2018年4月30日月曜日

The Ugly Duckling(みにくいあひるの子)(1931年版)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1931年12月16日
評価点:★8

観客の感情に訴えかける、ストーリーアニメの原点


シリー・シンフォニー第25作であるこの短編は、それまでの同シリーズが持っていた楽しい歌や踊り、美しい情景といった要素が薄くなった代わりに、一貫した強いストーリー性と豊かな抒情性を手に入れた作品である。
原作はよく知られたアンデルセン童話の『みにくいあひるの子』だが、本作品ではそのストーリーを大胆にアレンジし、鶏の下に生まれたアヒルの悲しみや勇敢な行動、最後に掴む幸せをペーソス溢れる表現で描き切った。なお8年後にリメイク版が製作されているが、そちらはアンデルセン童話をほぼ忠実に、より抒情的に翻案している。

この作品の肝は、ストーリーテリングと心理描写の巧みさであろう。
それまでのシリー・シンフォニーは作画レベルこそ一定の質を保ってはいたが、音楽アニメとしての側面が強くストーリーの一貫性、キャラクター描写などに関しては弱いと言わざるを得なかった。観客の感情を揺さぶる、センチメンタルな短編はまだ現れていなかったのである。
ところがこの作品は、それに成功した。一貫したストーリーを持ち、孤独に悲しみ勇気に燃えるアヒルの心情を巧みに表現することに成功したのだ。
鶏のお母さんだけではなく牛、犬、蛙にまで除け者扱いされたアヒルは木に寄りかかって嘆き悲しむのだが、この描写がえげつなく上手い。孤独に悲しむ彼の悲哀が、風に吹かれる落ち葉や物悲しげな音楽で実に見事に表現されている。また、ヒヨコを助けたことで最後にはアヒルが鶏のお母さんに家族と認められるという結末も、ディズニーらしい前向きさがあって好ましい。
作画もかなり高水準であり、竜巻のシーンは現在でも思わず息を呑んでしまう程の迫力がある。リメイク版の抒情性や画の美しさに比べるとどうしても見劣りはしてしまうが、現在でも語り継がれるべき暖かい名作と言えるだろう。

The Ugly Duckling(1925)
なお、この『鶏に育てられたアヒル』バージョンの『みにくいあひるの子』だが、実はこの作品に先駆けること6年前に既にアニメ化されている。ポール・テリーによる「Aesop's Fables」の『The Ugly Duckling』(1925)がそれである。
プロットこそ共通点が多いものの、作品の持つ説得力ではディズニーの圧勝だろう。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年4月27日金曜日

Mysterious Mose(ベティの恐怖の夜)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年12月29日
評価:★8

怪奇的なギャグが冴える傑作


『トーカートゥーン』第14作であり、ベティ・ブープが登場する三番目の作品である。今作に登場するベティは、少し色黒ではあるが前二作よりも少しお馴染みのデザインに近い姿でのお目見えとなる。
Barnacle Bill』や『Swing You Sinners!』と同じくポピュラー・ソングを作品の主題とした作品であり、前二作と同じくかなりの傑作に仕上がっている。やはりフライシャー製カートゥーンとジャズは、切り離すことのできない至高の組み合わせなのだろう。

更に今作は、前半部分がベティの初めてのソロシーンとなっている。『ミステリアス・モーゼ』を時折お色気ギャグを挟みながら、クネクネと歩きながら歌うベティの姿が実に愛らしく色っぽい。
ベティが物憂げに歌っている間に、謎の奇妙な影が彼女の家に侵入する。例によって影の正体はビン坊、ブルース『セント・ ジェームス病院』を口ずさみながら変幻自在に動き回る。この辺りのシークエンスも良い意味で荒唐無稽、テンポも良くて実に楽しい。この作品のビン坊は決まった姿を持っておらず、液体状になったり透明になったりと様々に変化するのだ。
ビン坊に心を奪われるベティだったが、再び曲が『ミステリアス・モーゼ』に変わりビン坊はさらにメタモルフォーゼを次々に展開していく。巨大なトロンボーンを吹き始めたかと思えば終いには爆発してしまい、機械の部品となってバラバラになる。

