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2019年1月7日月曜日

The Plow Boy(ミッキーの畑仕事)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年6月28日
評価:★5

ホーレス・ホースカラーのデビュー作


「ミッキーマウス」第8作。
本作前後から、バート・ジレットやベン・シャープスティーン、レス・クラーク、そしてウィルフレッド・ジャクソンといったアブ以外のアニメーターたちが作画に大きく関わるようになる。彼らは1930年にアブがディズニーから独立した後、スタジオの作風をより洗練されたものへと変化させていく。

農夫に扮するミッキーは、乳絞り女のミニーと出会う。ミッキーは自分の仕事はそっちのけで乳絞りを手伝うが、調子に乗ってむりやりミニーとキスしてしまったのでミニーはカンカンに怒り出す。それを見てホーレスは大笑いするが、ちょうどその時飛んできた蜂に刺されてしまったのだからさあ大変。ホーレスは痛さのあまり大暴れ、さらには切り株にぶつかった衝撃で鋤が壊れてしまった。嘆き悲しむミッキーだったが、なんとそこにはのんきに土を掘っている豚がいるではないか。大喜びするミッキーとホーレスは豚を鋤に見立てて、再び畑を耕し始めるのだった。

(図1)
この時期のミッキー作品に共通する欠点だが、本作には一貫したストーリーラインが存在しない。後半のホーレスが暴走するシーンにて次々と登場する視覚ギャグは楽しいが、基本的にはテンポも悪く音楽も貧弱で退屈な内容である。
肝心のギャグも粗野な物が多く、ディズニーの持つ田舎っぽさが悪い意味で目立ってしまった作品と言えるだろう。また背景とキャラクターの動きが反対になっているために、キャラが逆向きに歩いているように見えるシーンも存在する。(図1)
本作で特筆すべきなのは、本作が1934年頃にドナルドやグーフィーといった魅力的なキャラクターが登場するまでミッキーの名脇役として活躍したホーレス・ホースカラーのデビュー作だとされている点である。(文献やサイトによっては本作に登場する牝牛がクララベル・カウだとされている事もあるが、本作の牝牛はほとんど擬人化されていないため、ただの家畜だろうと筆者は考えている。)



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月30日金曜日

When the Cat's Away(ネコの居ぬ間のタップダンス)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年4月11日
評価:★4



ミッキーが本来のネズミの大きさで登場する異色作


「ミッキーマウス」第6作。
作画は主にアブ・アイワークスとベン・シャープスティーンの2人が担当したようだ。確かに本作辺りから、アブのタッチとは若干異なる作画が見受けられるようになる。ベン、そしてバート・ジレットはちょうどこの時期にディズニーのスタジオへ入社し、アブの影響が色濃かったスタジオの作風を徐々に変化させていく。

トム・キャット(ピートによく似ているが、別人らしい)が狩りに出かけると、ミッキーとミニーは彼らの友人であるネズミたちと一緒にトムの家へと忍び込む。ミッキーとミニーはピアノで「かわいいオーガスチン(Oh du lieber Augustin)」を弾き、他のネズミたちは家具や自分を楽器に見立てて楽しく演奏を始める。他にも「Listen to the Mocking Bird」や「埴生の宿(Home Sweet Home)」といった古くから伝わる歌をバックに様々なギャグが展開される。

前作『ミッキーのオペラ見学(The Opry House)』まではその快活さで作品に華を添えていたBGMが、本作では突如として貧弱になり音楽面での魅力が非常に薄くなってしまった。その割には音楽ありきのギャグやダンスシーンが内容の大部分を占めており、視覚的なギャグやストーリーラインは皆無に等しい。全体を通して、少し退屈な作品である。
1929年度の「ミッキーマウス」は本作のようにトーキーの物珍しさに甘んじたかのような作品が目立っており、こうした作品群に不満を持ったアブや音楽監督であるカール・ストーリングのフラストレーションが、「シリー・シンフォニー」という新しい実験的なシリーズを生み出すきっかけになったのではないだろうか。事実、「シリー・シンフォニー」の第一作『骸骨の踊り(The Skeleton Dance)』のアイデアをウォルトに最初に提案したのはストーリングだったのだ。
また、本作は「アリス・コメディー」時代の短編『アリスの家を守ろう(Alice Rattled by Rats)』(1925)のリメイク作であり、両作の間で類似したギャグが見受けられる。(3匹のネズミが自分たちを蓄音機に見立ててレコードを演奏するというギャグなど)
またリメイク元の設定をそのまま踏襲したためか、本作はミッキー達が実際のネズミと同じ大きさで登場するという非常に珍しい作品でもある。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月24日土曜日

The Barn Dance(バーン・ダンス)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年3月14日
評価:★7


生意気なキャラクターがキュートな佳作


「ミッキーマウス」第4作。前作の『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』に引き続き当初よりトーキー作品として製作されたが、本作は音楽劇ではなくストーリーとギャグが主体である。そのため前シリーズの「オズワルド」を彷彿とさせる楽しい作品に仕上がっており、生意気で野暮ったいキャラクター達が巻き起こす騒動を存分に楽しむことができる。
作画は主にアブ・アイワークスとレス・クラークの2人が担当したようである。本作でもアブのスマートで軽快なアニメ―トが冴えている。

