2018年11月30日金曜日

When the Cat's Away(ネコの居ぬ間のタップダンス)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年4月11日
評価:★4



ミッキーが本来のネズミの大きさで登場する異色作


「ミッキーマウス」第6作。
作画は主にアブ・アイワークスとベン・シャープスティーンの2人が担当したようだ。確かに本作辺りから、アブのタッチとは若干異なる作画が見受けられるようになる。ベン、そしてバート・ジレットはちょうどこの時期にディズニーのスタジオへ入社し、アブの影響が色濃かったスタジオの作風を徐々に変化させていく。

トム・キャット(ピートによく似ているが、別人らしい)が狩りに出かけると、ミッキーとミニーは彼らの友人であるネズミたちと一緒にトムの家へと忍び込む。ミッキーとミニーはピアノで「かわいいオーガスチン(Oh du lieber Augustin)」を弾き、他のネズミたちは家具や自分を楽器に見立てて楽しく演奏を始める。他にも「Listen to the Mocking Bird」や「埴生の宿(Home Sweet Home)」といった古くから伝わる歌をバックに様々なギャグが展開される。

前作『ミッキーのオペラ見学(The Opry House)』まではその快活さで作品に華を添えていたBGMが、本作では突如として貧弱になり音楽面での魅力が非常に薄くなってしまった。その割には音楽ありきのギャグやダンスシーンが内容の大部分を占めており、視覚的なギャグやストーリーラインは皆無に等しい。全体を通して、少し退屈な作品である。
1929年度の「ミッキーマウス」は本作のようにトーキーの物珍しさに甘んじたかのような作品が目立っており、こうした作品群に不満を持ったアブや音楽監督であるカール・ストーリングのフラストレーションが、「シリー・シンフォニー」という新しい実験的なシリーズを生み出すきっかけになったのではないだろうか。事実、「シリー・シンフォニー」の第一作『骸骨の踊り(The Skeleton Dance)』のアイデアをウォルトに最初に提案したのはストーリングだったのだ。
また、本作は「アリス・コメディー」時代の短編『アリスの家を守ろう(Alice Rattled by Rats)』(1925)のリメイク作であり、両作の間で類似したギャグが見受けられる。(3匹のネズミが自分たちを蓄音機に見立ててレコードを演奏するというギャグなど)
またリメイク元の設定をそのまま踏襲したためか、本作はミッキー達が実際のネズミと同じ大きさで登場するという非常に珍しい作品でもある。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月24日土曜日

The Barn Dance(バーン・ダンス)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1929年3月14日
評価:★7


生意気なキャラクターがキュートな佳作


「ミッキーマウス」第4作。前作の『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』に引き続き当初よりトーキー作品として製作されたが、本作は音楽劇ではなくストーリーとギャグが主体である。そのため前シリーズの「オズワルド」を彷彿とさせる楽しい作品に仕上がっており、生意気で野暮ったいキャラクター達が巻き起こす騒動を存分に楽しむことができる。
作画は主にアブ・アイワークスとレス・クラークの2人が担当したようである。本作でもアブのスマートで軽快なアニメ―トが冴えている。

「おんまはみんな(The Old Gray Mare)」のメロディーに乗せて馬車を走らせるミッキー。彼はミニーをバーン・ダンスに誘おうとしたのだが、不運にも同じくミニーをダンスに誘おうとしたライバル、ピートが車でやってくる。ピートの車に惹かれたミニーはピートをダンスの相手に選ぶが、その直後に車が事故を起こしてしまう。そこでミニーはミッキーと共にダンス会場へと向かうのだったが…
なんとミッキーは踊りが大の苦手だったのだ。ミニーの足を何回も踏んづけてしまったので、カンカンになったミニーは踊りの上手なピートを次の相手に選んでしまう。嫉妬したミッキーは機転を利かせてズボンに風船を仕込み、今度こそミニーと上手に踊ろうと画策する。
ところが仕掛けに気付いたピートがパチンコで風船を割ってしまったために、この作戦も失敗。とうとうミニーが愛想を尽かしてしまったので、ミッキーは泣き出してしまうのだった。