あらすじなんてこういうタイプのカートゥーンには必要ないのかもしれない。何はともあれこの作品は、色気づいてきたベティやハチャメチャに動くビン坊の愉快なアニメーションを愉しむ一点に尽きるだろう。作画はウィラード・ボウスキーとテッド・シアーズだが、グリム・ナトウィックも一部のシーンに関わっているとの事。30年代のフライシャーはどちらかというとパキッとした作画が特徴のスタジオなのだが、1930年の時点ではまだその傾向はあまり見られず、荒々しい伸び伸びとした動きが楽しめる。

2018年4月25日水曜日

Davy Jones' Locker

監督:アブ・アイワークス
公開日:1933年12月9日
評価点:★6

ウィリーが海底の沈没船で大冒険

『ウィリー・ホッパー』第5作。このシリーズは基本的にモノクロで撮影されたのだが、この作品と『Hell's Fire』の2作品のみ『シネカラー』という二色式のカラープロセスで撮影されている。幸い状態の良いネガが現存しており、今でもシネカラー特有の鮮やかな色彩が楽しめるのだ。

さて、この作品では冒頭にMGMのレオ・ザ・ライオンを擬人化したキャラクターがウィリーを紹介するシーンから始まる。ステージの上でウィリーが話し始めた冒険譚は、なんと海が舞台。仲良く釣りをしていたウィリーとガールフレンドのマリーだったが、海の王様の王冠を釣り上げてしまった事で王様が激怒。ウィリーの船を嵐で沈没させてしまう。
このシーンの作画は迫力満点で思わず息を呑むほどの出来なのだが、実は前年の『Stormy Seas』で使用された原画の流用なのである。
こうして不幸にも海の底に落ちてしまった二人だったが、大きな沈没船に侵入し、幽霊船長や人魚たちと楽しく歌や踊りを繰り広げる。人魚の顔がどことなくベティ風で色っぽいのが面白い。
ところが酔っ払った船長がマリーにちょっかいを出し始め、怒ったウィリーは船長と一騎打ち。見事勝利したウィリーはマリーとキスを交わすのだった。

アイワークス・スタジオらしいシュールなキャラクター造形と滑らかな動き、独特の色彩設計が楽しい作品だが、やはりストーリーやギャグのインパクトに弱さを感じてしまうのが惜しい。



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年4月22日日曜日

Toyland Adventure(原題:Toy Time)

監督:ジョン・フォスター&ハリー・ベイリー
公開日:1932年1月27日
評価点:★6
Toy Time1

二匹のネズミが織りなすおもちゃのファンタジー


ポール・テリーが1929年にヴァン・ビューレンの下を去った後、ジョン・フォスターら残留スタッフによって製作が継続された『Aesop's Fables』。ヴァン・ビューレン・スタジオは作品数こそ多かったものの、粗野なデザインや未熟な作画などが目立ち、アニメーション技術では他スタジオと比べて苦戦を強いられた。
それでも、このスタジオは確かな独自性を持っていた。それは奇抜なアイデアと、ジーン・ロデミックによる抜群に楽しい劇伴音楽である。ジャズやポピュラーソングをふんだんに取り入れた軽快な音楽はスタジオの作風と実にマッチし、時には30年代前半のカートゥーン中最高ともいえる効果を発揮する事もあった。
Toy Time2この作品はそんなジーン・ロデミックの劇伴が最高の効果を発揮した作品の一つである。

主人公はどことなく有名なネズミを想起させるネズミのカップル。(実はこの作品以前に更に某ネズミに酷似したネズミカップルも幾つかの作品に登場していたのだが、こちらはディズニー側の提訴により使用されなくなったとの事だ)
真夜中のおもちゃ屋に忍び込んだ二人は、軽快なマーチ『Siamesische Wachtparade』に乗せて楽器を演奏したりおもちゃで遊んだりと大冒険。
ところが二人を狙う大きな黒猫が現れ大ピンチに。二人は機転を利かせてオモチャで黒猫を見事退治し、ロマンチックに『Goodnight Sweetheart』を歌うのだった。