「おんまはみんな(The Old Gray Mare)」のメロディーに乗せて馬車を走らせるミッキー。彼はミニーをバーン・ダンスに誘おうとしたのだが、不運にも同じくミニーをダンスに誘おうとしたライバル、ピートが車でやってくる。ピートの車に惹かれたミニーはピートをダンスの相手に選ぶが、その直後に車が事故を起こしてしまう。そこでミニーはミッキーと共にダンス会場へと向かうのだったが…
なんとミッキーは踊りが大の苦手だったのだ。ミニーの足を何回も踏んづけてしまったので、カンカンになったミニーは踊りの上手なピートを次の相手に選んでしまう。嫉妬したミッキーは機転を利かせてズボンに風船を仕込み、今度こそミニーと上手に踊ろうと画策する。
ところが仕掛けに気付いたピートがパチンコで風船を割ってしまったために、この作戦も失敗。とうとうミニーが愛想を尽かしてしまったので、ミッキーは泣き出してしまうのだった。

悪役が主人公の恋敵として登場し、ヒロインを巡って争うという図式は「オズワルド」を始めとするサイレント時代のディズニー製カートゥーンではよく見られるスタイルであった。本作のプロットやギャグはサイレント時代からの大きな変化はないが、踊りを作品の中心に据えているのはトーキー作品らしい。
本作の見どころは、少し生意気だが生き生きとしたキャラクター達のキュートさに尽きる。現在でこそ「スター」「品行方正」といったイメージが定着してはいるが、1932年頃までのミッキーはいたずらっぽく快活で、少し生意気な少年だった。性格に深みはないが、とにかく元気で明るい典型的なカートゥーン界の住人だったのだ。
また、サウンドトラックも興味深い。本作で使用されている曲は「おんまはみんな」「いいやつみつけた(Pop Goes the Weasel)」「Reuben and Rachel」といった古いフォークソングが中心であり、ポピュラー音楽を所狭しと使いまくっていたフライシャー兄弟やハーマン=アイジングの作品とは対照的である。
そもそも「バーン・ダンス」自体がアイルランドの古い習慣だったらしく、アイルランド系の移民であるウォルトの嗜好が伺える。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月17日土曜日

Steamboat Willie(蒸気船ウィリー)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1928年11月18日
評価:★10


『ミッキーマウス』の伝説


オズワルドを失ったウォルトとアブが新しいキャラクター「ミッキーマウス」を用いて製作した『プレーン・クレイジー(Plane Crazy)』と『ギャロッピン・ガウチョ(The Gallopin' Gaucho)』は素晴らしい出来だったが、配給会社が見つかることはなかった。オズワルドを始めとするそれまでのディズニー製カートゥーンと、一線を画す物がなかったからだ。ウォルトは、さらなる新しい要素を作品に追加する必要があると悟った。
本作の公開前年には、サウンド付きの映画『ジャズ・シンガー』が大ヒットを記録していた。時代はサイレントからトーキーへと移り変わろうとしていた。成功のチャンスとなる新しい要素は、紛れもなくサウンドだったのである。
こうして「ミッキーマウス」第三作の『蒸気船ウィリー』は、ディズニーとしては初めてのサウンド付きカートゥーンとして製作が開始された。
そして、愉快なネズミが主人公の、およそ7分半のこの短編は、伝説となった。

口笛を吹きながら、蒸気船を操縦するミッキー。ところが勝手に操縦していたため船長のピートに叱られてしまう。
蒸気船が港に到着すると、ミッキーが家畜を蒸気船に積み上げる。ミッキーが家畜を運び終わると再び蒸気船が出港するが、ミニーが蒸気船に乗り遅れてしまったのでミッキーは彼女をクレーンで蒸気船へと運ぶ。ところがその拍子に彼女が持っていた楽譜とギターがヤギに全て食べられてしまったのだ。そこでミッキーとミニーはヤギをオルガンに見立てて、ヤギを使って演奏を始める。
ヤギの口から『わらの中の七面鳥』のメロディーが流れ出すと、ミッキーは音楽に合わせて食器や洗濯板、挙句の果てには動物までもを楽器代わりにして大騒ぎする。
ところがこの乱痴気騒ぎをピートに見られたのだから、一巻の終わりである。またしてもピートに叱られたミッキーは、罰としてジャガイモの皮むきをさせられるのだった。

前二作に引き続いて大部分の作画をアブ・アイワークスが担当したと思われるが、ウィルフレッド・ジャクソンやレス・クラークといった若手アニメーターも製作に関わっている。特にウィルフレッドに関しては音楽の知識があったため、本作のサウンドトラックまで担当したという活躍ぶりである。
さて、本作の最大の特徴は、紛れもなく「音楽とアニメーションとの完璧なシンクロ」にある。

本作は決して「世界初のトーキーアニメーション」ではない。実際に1926年にはインクウェル・スタジオ(フライシャー・スタジオの前身)が既にサウンド付きの小唄漫画『My Old Kentucky Home』を製作しているし、本作公開の2ヶ月前にもポール・テリーがサウンド付きのカートゥーン『Dinner Time』を製作している。しかしこれらの作品は、『蒸気船ウィリー』のように音とアニメーションが完璧にシンクロしているわけではなかった。
本作は蒸気船の汽笛とミッキーの口笛から始まるが、どちらもアニメーションと音楽が完全にシンクロしている。ヤギをオルガンに見立てて演奏するギャグは既に『ライバル・ロメオズ(Rival Romeos)』で使用されたものだが、本作ではさらに有意義なギャグとして効果的に用いられている。バケツを叩くミッキーとドラムの音は完璧に調和しているし、スクリーンの観客に向かって鳴き喚くアヒルの臨場感は格別である。
この完璧なシンクロが実現したのは、「バー・シート」や「バウジング・ボール」を作画や録音に用いた事が大きく関係していたという。ウォルトやアブを始めとするスタッフたちの野心と情熱が、カートゥーンに革新をもたらしたのである。