悪役が主人公の恋敵として登場し、ヒロインを巡って争うという図式は「オズワルド」を始めとするサイレント時代のディズニー製カートゥーンではよく見られるスタイルであった。本作のプロットやギャグはサイレント時代からの大きな変化はないが、踊りを作品の中心に据えているのはトーキー作品らしい。
本作の見どころは、少し生意気だが生き生きとしたキャラクター達のキュートさに尽きる。現在でこそ「スター」「品行方正」といったイメージが定着してはいるが、1932年頃までのミッキーはいたずらっぽく快活で、少し生意気な少年だった。性格に深みはないが、とにかく元気で明るい典型的なカートゥーン界の住人だったのだ。
また、サウンドトラックも興味深い。本作で使用されている曲は「おんまはみんな」「いいやつみつけた(Pop Goes the Weasel)」「Reuben and Rachel」といった古いフォークソングが中心であり、ポピュラー音楽を所狭しと使いまくっていたフライシャー兄弟やハーマン=アイジングの作品とは対照的である。
そもそも「バーン・ダンス」自体がアイルランドの古い習慣だったらしく、アイルランド系の移民であるウォルトの嗜好が伺える。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月17日土曜日

Steamboat Willie(蒸気船ウィリー)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1928年11月18日
評価:★10


『ミッキーマウス』の伝説


オズワルドを失ったウォルトとアブが新しいキャラクター「ミッキーマウス」を用いて製作した『プレーン・クレイジー(Plane Crazy)』と『ギャロッピン・ガウチョ(The Gallopin' Gaucho)』は素晴らしい出来だったが、配給会社が見つかることはなかった。オズワルドを始めとするそれまでのディズニー製カートゥーンと、一線を画す物がなかったからだ。ウォルトは、さらなる新しい要素を作品に追加する必要があると悟った。
本作の公開前年には、サウンド付きの映画『ジャズ・シンガー』が大ヒットを記録していた。時代はサイレントからトーキーへと移り変わろうとしていた。成功のチャンスとなる新しい要素は、紛れもなくサウンドだったのである。
こうして「ミッキーマウス」第三作の『蒸気船ウィリー』は、ディズニーとしては初めてのサウンド付きカートゥーンとして製作が開始された。
そして、愉快なネズミが主人公の、およそ7分半のこの短編は、伝説となった。

口笛を吹きながら、蒸気船を操縦するミッキー。ところが勝手に操縦していたため船長のピートに叱られてしまう。
蒸気船が港に到着すると、ミッキーが家畜を蒸気船に積み上げる。ミッキーが家畜を運び終わると再び蒸気船が出港するが、ミニーが蒸気船に乗り遅れてしまったのでミッキーは彼女をクレーンで蒸気船へと運ぶ。ところがその拍子に彼女が持っていた楽譜とギターがヤギに全て食べられてしまったのだ。そこでミッキーとミニーはヤギをオルガンに見立てて、ヤギを使って演奏を始める。
ヤギの口から『わらの中の七面鳥』のメロディーが流れ出すと、ミッキーは音楽に合わせて食器や洗濯板、挙句の果てには動物までもを楽器代わりにして大騒ぎする。
ところがこの乱痴気騒ぎをピートに見られたのだから、一巻の終わりである。またしてもピートに叱られたミッキーは、罰としてジャガイモの皮むきをさせられるのだった。

前二作に引き続いて大部分の作画をアブ・アイワークスが担当したと思われるが、ウィルフレッド・ジャクソンやレス・クラークといった若手アニメーターも製作に関わっている。特にウィルフレッドに関しては音楽の知識があったため、本作のサウンドトラックまで担当したという活躍ぶりである。
さて、本作の最大の特徴は、紛れもなく「音楽とアニメーションとの完璧なシンクロ」にある。

本作は決して「世界初のトーキーアニメーション」ではない。実際に1926年にはインクウェル・スタジオ(フライシャー・スタジオの前身)が既にサウンド付きの小唄漫画『My Old Kentucky Home』を製作しているし、本作公開の2ヶ月前にもポール・テリーがサウンド付きのカートゥーン『Dinner Time』を製作している。しかしこれらの作品は、『蒸気船ウィリー』のように音とアニメーションが完璧にシンクロしているわけではなかった。
本作は蒸気船の汽笛とミッキーの口笛から始まるが、どちらもアニメーションと音楽が完全にシンクロしている。ヤギをオルガンに見立てて演奏するギャグは既に『ライバル・ロメオズ(Rival Romeos)』で使用されたものだが、本作ではさらに有意義なギャグとして効果的に用いられている。バケツを叩くミッキーとドラムの音は完璧に調和しているし、スクリーンの観客に向かって鳴き喚くアヒルの臨場感は格別である。
この完璧なシンクロが実現したのは、「バー・シート」や「バウジング・ボール」を作画や録音に用いた事が大きく関係していたという。ウォルトやアブを始めとするスタッフたちの野心と情熱が、カートゥーンに革新をもたらしたのである。

