしまうというオチが付く。

この作品の最大の魅力は、やはり卓越した人物描写の細かさが挙げられる。切り紙アニメの長所を上手く生かした作風となっており、キョロキョロ動く目や豊かな表情、その全てが生き生きとしている。また後半の影絵をモチーフとした演出も素晴らしい。
日本アニメ最初期の作品にして、完成された繊細かつコミカルな雰囲気を既に築き上げていたというのはまさに驚くべき事である。

今回上映された『新最長版』では、今回新たに発掘されたシーンが幾つか追加された。
まず按摩が侍を蹴飛ばした後にニヤリと笑うシーンだが、これには実は続きがあり、この後按摩は大口を開けて笑うのである。
また、飛脚が侍から逃げるシーンも今回新たに発掘され、飛脚が木陰に隠れたりといった幾つかの細かいネタがこの一連のシーンで行われていた事も判明した。

こうして日本アニメ最初期の快作が3度の発掘を経て、ほぼ完全な形で見る事ができるようになったのは幸運以外の何物でもない。
『なまくら刀』のみならず、黎明期の日本アニメが更に発掘され、注目を浴びていく未来が来てほしいものである。


なまくら刀[デジタル復元・最長版][白黒ポジ染色版] | 作品詳細 | 日本アニメーション映画クラシックス

なまくら刀[デジタル復元・最長版][白黒ポジ染色版] (The Dull Sword [the longest, digitally restored version]) 製作年:1917年 監督:幸内純一。国産アニメーション映画が誕生した1917年に公開された現存する最古の作品。
(『発掘された映画たち2018』にて上映)

2018年2月2日金曜日

Bobby Bumps' Tank

監督:アール・ハード
公開日:1917年12月30日
評価点:★5

『戦車』を扱った最も初期のアニメ

先日テレビアニメ『ガールズ・パンツァー』を視聴してまんまとその魅力にハマってしまった。まだTVシリーズ・OVAしか視聴できていないニワカではあるが、近いうちに劇場版・現在公開中の最終章と続けて見ていきたい。
それはさておき、今回はブレイ・スタジオ初期の代表作であり、セル方式を用いた最初期の商業アニメシリーズである『ボビー・バンプス』の一作についてレビューする。

ある日ボビーとその愛犬フィドが作ったのは、なんと馬で動く戦車。この戦車を使ってボビー達はおじいさんが経営する農園に侵入する。彼らは農園でやりたい放題にいたずらするが、結局戦車は壊れてしまいおじいさんにいたずらの後始末を命令されてしまう。
演出や作画は制作年代を考えると概ね及第点だが、この作品の最も注目すべき所は当時最先端だった『戦車』を作品のテーマに用いた事である。


当時は第一次世界大戦の真っ只中であり、ヨーロッパにて戦車が導入され始めたのはちょうどこの作品が製作された時期(1916~17年頃)である。つまり、この作品は『戦車』を扱った最も初期のアニメーションなのだ。
そして、この頃からアニメーションは『時代を映す鏡』としての一面を持っていた事がよくわかる重要な資料でもある。



※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年2月1日木曜日

Little Orphan Willie

監督:アブ・アイワークス
公開日:1930年9月6日?
評価点:★5

孤児とフリップの楽しいやり取り

『カエルのフリップ』第二作。現在残っているプリントはモノクロだが、この作品も本来は第一作の『Fiddlesticks』と同じく二色式テクニカラーで制作されたという説がある。
過去作『Alice's orphan』(1926)や『Poor Papa』(1927)等で用いられた育児ものの一つ。

あまりにも子供が増えすぎた事に困り果てたネズミのお母さんは、ついに新しく生まれた息子『ウィリアム』を自分の元から手放してしまう。困ったコウノトリは仕方なくフリップの元にウィリアムを届けるのだが…。
正直、ストーリーやギャグのインパクトはかなり弱いと言わざるを得ない。ただただ育児に奮闘するフリップと、やんちゃ盛りのウィリアムの対比を牧歌的に描く事に終始した作品である。
だが特筆すべきシーンも存在している。
電気を消したフリップがゆっくりと扉を開けるシーン(左図)で、暗闇の中で扉から差し込んだ光を効果的に描いているのだ。
この『光と闇の対比』は後に『The Cuckoo Murder Case』(1930)で更に発展した形で使われる事になる。