ところが、本作にも欠点がないわけではない。『ギャロッピン・ガウチョ』やそれ以前のオズワルド作品にあったストーリーラインが皆無なのである。
確かに本作はあくまでもミュージカルであり、物語の筋書きは必要ない。つまり「トーキーでないと成立しない作品」なのだが、本作のヒットを機にディズニーではこの後しばらくこういった音楽主体の作品が量産される事になる。ストーリーや視覚的なギャグは二の次になり、音楽に絡めたギャグやダンスが作品の主体になってしまうため、これはどうしても退屈なものになってしまうリスクがあった。
しかし本作には、原始的だが愉快な、音に合わせて絵が動く楽しさに溢れている。家畜を楽器同然のように扱うミッキーも、乱暴だがこの上なく愉快だ。

Down South(1930)
本作は、アメリカのカートゥーン業界に大打撃を与えた。
ディズニーは一躍業界のトップに躍り出ることになり、1930年代前半までに「ミッキーマウス」はアメリカン・カートゥーンのシンボル的存在になった。
そして、幾多ものスタジオがディズニーの作風(そしてアブの作画スタイル)に影響を受けながら、独自のスタイルを築いていった。「アメリカン・アニメーションの黄金時代」の幕開けである。
本作の影響の強さは、チャールズ・ミンツのスタジオにてディック・ヒューマーらが製作した『Down South』という作品からもよくわかる。ヴァン・ビューレンやハーマン=アイジングの作品も、1930年頃はミッキー調の快活なキャラクターで溢れかえっていた。
一方サイレント時代におけるカートゥーンの王者だった「フィリックス」とパット・サリヴァンはカートゥーン業界の玉座から転がり落ちてしまい、その栄華を取り戻すことはなかった。同じく業界トップから転落したフライシャー兄弟は…業界トップに返り咲く事は決してなかったが、1930年代を通じてディズニーの強力なライバルとして君臨し続けたのである。

本作は、様々な意味でアメリカン・アニメーション史の転換点となった作品である。そして公開から90年を経た現在も決して色褪せる事のない輝きを放ち続ける、まさに「伝説の作品」なのだ。


(上記の公式動画では、ミッキーが豚のお母さんを楽器に見立てるシーンがカットされている)

収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1
     オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年11月8日木曜日

The Gallopin' Gaucho(ギャロッピン・ガウチョ)

監督:ウォルト・ディズニー
試写日:1928年8月2日
公開日:1928年12月30日
評価:★8

『ミッキーマウス』の変化


前作「プレーン・クレイジー(Plane Crazy)」の試写から約3か月後、ディズニーは再びネズミを主人公にした短編を製作する。この作品が試写された8月にディズニー製作分のオズワルドは終了したため、恐らくこの作品はミンツとの契約終了後に製作されたと思われる。オズワルドと並行して製作された「プレーン・クレイジー」とは異なり、こちらは本当に0からのスタートだったのだ。
作画も前作に引き続きアブ・アイワークスがほぼ単独で手がけたと思われる。ただこの頃ウィルフレッド・ジャクソンがスタジオに入社しており、ウィルフレッドとレス・クラークがヘルプで作画したシーンも幾つかあるかもしれない。(ウィルフレッドは次作「蒸気船ウィリー」でなんと音楽を担当したのだ)

お尋ね者のガウチョ、ミッキーはダチョウに乗って酒場へと向かう。酒場でミッキーはダンサーのミニーと共にダンスを踊っていると、そこに現れたのが荒くれ者のピート。ピートはミニーを連れ去ってしまうが、ミッキーも酔っ払ってしまったダチョウに乗ってピートを追いかける。ピートのアジトに辿り着いたミッキーはついにピートと決戦。機転を利かせた戦法で見事勝利したミッキーは、前作では叶わなかったミニーとの熱いキスを交わすのだった。

この愉快な短編は、2作目にしてミッキーマウスというキャラクターが2つの面で変化した作品といえる。
まず、デザインが変化した。前作ではフィリックスのような大きな白目が特徴だったが、本作の後半部分からは現在でもお馴染みの黒目がちなデザインになっている。また、ブーツも今作からの着用である。
そして、性格も変化した。前作ではいたずらっぽい好色な面が目立っていたが、本作では一転、勇敢な正義の味方『ガウチョ』を演じている。後のミッキー短編でも本作のようなメロドラマ的な物語は何度となく用いられたが、本作はミッキーが「ヒーロー」としてフィーチャーされた最初の作品といえる。(とはいえ、高笑いしながら煙草を吸い酒を飲み干す荒っぽい所作は、現在のパブリックイメージとは似ても似つかないが…)
また、トーキー版の音楽を担当したカール・ストーリングにとっても重要な作品である。彼は元々映画館で無声映画のための伴奏音楽の演奏や楽団の指揮などを行っていたのだが、恐らく本作と「プレーン・クレイジー」が彼が初めて音楽を担当したアニメ―ションだったと思われる。1930年代後半以降ワーナーにて伝説的な功績を残す事になるストーリングだが、本作は彼の原点なのだ。

本作はストーリーが主体であり、ギャグ中心だった「プレーン・クレイジー」に比べると視覚面での楽しさは薄れている。だが、「ミッキーマウス」というキャラクターの変遷を考える上では重要な作品といえるだろう。そして本作はその完成度の高さにも関わらず、またも配給会社を獲得する事ができなかった。
だが、ディズニーに訪れる大きな好機は、もうすぐそこまで来ていた。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月5日月曜日