ところが、本作にも欠点がないわけではない。『ギャロッピン・ガウチョ』やそれ以前のオズワルド作品にあったストーリーラインが皆無なのである。
確かに本作はあくまでもミュージカルであり、物語の筋書きは必要ない。つまり「トーキーでないと成立しない作品」なのだが、本作のヒットを機にディズニーではこの後しばらくこういった音楽主体の作品が量産される事になる。ストーリーや視覚的なギャグは二の次になり、音楽に絡めたギャグやダンスが作品の主体になってしまうため、これはどうしても退屈なものになってしまうリスクがあった。
しかし本作には、原始的だが愉快な、音に合わせて絵が動く楽しさに溢れている。家畜を楽器同然のように扱うミッキーも、乱暴だがこの上なく愉快だ。

Down South(1930)
本作は、アメリカのカートゥーン業界に大打撃を与えた。
ディズニーは一躍業界のトップに躍り出ることになり、1930年代前半までに「ミッキーマウス」はアメリカン・カートゥーンのシンボル的存在になった。
そして、幾多ものスタジオがディズニーの作風(そしてアブの作画スタイル)に影響を受けながら、独自のスタイルを築いていった。「アメリカン・アニメーションの黄金時代」の幕開けである。
本作の影響の強さは、チャールズ・ミンツのスタジオにてディック・ヒューマーらが製作した『Down South』という作品からもよくわかる。ヴァン・ビューレンやハーマン=アイジングの作品も、1930年頃はミッキー調の快活なキャラクターで溢れかえっていた。
一方サイレント時代におけるカートゥーンの王者だった「フィリックス」とパット・サリヴァンはカートゥーン業界の玉座から転がり落ちてしまい、その栄華を取り戻すことはなかった。同じく業界トップから転落したフライシャー兄弟は…業界トップに返り咲く事は決してなかったが、1930年代を通じてディズニーの強力なライバルとして君臨し続けたのである。

本作は、様々な意味でアメリカン・アニメーション史の転換点となった作品である。そして公開から90年を経た現在も決して色褪せる事のない輝きを放ち続ける、まさに「伝説の作品」なのだ。


(上記の公式動画では、ミッキーが豚のお母さんを楽器に見立てるシーンがカットされている)

収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1
     オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年11月16日金曜日

An Elephant Never Forgets

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1935年1月2日
評価:★5

ゾウは決して忘れない…?


『カラー・クラシック』第3作。
作画チーフはシーモア・ネイテルとローランド・クランドルで、どちらもフライシャー作品ではお馴染みのベテランアニメーターであり、『ベティ』『ポパイ』など数多くの作品に携わっている。

舞台はジャングルにある動物学校。楽しそうに登校する動物たちの中でもひと際目立つのが、低い声で歌いながらスキップするゾウと泥まみれになって歩くブタ、そしてカタツムリよりもゆっくり歩くカバの三匹である。ゾウが学校に着くと、さっそく彼はゴリラにいじめられてしまう。怒ったゾウは「ゾウは絶対に忘れないぞ」と呟くのだった。そんな騒動をよそに、ダチョウの先生が授業を始める。ここからこの作品のテーマ曲が始まり、歌に合わせて先生が問題を出すのだが、誰も質問に答える事ができない。
そんな生徒たちを見てゾウは「僕は絶対に忘れない」と自慢するのだが、いざ自分が当てられると何も答えることができない。みんなはゾウを指さし大笑い。
こうして授業がひと段落すると、次の時間はテストである。先生に代わってカメがテストの指示をするのだが、カンニングが行われたり教科書の投げ合いが始まったりともう教室はめちゃくちゃ。ところが先生が戻ってくると教室はすぐ静かになった。騒動に気付かない先生が帰宅の指示を出すと、動物たちは一斉に下校する。校舎の前でずっと眠っていたカバが、下校時間になったとわかるやいなや猛スピードで下校を始めるというギャグが面白い。
ゴリラとゾウもスキップしながら下校するのだが…。ゴリラがゾウの腰を蹴ると、なぜかゴリラは猛烈に痛がる。なんとゾウの腰には洗濯板が入っていたのだ。ゾウは学校でいじめられた事を決して忘れておらず、見事に復讐したというカタルシスを感じるオチで物語は終わる。