この作品は少し『シリ―・シンフォニー』風になっており、スタジオの特長である『アイデアの奇抜さ』が薄くなってしまっているのが残念だが、ストーリーは筋がきちんと通っておりなかなか上出来である。背景美術はかなり凝っており、アニメーションも悪くない。この時期の『Aesop's Fables』としてはかなり出来の良い作品と言えるだろう。



※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1930s

2018年4月20日金曜日

Sinkin' in the Bathtub(浮世風呂)

監督:ヒュー・ハーマン&ルドルフ・アイジング
公開日:1930年4月19日
評価:★5

伝説は、浴槽から始まった


1940年代から50年代にかけてアメリカン・カートゥーンの黄金時代を第一線で牽引し、アニメ史に残る数々の傑作を残した伝説の短編アニメシリーズ『ルーニー・テューンズ』。この作品は、そんな『ルーニー・テューンズ』の記念すべき第一作である。(正確には1929年にパイロット版である『Bosko, the Talk-Ink Kid』が製作されている)
当時ディズニーのヘッドアニメーターとして活躍していたヒュー・ハーマンとルドルフ・アイジング、そしてその門下であるイサドール・フレレング(後のフリッツ・フレレング)、カーマン・マックスウェルらがディズニーから独立、一年ほどウィンクラー・プロダクションで働いた後に、『ボスコ』という黒人少年を主人公としてワーナーで開始した新シリーズがこの『ルーニー・テューンズ』なのだ。
製作のメインとなるスタッフはディズニー出身者が中心であり、その上彼らが目指していた目標もディズニーと同じ成功を掴むという事だった。…となると作風がディズニーに限りなく近くなってしまうのは至極当然の事であり、それは明らかに『シリ―・シンフォニー』を意識したであろうシリーズタイトル『ルーニー・テューンズ』にもしっかりと現れている。

物語はかの『蒸気船ウィリー』と同じく、主人公ボスコが口笛を吹くシーンから始まる。浴槽の中で上機嫌にボスコが吹く口笛のメロディーはワーナー映画『The Show of Shows』の挿入歌である『Singin' in the Bathtub』。そう、『ルーニー・テューンズ』は元々ワーナーが製作したトーキー映画の宣伝の役割も兼ねて開始されたのだった。
風呂から上がったボスコは、ガールフレンドのハニーを連れてドライブに出かける。ところが道中で様々なトラブルに見舞われ…というあらすじ。至って平凡。
フレレングによるアニメーションは流石に良くできており、ボスコ達が崖から落ちるシーンでは優れたカメラアングルが目を引く。(ディズニー時代に制作された「Bright Lights」(1928)から使い回したアイデアではあるが…)
ところがこの作品、残念なことに少し退屈なのだ。目を見張るようなギャグも皆無、テンポも悪ければストーリーも平坦。長所を挙げるとすれば先述した優れたアニメーションと愉快な音楽、といったところだろうか。
ともかく、後にアメリカン・カートゥーンの歴史を塗り替える伝説のシリーズは、この作品から始まったのだ。

2018年4月17日火曜日

The Busy Beavers(カワウソ物語)

監督:バート・ジレット
公開日:1931年6月22日
評価点:★5

小さなビーバーが住処を守ろうと大奮闘


シリ―・シンフォニー第19作となるこの作品は、同年の『Birds of a Feather』と同じく自然の生き物にスポットを当てた短編である。面白さという点では正直首を傾げたくなる作品ではあるが、堅実な作画やフランク・チャーチルの牧歌的な音楽が、いかにも30年代初期のディズニーらしい雰囲気を醸し出しており悪くはない。

邦題は『カワウソ物語』とあるが、この作品に登場するのはカワウソではなくビーバーである。ビーバーは川にダムを作るという生態はよく知られているが、本作品もそんなビーバーの珍しい生態にスポットを当てた物語となっている。
ダムづくりに勤しむビーバーたち。音楽に合わせて木を切り倒したり、小枝を川に運んだりと大忙しの彼らだが、そんな時、突然大洪水がやってくる。ダムがあるから一安心…かと思いきや、作りが甘かったのかダムは今にも決壊しそうだ。このままでは住処が危ない!ある一匹の勇敢なビーバーが、大きな木を一人で切り倒した。川はせき止められ、喜び踊るビーバーたち。勇気あるビーバーを皆でたたえるのだった。