Plane Crazy(プレーン・クレイジー)

監督:ウォルト・ディズニー
試写日:1928年5月15日
公開日:1929年3月17日
評価:★10


『ミッキーマウス』の誕生


1928年の春にニューヨークへと旅行したウォルト・ディズニーは、そこでオズワルドの権利が配給元のユニバーサルとチャールズ・ミンツにある事を知り、更にはヒュー・ハーマンやルドルフ・アイジング、そしてフリッツ・フレレングといった有能なアニメーターまで失う事となる。
アニメーターとオズワルドを失ったウォルトの下に残ったのは、スタジオ設立以前からの盟友であったアブ・アイワークスと、当時まだ新人だったレス・クラークを始めとする数人のアニメーターだった。アブは、「ミッキーマウス」という新しいキャラクターが登場するカートゥーンの原画をほぼ1人で、しかも2週間で描きあげた。そして何より驚くべきなのは、この突貫工事で作り上げたカートゥーンが今までのディズニー作品の中で最も楽しい代物だった、という事である。そうして生まれたのが「プレーン・クレイジー」、ミッキーマウスが初めてフィルム上で動いた記念すべき作品である。

リンドバーグに憧れるミッキーは動物たちと飛行機を作るが、失敗する。それでもめげないミッキーは自動車とクジャクの羽を使って再度飛行機を作り上げ、ガールフレンドのミニーを空の旅へと誘う。飛行機は幾多のトラブルを経てやっと離陸するが、ミッキーにキスを強要されたミニーは怒って飛行機から降りてしまう。ミッキーがミニーに気を取られて操縦を忘れたがために飛行機は真っ逆さまに墜落、恋も飛行の夢も悲惨な終わりを迎えてしまうのだった。

この作品は元々はサイレント映画として制作され、カール・ストーリングによるサウンドトラックは1929年の劇場公開時に改めて追加された物である。そのため、音と映像の同期という点では少し原始的な作りになっており、当初よりトーキー映画として制作された『蒸気船ウィリー』以降の作品と比べると見劣りがする。
ただ、映像面では『蒸気船ウィリー』を超える楽しさに満ちているといえるだろう。この6分の短編映画にはパースの変化を存分に楽しめる背景動画や激しいアクション、そしてキャラクターのパントマイムを中心とした愉快なギャグがこれでもかと詰め込まれており、アニメーションが本来持つ原始的な楽しさを堪能できる。
アブの作画はしっかりした遠近感と流れるようなアニメーションが特徴だが、この作品ではそんなアブの長所が最大限に活かされたといっても過言ではないだろう。
特に目を見張るのは、ミッキーが操縦する飛行機が自動車や柱に衝突するシーンだ。この背景動画の素晴らしさは言葉にできない。まるでこちらまで飛行機に乗っているかのような、素晴らしい酩酊感と臨場感を味わう事ができる。

本作品を含め、初期のミッキーは現在のような紳士的な性格ではなく、いたずらで好色な面が目立つ。オズワルド、そして「フィリックス」や「マットとジェフ」「道化師ココ」といった同時代のカートゥーンキャラクターの基本的な性格を踏襲した結果だろう。(アブのアニメーション自体はポール・テリーの「イソップ物語」から多分な影響を受けていると思われる)
デザインや作風も(同一スタッフなので当然だが)オズワルドとよく似ており、サイレント作品として制作された本作は配給会社が見つからず、お蔵入りになってしまったという。ディズニーとアブが再び栄光を勝ち取るには、本作の試写日から約半年後の11月18日、ディズニー初のトーキー作品「蒸気船ウィリー」の公開日までその好機を待たねばならなかった。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1
     オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年9月24日月曜日

Colonel Heeza Liar's Knighthood

監督:ウォルター・ランツ(&ヴァーノン・ストーリングス?)
公開日:1924年4月1日
評価:★7


ウォルター・ランツが演出した最初期の作品


1913年に、商業アニメーションの草分け的存在であるジョン・ランドルフ・ブレイによって生み出されたキャラクター『ヒーザライア大佐』。最も初期にセル技法を取り入れた事でも有名なこのシリーズだが、ブレイ自身による製作は1917年に一旦終了してしまう。その後6年間のブランクを経て、1923年にヴァーノン・ストーリングスによって製作が再開された。
この作品は、そんな『ストーリングス版・ヒーザライア』の一篇である。
この作品で特筆すべきなのは、監督としてウォルター・ランツがクレジットされている点である。1910年代にインターナショナル・フィルム社のアニメーターとしてキャリアをスタートさせた彼だが、この辺りから演出業もこなすようになっていた。この作品は、彼が監督した最も初期の作品なのだ。
ちなみに、インターナショナル・フィルム社にはランツの他にもビル・ノーランやバート・ジレット、ベン・シャープスティーン、グリム・ナトウィック、そしてジャック・キングといった後に名を残すそうそうたるメンバーが在籍していた。

剣術の練習をする男(実写。ランツ本人)に睡眠の邪魔をされたヒーザライアは、おもむろに昔の武勇伝を語り始めた。
王様に剣術の腕を見込まれたヒーザライアは、王様の付き添いをすることになる。ところが王様が悪者に捕まってしまったので、ヒーザライアは悪者と剣闘する羽目に。絶体絶命のヒーザライアだったが、蚊のおかげでなんとか勝利する。
―ところがそれはみんな大嘘。話を聞いて怒った蚊に咬まれてしまったヒーザライアは、急いでインク壺へと戻るのだった。