本作は2色式テクニカラーで製作されており、しかも現存するプリントの状態も決して良くないため、色彩は正直言って微妙である。それよりも、冒頭で使用されるステレオプティカル・プロセスが独自の輝きを放っている。「カラー・クラシック」の最大の魅力は、こうしたセットバック撮影をふんだんに用いていることだろう。また、サミー・ティンバーグによる快活な音楽も魅力的である。
本作はフライシャー・スタジオとしては1935年に公開された初めての作品であり、この年辺りからスタジオの作風はディズニーの影響を受けたより穏当なものに変化していく。
そうした流れは本作の欠点からも読み取れる。キャラクターデザインは従来の『フライシャー・スタイル』とでも言うべき奇妙なデザインを踏襲しているが、物語やギャグから独特のアクや毒っ気が消え、完全に子供向けな作品になってしまっているのだ。
楽しめない事はないが、少し消化不足の感がある惜しい作品である。



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland
(上記のDVDだが、残念ながら本作にて音ズレが発生している。音質もあまり良くないため、その辺りを気にされる方は注意した方が良いかもしれない)

2018年11月8日木曜日

The Gallopin' Gaucho(ギャロッピン・ガウチョ)

監督:ウォルト・ディズニー
試写日:1928年8月2日
公開日:1928年12月30日
評価:★8

『ミッキーマウス』の変化


前作「プレーン・クレイジー(Plane Crazy)」の試写から約3か月後、ディズニーは再びネズミを主人公にした短編を製作する。この作品が試写された8月にディズニー製作分のオズワルドは終了したため、恐らくこの作品はミンツとの契約終了後に製作されたと思われる。オズワルドと並行して製作された「プレーン・クレイジー」とは異なり、こちらは本当に0からのスタートだったのだ。
作画も前作に引き続きアブ・アイワークスがほぼ単独で手がけたと思われる。ただこの頃ウィルフレッド・ジャクソンがスタジオに入社しており、ウィルフレッドとレス・クラークがヘルプで作画したシーンも幾つかあるかもしれない。(ウィルフレッドは次作「蒸気船ウィリー」でなんと音楽を担当したのだ)

お尋ね者のガウチョ、ミッキーはダチョウに乗って酒場へと向かう。酒場でミッキーはダンサーのミニーと共にダンスを踊っていると、そこに現れたのが荒くれ者のピート。ピートはミニーを連れ去ってしまうが、ミッキーも酔っ払ってしまったダチョウに乗ってピートを追いかける。ピートのアジトに辿り着いたミッキーはついにピートと決戦。機転を利かせた戦法で見事勝利したミッキーは、前作では叶わなかったミニーとの熱いキスを交わすのだった。

この愉快な短編は、2作目にしてミッキーマウスというキャラクターが2つの面で変化した作品といえる。
まず、デザインが変化した。前作ではフィリックスのような大きな白目が特徴だったが、本作の後半部分からは現在でもお馴染みの黒目がちなデザインになっている。また、ブーツも今作からの着用である。
そして、性格も変化した。前作ではいたずらっぽい好色な面が目立っていたが、本作では一転、勇敢な正義の味方『ガウチョ』を演じている。後のミッキー短編でも本作のようなメロドラマ的な物語は何度となく用いられたが、本作はミッキーが「ヒーロー」としてフィーチャーされた最初の作品といえる。(とはいえ、高笑いしながら煙草を吸い酒を飲み干す荒っぽい所作は、現在のパブリックイメージとは似ても似つかないが…)
また、トーキー版の音楽を担当したカール・ストーリングにとっても重要な作品である。彼は元々映画館で無声映画のための伴奏音楽の演奏や楽団の指揮などを行っていたのだが、恐らく本作と「プレーン・クレイジー」が彼が初めて音楽を担当したアニメ―ションだったと思われる。1930年代後半以降ワーナーにて伝説的な功績を残す事になるストーリングだが、本作は彼の原点なのだ。