刺激的なギャグやスピード感はこの作品には存在しない。かといって後の『The Old Mill』(1937)のような写実主義に徹しているわけでもなく、数ある『シリー・シンフォニー』の中でも少し中途半端な印象を受けてしまう短編である。
だが、流石はディズニーというべきか、洪水シーンでは目を見張るような背景動画が登場する。この美しい背景動画がこの作品のハイライトと言っても良いだろう。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年4月16日月曜日

Barnacle Bill(脱線水兵エロ行脚)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年8月31日
評価:★8

伝統的なフォーク・ソングをフライシャー流にアニメ化


『Talkartoon』第9作となるこの作品では、前作『Dizzy Dishes』でスクリーンデビューしたベティ・ブープが再び登場する。前作ではのっぽな料理人を演じたビン坊だが、今回は少し背が縮んだデザインとなり、女たらしの水兵を演じる。

えげつない邦題が付けられた本作品であるが、原題はアメリカのドリンキング・ソング『船乗りバーナクル・ビル』(Barnacle Bill the Sailor)から取られている。物語はその小唄の歌詞をモチーフに展開していく…のだが、流石はフライシャー、なんともエロチックでシュールな短編に仕上がっており、今観ても爆笑必至のフライシャー・ワールドを堪能できる。

荒くれ者の船長を上手くやり込めて陸に上がった船乗りビル(ビン坊)は、アパートに住むナンシー・リー(ベティ)に会いに行く。物語や台詞回しは歌に沿って展開していき、ナンシーとビルのシュールなやり取りがしばらく続く。
この作品に登場するベティも、髪型こそ違えど前作と同様まだ犬としての特徴がかなり強く残っており、現在の彼女の姿に慣れた我々には少々どぎつく映ってしまうデザインである。
ナンシーとビルは、歌を歌い合いながらロマンスを繰り広げる…のだったが、なんとビルは大変な女たらしだった。実はナンシー以外にも何人もの女性と付き合いを持っており、行く港の先々で恋人を作っているというのだ。(この作品に『エロ行脚』という邦題が付けられる所以だろう)
だがもうすっかりビルに惚れてしまったナンシーは「帰らないで、また来て」と別れを惜しむのだが、ビルは「俺は船乗り、もう来ることはないさ。あばよ」などと歌いながらアパートを後にする。
ところがこの一連の様子を実は船長が見ていたのだから大変だ。突然雨が降り出し、嵐の中怒る船長、逃げるビル。終いにはビルは海へと真っ逆さまに落ちてしまい、いい気味だと船長は笑うのだったが…
なんと海の底はグラマーな人魚たちが真っ裸で踊りまくる楽園だった。ビルはもちろん大喜び。ノリに乗って踊るビルと人魚を映して物語は終わる。

…この作品、何回観ても爆笑してしまうんだよなあ。作品の元となった歌自体がかなりお下品な歌ではあるのだが、それをさらに過激に、シュール極まりないエロチックな作品として描ききったフライシャーの創造力には驚嘆するばかりだ。
作画もかなりノリノリで、メロディーに合わせて変幻自在に動くキャラクターは見ていて非常に愉快。メイン作画を担当したのはルディ・ザモラとシーモア・ネイテルだが、一部のシーンをグリム・ナトウィックがヘルプで担当している。彼らのスラップスティックなアニメ―トがこの作品の肝、と言っても過言ではないだろう。
万人に受ける作品ではないとは思うが、個人的には大好きな一篇である。こういう作品を観ていると、アニメは決して子どものためだけに作られていたわけでは元々なかった事がよくわかる。

(タイトルの元ネタであり、作品内のBGMとして用いられる『Barnacle Bill the Sailor』。動画は1930年にホーギー・カーマイケルが吹き込んだバージョン)