同時期のランツ監督作と同じく、この作品はフライシャーの『インク壺』を彷彿とさせる実写とアニメーションの混合スタイルで作られている。とはいえ、『ディンキー・ドゥードゥル』等とは異なりこの作品では実写との絡みは序盤と終盤のみ。メインはあくまでもアニメーションである。後の『オズワルド』を彷彿とさせるのびのびとした動きや自由な発想はもちろん、ランツ自身の怪演も見逃せない。
この作品が発表された時点で、ランツはまだ25歳だった。若々しい自由な発想が光る、楽しい作品だ。

収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年8月2日木曜日

Rival Romeos(ライバル・ロメオズ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1928年5月5日
評価:★8

『ミッキーマウス』の原点ともいえるギャグが盛りだくさん


1928年に入り、デザインが丸っこくなって後のミッキーマウスのようなプロポーションになったオズワルド。アニメーションの質も飛躍的に向上し、この頃から後の『ミッキーマウス』『シリー・シンフォニー』といったシリーズに通じる魅力が垣間見えるようになる。
このギャグに溢れた愉快な短編も、そんな1928年度の作品。作品単体でも魅力的な本作だが、この作品を語る上でどうしても外せない点が一つある。それは、数あるオズワルド作品の中でも、後の短編に使い回されたギャグが非常に多いという事なのだ。

彼女のオルテンシアに会いに行くオズワルド。その後ろにいるのは、ブルジョアな身なりをした恋敵ピート。2人は車で競争するが、なんとかオズワルドが先にオルテンシアの家に到着。オズワルドは彼女に歌をプレゼントしようとするが、ヤギに楽譜とバンジョーを食べられてしまう。仕方なくオズワルドはヤギをオルガンに見立てて音楽を演奏するのだった。
ところがそれをうるさく思った隣人の猫が花瓶や額縁を投げてくる。オズワルドがそれらを避けるのに必死になっていると、ようやくピートがオルテンシアの家に到着。二人はオルテンシアを力ずくで取り合いっこしたため、オルテンシアは激怒してしまった。
結局オルテンシアは三番目にやってきたのっぽの犬と一緒にデートに出かけてしまい、ピートとオズワルドはお互いの腰を蹴り合うのだった。

テンポが良くギャグも豊富、それにアニメーションも流麗で、作品単体で観ても十分に楽しい本作品なのだが、注目すべきなのはそれだけではない。
前述した通り、この作品には後のディズニー作品、そしてアイワークス・スタジオ作品に流用されたギャグが数多く見られるのだ。以下、流用されたギャグを筆者が気付いた範囲内で列挙する。

1.冒頭のオズワルドとピートが車で競争するギャグ
『Ragtime Romeo』1931年
(カエルのフリップ、アイワークススタジオ作品)
2.楽譜にハエが止まり、音符と間違えて弾いてしまうギャグ
『名指揮者ミッキー(The Barnyard Concert)』1930年
(ミッキーマウス)
3.オズワルドの口が画面一杯に広がるギャグ、ヤギが楽譜とバンジョーを食べてしまうギャグ、ヤギをオルガンに見立てて演奏するギャグ
『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』1928年
(ミッキーマウス)
4.隣人が壺や額縁をオズワルドに投げつけるギャグ
『カーニバル・キッド(The Karnival Kid)』1929年
(ミッキーマウス)

と、一つの短編内で4つのギャグが後年使い回されているのである。しかもリメイク作としてではなく、それぞれ別作品でギャグのみ拝借しているのだ。特に、ヤギのギャグに関してはあの『蒸気船ウィリー』で作品の要となる要素として再利用されているのだから面白い。
『ミッキーマウス』の原点は、やはりオズワルドだったのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月27日金曜日

Dinner Time

監督:ポール・テリー&ジョン・フォスター
公開日:1928年9月1日
評価:★3

「蒸気船ウィリー」よりも早く公開されたトーキー作品


1920年代を通じて制作され続けた、サイレント期におけるポール・テリーを代表するシリーズ『Aesop's fables』。このお世辞にも出来が良いとは言えない短編は同シリーズ初となるトーキー作品で、RCAが開発したフォトフォン方式を用いて制作されている。
特筆すべきなのは、この作品があの『蒸気船ウィリー』よりも約二か月前に公開されたという点である。1920年代中盤にフライシャー兄弟が『ココ・ソング・カーチューン』という小唄漫画シリーズをトーキー(ド・フォレストが開発したフォノフィルム方式)で製作していたものの、ストーリーを主体としたトーキーアニメ―ションとしては恐らくこの作品が初めてだと思われる。

ストーリーは一貫しておらず、冒頭では猫が鳥を捕まえようとして失敗するギャグが描かれ、中盤では骨を埋めようとした子犬が他の犬に骨を取られてしまう様子が描かれる。後半は肉屋を営むアルファルファじいさんと肉を奪おうとする野良犬たち、そして野犬収容所が織りなすドタバタ劇である。とにかくギャグの繋がりが乏しく、あらすじを説明するのが難しい作品。唯一面白いのは、猫が電線から落ちた時に9つの幽霊が現れ、失神から目が覚めた猫が飛び出した霊を取り戻すというギャグ。