本作はストーリーが主体であり、ギャグ中心だった「プレーン・クレイジー」に比べると視覚面での楽しさは薄れている。だが、「ミッキーマウス」というキャラクターの変遷を考える上では重要な作品といえるだろう。そして本作はその完成度の高さにも関わらず、またも配給会社を獲得する事ができなかった。
だが、ディズニーに訪れる大きな好機は、もうすぐそこまで来ていた。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1

2018年11月5日月曜日

Plane Crazy(プレーン・クレイジー)

監督:ウォルト・ディズニー
試写日:1928年5月15日
公開日:1929年3月17日
評価:★10


『ミッキーマウス』の誕生


1928年の春にニューヨークへと旅行したウォルト・ディズニーは、そこでオズワルドの権利が配給元のユニバーサルとチャールズ・ミンツにある事を知り、更にはヒュー・ハーマンやルドルフ・アイジング、そしてフリッツ・フレレングといった有能なアニメーターまで失う事となる。
アニメーターとオズワルドを失ったウォルトの下に残ったのは、スタジオ設立以前からの盟友であったアブ・アイワークスと、当時まだ新人だったレス・クラークを始めとする数人のアニメーターだった。アブは、「ミッキーマウス」という新しいキャラクターが登場するカートゥーンの原画をほぼ1人で、しかも2週間で描きあげた。そして何より驚くべきなのは、この突貫工事で作り上げたカートゥーンが今までのディズニー作品の中で最も楽しい代物だった、という事である。そうして生まれたのが「プレーン・クレイジー」、ミッキーマウスが初めてフィルム上で動いた記念すべき作品である。

リンドバーグに憧れるミッキーは動物たちと飛行機を作るが、失敗する。それでもめげないミッキーは自動車とクジャクの羽を使って再度飛行機を作り上げ、ガールフレンドのミニーを空の旅へと誘う。飛行機は幾多のトラブルを経てやっと離陸するが、ミッキーにキスを強要されたミニーは怒って飛行機から降りてしまう。ミッキーがミニーに気を取られて操縦を忘れたがために飛行機は真っ逆さまに墜落、恋も飛行の夢も悲惨な終わりを迎えてしまうのだった。

この作品は元々はサイレント映画として制作され、カール・ストーリングによるサウンドトラックは1929年の劇場公開時に改めて追加された物である。そのため、音と映像の同期という点では少し原始的な作りになっており、当初よりトーキー映画として制作された『蒸気船ウィリー』以降の作品と比べると見劣りがする。
ただ、映像面では『蒸気船ウィリー』を超える楽しさに満ちているといえるだろう。この6分の短編映画にはパースの変化を存分に楽しめる背景動画や激しいアクション、そしてキャラクターのパントマイムを中心とした愉快なギャグがこれでもかと詰め込まれており、アニメーションが本来持つ原始的な楽しさを堪能できる。
アブの作画はしっかりした遠近感と流れるようなアニメーションが特徴だが、この作品ではそんなアブの長所が最大限に活かされたといっても過言ではないだろう。
特に目を見張るのは、ミッキーが操縦する飛行機が自動車や柱に衝突するシーンだ。この背景動画の素晴らしさは言葉にできない。まるでこちらまで飛行機に乗っているかのような、素晴らしい酩酊感と臨場感を味わう事ができる。

本作品を含め、初期のミッキーは現在のような紳士的な性格ではなく、いたずらで好色な面が目立つ。オズワルド、そして「フィリックス」や「マットとジェフ」「道化師ココ」といった同時代のカートゥーンキャラクターの基本的な性格を踏襲した結果だろう。(アブのアニメーション自体はポール・テリーの「イソップ物語」から多分な影響を受けていると思われる)
デザインや作風も(同一スタッフなので当然だが)オズワルドとよく似ており、サイレント作品として制作された本作は配給会社が見つからず、お蔵入りになってしまったという。ディズニーとアブが再び栄光を勝ち取るには、本作の試写日から約半年後の11月18日、ディズニー初のトーキー作品「蒸気船ウィリー」の公開日までその好機を待たねばならなかった。



収録DVD:ミッキーマウスDVDBOX vol.1
     オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版