2018年4月13日金曜日

Hell's Fire

監督:アブ・アイワークス
公開日:1934年1月6日
評価点:★6

ウィリーの奇妙な地獄めぐり


『ウィリー・ホッパー』第6作。基本的にこのシリーズはモノクロで撮影されていたのだが、この作品と『Davy Jones' Locker』の2作品のみ『シネカラー』という二色式のカラープロセスで撮影されている。…というのも発色の良い三色法テクニカラーは当時ディズニーが独占契約を結んでいたため使用できなかったのだ。
とはいえ、現存するネガでは三色法に負けないほど鮮やかな色彩がしっかり残っている。
さて、この作品はシネカラーの強みである赤の発色の良さを最大限に活用した作品となっている。というのも、真っ赤に燃え盛る『地獄の炎』を作品の主題にしたのだから面白い。
そのギラギラした色使いを用いた鮮やかなビジュアルは、今でも我々に強い衝撃を与えてくれる。

…だが肝心の内容はというと、これまたアイワークス・スタジオらしくストーリーの筋は皆無に等しい。ただただ無軌道でドタバタしたギャグのオンパレードである。この作品を楽しむには、酔っ払った地獄の住人や、ウィリーが出会う奇妙な化け物たちが織りなす刺激的なビジュアルを堪能する事に尽きるのではないだろうか。
歴史上の偉人や映画作品のパロディも続々登場し、お酒や悪魔に絡んだブラックなネタも随所に挟み込まれており楽しい。アニメーションの出来も少々野暮ったいものの水準レベルは維持しており、傑作ではないが7分間しっかり楽しむ事が出来る娯楽作品と言えるだろう。
また、この作品はその世界観や内容、ストーリーの共通点から、アブがディズニー時代に監督した『Hell's Bells』(邦題:地獄の悪魔退治、1929年)のリメイク作と取る事もできる。案外彼はネタの使い回しが多い。



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年4月10日火曜日

Woodland Café(森の音楽会)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1937年3月13日
評価点:★7

虫たちが繰り広げる熱いジャズ・セッション


シリー・シンフォニー第66作、シリーズの中でも後期にあたる作品だが、当時のディズニーとしては珍しく『ジャズ』を前面に押し出した作品となっている。
『虫が集うナイト・クラブ』というディズニーらしい舞台で繰り広げられる軽快なアニメーションは、独特な都会的センスを纏っているようで、異彩を放っている。

作品の舞台となるのはおしゃれな虫たちが集うナイト・クラブ。ビッグ・バンドの豪華爛漫な演奏をバックに、虫たちは老若男女問わず踊り狂う。
物語中盤で作品舞台がバンドからステージへと変わり、色気たっぷりのハエといかにもワルな蜘蛛による劇仕立てのダンスが繰り広げられる。色気に惑わされた蜘蛛はハエを追いかけまわすが、しまいにはハエがまんまと蜘蛛をやり込めてしまい、煙草を一服。ハリウッド女優顔負けの、なんともアダルトなシークエンスだ。

そして物語は終盤へと進み、舞台はステージから再びビッグ・バンドへと戻る。彼らの演奏はますます白熱し、お客はみんなフロアに集まってノリノリのスウィングを披露する。冒頭ではつまらなさそうにしていた老紳士までもが愉快にダンスを楽しみ、挙句の果てにはぶっ倒れて担架で運ばれてしまう始末。
往年のキャブ・キャロウェイを連想させるようなパワフルな歌声とスウィンギーな演奏が続くなか、クラブ内が熱狂の頂点に達した所で画面がアイリスアウトし、物語が終了する。

この作品の見どころは、やはり終盤の熱いセッションに尽きるように思える。軽快なスウィング『Everybody's Truckin』をバックに、素早いカット割り・煌びやかな美術設計・緻密な動画によって描き出される溌剌としたダンスシーンは、まさに職人技の賜物といえるだろう。一度観たらそのグルーヴ感に酔いしれる事は間違いなし。
シリ―・シンフォニーの数ある短編の中でも、楽しさではトップクラス。まさに一級品の娯楽作品だ。
(『森の音楽会』という邦題は、正直語感が内容にそぐわない気がしないでもないのだが…)