作画は典型的なヴァン・ビューレン版「Aesop's fables」のスタイルである。ポール・テリーが監督してはいるが、以前ポールが監督していた「Aesop's fables」や後のテリー・トゥーンの作風とは少し毛色が異なるため、恐らくこの作品は共同監督であるジョン・フォスター主導で製作されたのではないだろうか。あまり上手いとは言えない。
目玉であるサウンドトラックだが、こちらも出来は良くない。サウンドと映像が同期している…というよりも、サイレント作品に変な効果音や叫び声を追加しただけのような感じ。
「蒸気船ウィリー」のサウンド化を検討していたウォルト・ディズニーもRCAに赴きこの作品を見ているが、「どたばたばかりで何もない」と評していたという。※
効果音製作を担当したマックス・マンネは他にフライシャーの「トーカートゥーン」最初期の音響監督としてその名前を確認できるのだが、「トーカートゥーン」の方も出来は余り良くないと来ているから困ったものである。一体何者なんだ。



※細馬宏通(2013)『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』新潮社

2018年7月15日日曜日

The Mechanical Cow(ザ・メカニカル・カウ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年10月3日
評価:★7

機械仕掛けの牛とオズワルドの冒険活劇


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第4作である。
1932年にサウンドトラックを付加した上で再公開されており、現存しているプリントもその時のプリントが大本だと思われる。(下記の動画リンクは1932年再公開版。鳴き声のような効果音が用いられている)

機械仕掛けの牛を使った牛乳販売を仕事にしているオズワルド。怠け者の牛は朝になってもなかなか起きようとしないが、オズワルドはなんとか牛を起こして仕事を始める。
カバの親子にミルクを売った後、ガールフレンドのオルテンシアに出会ったオズワルドは仕事そっちのけで情事を楽しむ。
ところが突然悪者が現れ、オルテンシアをさらってしまう。オズワルドは牛に乗って悪者の車を追跡し、見事オルテンシアを救出。乱闘の末悪者もオズワルドも崖から落ちてしまうが、オズワルド達はなんとか助かり、悪者は魚に食べられてしまうのだった。

「機械仕掛けの牛」という面白い設定が目を引く本作だが、牛のパーソナリティー自体は他の動物たちと全く変わらず少し没個性な感じ。とはいえ銃に撃たれてバラバラになっても平気で生きていたり、首がマジックハンドのように伸びたりといった破天荒なギャグはなかなか面白い。
本作は『トロリー・トラブルズ』や後の『プレーン・クレイジー』のような、後半のテンポの良さやアクションが醍醐味となる作品であろう。サイレント期ならではのオーバーなリアクションやパントマイムが何度も用いられ、素早いテンポで次から次へとギャグが繰り出されるので、観ていて飽きが来ないのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月14日土曜日

Oh Teacher(オー、ティーチャー)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年9月19日
評価:★6

オルテンシアを巡って猫とオズワルドが正面(?)対決


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第3作である。
このシリーズはオリジナルのネガが失われており、この作品も1932年にウォルター・ランツの手で再編集された再公開用のプリントしか現存していない。その際に幾つかのシーンが散逸したとの事であり、ぜひともオリジナル版のプリントが発掘されてほしいものである。
作画はヒュー・ハーマン、ローリン・ハミルトン、そしてフリッツ・フレレング。三人とも後にワーナーへ移籍し、特にフリッツはスタジオの大黒柱として数々の名作を手掛ける事となる。(ヒューは同じくディズニー組のルドルフ・アイジングと共に初期ワーナー作品の立役者となり、後にMGMに移籍する)

オズワルドは自転車に乗って、彼女と一緒に学校に行こうとする。ところがそれを邪魔するのが悪ガキ猫で、オズワルドから自転車を奪ってしまう。さらに川に落ちてしまったオルテンシアをオズワルドが助けようとするのだが(「HELP」の文字が馬になるというギャグが良い)、これもまた猫によって邪魔されてしまい、彼女に嫌われてしまったオズワルドは呆然とする。
そして、休み時間。オズワルドは猫に逆襲しようとレンガを持って待ち伏せするのだが、猫にその様子がバレてしまった。猫はレンガを投げてオズワルドに戦いを挑むのだが、投げたレンガが自分に返ってきてたちまち失神。オズワルドはさも自分が倒したかのような素振りを見せ、オルテンシアはオズワルドに惚れ直すのだった。

どうも恋敵同士の対決はオズワルド…だけではなくサイレント期の喜劇映画の定番だったようで、この後もまたシリーズ中数度に亘って繰り返されるテーマである。
前作の「トロリー・トラブルズ」と比べると作画や展開に少し粗さを感じるのが惜しい本作品だが、ギャグやキャラクターの感情表現が豊富なので結構楽しめる。特にヒューが手がけた冒頭のオズワルドが花占いをするシーン、ハミルトンが手がけたオズワルドがレンガの言い訳をして猫を怒らせるシーンの二つはキャラクターの感情がよく現れており面白い。
また、オズワルドの首が取れたり「HELP」の文字が馬になるといったサイレント期ならではのギャグも散見されるのが興味深い。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年6月3日日曜日

Felix Minds the Kid(フィリックスの子守)

監督:オットー・メスマー
公開日:1922年10月1日
評価:★4

子守りに奮闘するフィリックス


ウィンクラー時代初年度である1922年の作品。
エサをくれる代わりに1時間の子守りを頼まれたフィリックスは、赤ちゃんの子守りを始める。騒動を次から次へと巻き起こす好奇心旺盛な赤ちゃんに、フィリックスはほとほと手を焼く。と、フィリックスが目を離したすきに赤ちゃんは保育所に脱走してしまう。フィリックスは飴を使って赤ちゃんを連れ戻そうと企んだが、保育所にいた他の赤ん坊達も一緒についてきてしまい、誰が誰だかわからなくなってしまうのだった。

この作品、約8分と尺が長い割にはこじんまりとした作りになっていて、作画面でもギャグ面でも見どころが殆どなく、凡作と言わざるを得ないのが惜しい。現存するプリントの状態が極めて悪く、不鮮明極まりない画像となっているのも残念。
とはいえ赤ちゃんが風船のように膨らんで飛んでいくシークエンスの奇妙さ、大勢の赤ちゃんが一挙に集まるビジュアルのグロテスクさはなかなか面白い。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX (DVD2枚組)

2018年5月26日土曜日

Felix in the Swim(ピアノレッスンから抜け出せ!)

監督:オットー・メスマー
公開日:1922年7月1日
評価:★5

ネズミとフィリックスの協力作戦

ウィンクラー時代初年度である1922年の作品。第一作である『Felix Saves the Day』に比べると演出・作画の両面でトーンダウンした感が否めないが、それでもそこそこに楽しめる。この時期の水準作といったところだろうか。

フィリックスは、人情…ならぬ猫情からネズミ捕りにかかったネズミを助けてやった。フィリックスは友達のウィリーを水泳に誘うのだが、彼はピアノの練習があるから外へ出られない。そこでネズミは助けてもらったお礼にウィリーの代わりにピアノを弾き、隙を狙って2人は水泳に出かけるのだが…。というあらすじ。ヤギに服を食べられてしまう、などといったギャグも時折挟み込まれてはいるが、全体的にスピード感に乏しく少々退屈。

この小品の見どころは、中盤のネズミによるピアノ演奏にうかれてお母さんや服が踊り出すシークエンスだろう。音楽に合わせて服がひとりでに踊りだすといった擬人化ギャグは、ある意味トーキー時代を先駆けしたものともいえる。

背景デザインは線のみで構成されており非常に単調で、このスタイルは20年代を通して全く変わらない。この至ってシンプルな背景も、フィリックスというシリーズが放つ独特な雰囲気を支えていると言えるだろう。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX ( DVD2枚組 )

2018年5月16日水曜日

Felix Saves the Day(フィリックス 野球場で大活躍)

監督:オットー・メスマー
公開日:1922年2月1日
評価:★7

実写とアニメーションの奇妙な融合


1922年、『フィリックス』シリーズは配給元がそれまでのパラマウントからウィンクラー・プロダクションに移行し、より刺激的で個性の強い作品群が産み出される事となる。この作品はそんなウィンクラー配給の下公開されたフィリックス作品の第一作である。
パラマウント時代からその前兆を見せていた個性が、ようやく開花し始めたのもこの時期の作品だ。サイレント時代のフィリックスは独特なパントマイムで感情を表し、「?」や「尻尾」といった記号や体の部位を利用することでトラブルを解決する。この作品でもそんなフィリックスの「お決まり」とも言える個性を思う存分に堪能できるが、この作品の醍醐味は何と言っても「実写とアニメーションの融合」だろう。

ストーリーは、警察に捕まって野球の試合に出られなくなった友人のためにフィリックスが野球にチャレンジする、という物。機転を利かせたオチ、大人びたユーモアがフィリックスらしくて面白い。
この作品では実写の写真や映像が頻繁にアニメーションの中に挿入される。とはいっても、サイレント時代のカートゥーンでは実写とアニメーションを融合させる手法は定番中の定番であり、手法自体に革新性がある訳ではない。
しかし、この作品ではその使い古された手法をうまく活用し、シュールなギャグとして成立させているのが素晴らしい。フィリックスは暴れ回るだけの存在ではなくしっかりとした自我を持ち、実写の世界の中で実写の人物と対話し、行動しているのだ。
特にフィリックスの友人が実写のビルをよじ登っていくシーンに関しては、実写作品やアニメーションでは決して味わう事のできない格別な臨場感を味わう事ができる。

また、この作品は同時期の他のフィリックス作品と比べて背景が細かく、リアルに描かれている。実写映像の使用にしろ、かなり力を入れて製作された事が窺える一作だ。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX ( DVD2枚組 )

2018年3月5日月曜日

Dinky Doodle in the Hunt

監督:ウォルター・ランツ
公開日:1925年11月1日
評価:★6

若き日のウォルターランツが手がけた楽しい作品


後に『オズワルド』『アンディ・パンダ』『ウッドペッカー』等数々の人気キャラクターを手掛ける事となるウォルター・ランツは、20年代初頭にブレイ・スタジオで演出家としてのキャリアをスタートさせた。
この作品は、そんな彼がブレイスタジオで制作したシリーズ『ディンキー・ドゥードゥル』中の一作である。

このシリーズはフライシャーの『インク壺』のような、実写世界の中にアニメキャラが入り込み暴れ回るという愉快な趣向が凝らされている。まだアニメーションが『奇妙な代物』として扱われていたであろうこの時代、この実写併用のスタイルは大層観客に喜ばれた事だろう。
この作品でも、そんな実写とアニメが融合する事で生まれる魅力が存分に楽しめる一作となっている。

ストーリーはあってないような物で、狩りをしているランツ青年(実写)をディンキーと彼の愛犬がからかい、終いには大きな熊に追いかけられてしまうという代物である。


しかしこの作品の魅力は、ランツの怪演、粗削りだがのびやかで楽しい作画に集約されているといっても過言ではないだろう。
そののびのびとした牧歌的な魅力は、この時期の作品でしか味わえない特別な物なのではないだろうか。 たとえ作品のアイデアの大部分が『インク壺』『アリスコメディー』からの拝借だとしても…。


2018年2月19日月曜日

A Lad and His Lamp

製作:ポール・テリー(実制作を担当した監督はクレジット未記載のため不明、フランク・モーザーか?)
公開日:1929年3月2日(3月10日とする文献あり)
評価:★6