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年4月8日日曜日

わんわん火事だわん

監督(演出):田口真
製作年:1981年
評価点:★6

名匠・南家こうじが手がけた火災予防PRアニメ


現在も『みんなのうた』や『おかあさんといっしょ』で活躍する、音楽アニメにおいては他の追随を許さない名匠・南家こうじ氏がキャリア初期の1981年に手掛けた火災予防PRアニメ。約18分と比較的短くまとまっており、彼独特のタッチや軽快なアニメーションを存分に楽しむ事ができる快作に仕上がっている。

火の無い星からやってきた迷子の宇宙人チャッタ君、しっぽが燃えたトラウマから火事に詳しくなった犬のブラザー、明るい少年もん太とその友達が巻き起こす騒動とそれによって育まれる友情を描きながら、火災の予防を訴える内容となっている。テーマはまさに『火の用心』だ。
南家さんとは別の人物が担当した脚本・演出は至ってオーソドックス、娯楽作品として観ると少々物足りない。だがあくまでもこの作品は『啓発もの』という事を忘れてはならない。手堅くまとまっており、こういったジャンルに属するアニメーションの中ではかなり楽しめる部類に入るのではないだろうか。OPで流れるテーマ曲と映像もノリが良く、これだけでも充分楽しい作品である。(同じく『火災防止』をテーマとした『ザ☆ファイヤーGメン』には敵わないが…)

さて、南家さんのデザイン・作画だが…こちらも彼にしてはやや穏当というべきか。PR映画という媒体だからか、作画枚数もやや抑え気味な印象。表現技法もごく普通のセルアニメである。
もちろん注目すべき部分はいくらでもあり、例えば犬のブラザーが繰り広げる軽やかなアクション(特にOPでの動き)はまさに南家節とでも言うべきリズミカルな作画となっており観ていて非常に楽しい。また、野沢雅子演じるもん太少年とその仲間たち、両親らのデザインも、後の『スプーンおばさん』や『あんみつ姫』を思わせるコミカルなデザインとなっておりなかなか秀逸。宇宙人のチャッタ君も、同時期にみんなのうたで放映された『あさおきたん』を彷彿とさせる柔らかなタッチで好印象。やはりPRアニメでも、南家アニメの魅力は健在なのだ。
また、演じている声優も、千々松幸子さんや喜劇俳優の故・由利徹さん、後にキートン山田として活躍する山田俊司さん、そして野沢雅子さんと非常に豪華な顔ぶれが揃っている。

…と、この作品、今観ても十分色褪せない魅力を持っている。初期の南家アニメという点でも資料的価値は高く、南家ファンなら一度は見ておきたい作品である。
ところがこの作品、TV放送された実績は恐らく存在せず、現在はいくつかの公共施設にVHSや16mmフィルムが所蔵されているのみであり、視聴するのはなかなか困難になっているのが残念だ。幸運な事に筆者はある施設でこのVHSを視聴する機会を得たため、幻の映像を楽しむ事ができたのだった。圧倒的感謝…!

以下、スタッフ・キャスト情報(OP・EDクレジットより)

推薦  自治省消防庁
指導  東京消防庁

企画   社団法人日本損害保険協会
製作   英映画社
製作協力 旭プロダクション

提供 社団法人日本損害保険協会

(声の出演)
ブラザー  由利 徹
チャッタ君 千々松幸子
もん太   野沢雅子
お父さん  山田俊司
お母さん  吉田理保子
ひとみ   滝沢久美子
ゆたか   峰あつこ
(ぷろだくしょんバオバブ)

製作    服部悌三郎
脚本    小山高男

キャラクター・デザイン&作画 南家こうじ
画コンテ  菊田武勝

動画 福島康生(日本サンライズ)
仕上 富田誠一
背景 小関俊之

撮影 旭プロダクション
音楽 池多孝春
効果 小川勝男
録音 中里勝範(プロセンスタジオ)
現像 東洋現像所

演出 田口 真

製作協力 山浦勇一郎(旭プロダクション)
製作担当 長井 貢

2018年4月6日金曜日

Dizzy Dishes(ビン坊の料理人)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年8月9日
評価:★6