典型的な20年代スタイルが楽しい作品


1920年代を通じて制作され続けた、サイレント期におけるポール・テリーを代表するシリーズ『Aesop's fables』。そのシリーズ中でも末期にあたる作品で、作品のトーキー化を巡ってオーナーであるヴァン・ビューレンと衝突したテリーはこの後4作品の製作を指揮した後スタジオを去る。
その後残留スタッフであるジョン・フォスターらによって同シリーズの製作は続行されるのだが、この作品ではまだそういった波乱が起きる直前の、20年代初期と何の変化もない『典型的なファーブルもの』な雰囲気を楽しむ事ができる。(恐らく音楽はテレビ用にフィルムが再販売された際に改めて付けられたものであり、本来はサイレント作品であったと思われる。)

美容室を営む女ネズミと、彼女を愛する勇敢な男ネズミ、ふたりの仲を引き裂こうとする悪い王様ネコとキャラクター設定もありきたり。ギャグも特別映えるものは殆ど見当たらず、こじんまりとしたストーリーが程良くスリリングに進むといった趣である。

ただ、この作品はこの時期のファーブル作品の中ではかなり出来が良い部類に入れるべき作品であろう。同時期の他の作品と比べてストーリーがかなりしっかりしており、作画も比較的滑らかに、かつ躍動的に動いているからだ。

特に男ネズミが猫の城に侵入後お化けに襲われるシークエンスに関しては、その背景の精密さや、20年代では異例といえる遠近感と躍動感のある作画が見受けられる、という点で特筆すべきである。

そしてもう一つ注目すべき点は、『ミッキーマウス』の短編『The Gallopin' Gaucho』(1928)と酷似したシーンが存在している事だ。
ディズニーの短編が公開されたのはこの作品が公開された4か月前の28年12月30日であり、この作品がミッキーを参考にしたかどうかはわからない。だが、いずれにしろトーキー移行期の作品群を知る上で興味深い作品である。

※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年2月10日土曜日

The Skeleton Dance(骸骨の踊り)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年8月22日
評価点:★9


シンプルかつ緻密、アニメ史に残る不朽の名作


30年代のアニメ業界を震撼させ、商業アニメに数多くの革新をもたらした『シリー・シンフォニー』シリーズの記念すべき第一作であり、今なおその魅力が衰える事のない不朽の名作である。
まず作品は雷と共に大きな目が映るシーンから始まる。カメラが遠ざかると、それはフクロウだった事がわかる。この一連のシーンから、この作品の雰囲気、方向性がすぐに理解できる。次に二匹の黒猫が軽妙なやり取りを交わす。その時突如登場するのが、不気味な一人の骸骨。彼はカメラに向かって大きく飛び込む。この臨場感はそれまでのカートゥーンとは一線を画すものである。

そしていよいよこの作品の醍醐味でありアニメ史に残る名シーンでもある、『骸骨の踊り』が始まる。
このシーンではカール=ストーリングによる音楽とアブ=アイワークスが手がけたアニメーションが完璧に融合し、見事なまでに完璧な視覚効果を上げているのだ。
同時期に制作されたカートゥーンにおいて、怪奇趣味と音楽が融合した好例としては他にフライシャーの傑作『Swing You Sinners!』(1930)が挙げられるが、この作品ではさらに計算し尽くされた演出・作画となっている。コミカルかつ繊細なダンスやギャグが流れるように展開し、朝日が昇ると骸骨たちは自分の墓へと戻っていく。

この作品のストーリーは至って単純で、込み入ったギャグも壮大な作品設定も無く、骨組みは至ってシンプルである。だが、この『骸骨の踊り』はその音楽とアニメーションの融合の見事さ、計算し尽くされた作画と演出において同時期における他社の作品群を圧倒している。そして、現在でも衰える事のない輝きを放ち続けているのだ。

この作品は、当時のディズニーのキーパーソンであり、後に自身のスタジオを立ち上げる事となるアブ=アイワークスがほぼ一人で作画したといわれている。彼は後にコロムビアで『Skeleton Frolics』(1937)という本作のリメイク版を監督するが、この作品の持つ魅力には敵わなかった。


※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年2月8日木曜日

Koko in Toyland

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1925年1月20日
評価:★5

おもちゃの国を舞台に繰り広げられるドタバタ劇


初期フライシャーの主力シリーズ『インク壺の外へ』では中期にあたる作品。
自分もおもちゃが欲しいと駄々をこねる道化師ココに、マックスおじさんは様々なおもちゃを描いてやる。
喜ぶココだが、勝手に動き始めた泥棒人形がお嬢様人形を誘拐してしまう。ココはお嬢様人形を助けてやろうと木馬でひとっとび…のはずがしょせん木馬、びくとも動かない。
仕方なくココは自力でお嬢様を救出する。だがお嬢様も人形、抱き着いた瞬間バラバラに。
怒ったココは現実世界へと飛び出し、おもちゃを好き放題に動かすのであった。

作品のストーリー構成は平凡、オチも『現実と漫画の融合』という同時期のインク壺作品でよく用いられた物であり、特徴的な面はあまり見当たらない。
だがおもちゃの奇妙なデザインや作品内で何度も登場するその奇抜な発想からは、初期のフライシャーが持っていた独創的な一面がしっかり伺える。
またこの時期の『インク壺』シリーズは1950年代にテレビ・家庭用の16ミリフィルムとして再販売されており、その際に新たに追加されたウィンストン・シャープルズによる軽快なサウンドトラックも作品の魅力を一層高めている。

※収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s