ベティ・ブープのデビュー作


この作品は、『Talkartoons』の第8作(第7作との説もあり)として1930年に公開された。作品自体の出来は水準作というレベルなのだが、現在ではアニメ史を語る上において外す事はできない短編となっている。
というのも、この(比較的平凡というべき)短編作品は、フライシャーが生んだ世紀のアイドル『ベティ・ブープ』のスクリーンデビュー作なのだ。

ストーリーはこの時期の他のフライシャー作品と同様、ほぼ無いと言っても良い。厨房で働くビン坊が、客のクレームに振り回されたりベティの歌声に聞き惚れる、といった具合である。
グリム・ナトウィックとテッド・シアーズが担当したアニメーションも、まさに典型的なトーキー初期のフライシャー・スタイルだ。少々グロテスクで野暮ったいギャグがテンポ良く繰り広げられ、理屈抜きに楽しいグニャグニャした動きが楽しめる。

物語中盤でいよいよベティのミュージカル・シーンが始まるのだが、筒井康隆氏が『ベティ・ブープ伝』で酷評しているように、この作品に登場する彼女の姿は現在の人間らしい彼女に見慣れた人々からすればかなり気味悪く映ってしまうだろう。声こそマギー・ヘインズによるハイトーン・ボイスなのだが、ずんぐりと太ってグネグネ動く、まさに犬のようなベティなのだ。
私はこれはこれで別の魅力があると思っている性分なのだが、『人間のベティちゃんが動く様子を見たい!』という方は1931年まで待たなければならない。

肝心のオチは、食べ物を待ちきれなくなった客がついにビン坊を襲い、恐れおののいたビン坊は机を切ってこしらえた機関車で店から逃げる、という代物である。まさにナンセンス。愉快で粗削りな作品だ。
この未熟なアニメーション技術特有のシュールさが良い方向に傾き、傑作となった『Mysterious Mose』や『Swing You Sinners!』(両作品とも1930年)と異なり、この作品ではそういった魅力はあまり感じられない。だが、やはりこの作品はアニメ史に残る記念碑的短編であり、ベティ作品を愛する者としては外す事のできない作品であるという事には変わりはないのである。
なぜなら、後にアニメ史を塗り替える名キャラクター、ベティ・ブープはこの作品から生まれたのだから。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.2

2018年4月4日水曜日

The China Plate(桃源の夢)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1931年5月16日
評価点:★7

中国を舞台に繰り広げられる冒険ファンタジー


シリ―シンフォニー第18作、1931年製作の作品である。この作品は少々凝った作りとなっており、物語は冒頭に登場する中国の皿『ウィローパターン』に描かれた風景を舞台に進められる。
威張り散らす皇帝の娘は、お年頃の純粋な少女。綺麗な蝶を追いかけているうちに川に落っこちてしまい、その場にいた釣り人の少年に助けられる。彼は娘を慰めてあげると、二人はたちまち恋に落ちてしまう。
そんな事は断じて許さん、と激怒した皇帝。彼と釣り人との勝負はいつの間にか追いかけっこへと変わり、傲慢な皇帝はついには岩のようなドラゴンに食べられてしまった。二人もドラゴンに襲われそうになるが、機転を利かせて見事退治。めでたく二人は結ばれた、といった具合である。

ストーリーは古き良き伝承風のものとなっており、上手く纏められてはいるが特別に目立つ何かがあるというわけではない。注目すべきはその世界観作りである。
もちろん今観ると若干ステレオ・タイプとなってしまう描写は散見されるが(殊に前半部分において)、そんな時代の隔たりから来る不整合感など全く感じさせないほどの美しさがこの作品には溢れている。
ルディ・ザモラらが担当した作画も31年という制作時期を考慮するとなかなかの高水準。ドラゴン、釣り人&少女、皇帝といった個性的なキャラクターを端麗にアニメ―トしている。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]