2018年2月15日木曜日

Betty Boop, M.D.(ベティ博士とハイド)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1932年9月2日
評価:★9

トリップ描写が冴え渡る、狂気の一作


数多くの傑作を残したベティ・ブープシリーズの中でも私が特に大好きな一篇。セクシーな描写とシュールな演出が最も過激になっていた、ベティ黄金期ともいえるこの時期(1932ー33年)の作品の中でも、特に狂気の成分が詰まった屈指の問題作と言えよう。何しろ扱っているテーマはドラッグなのだ。

物凄い坂を上がり下がりしてやって来た、ベティ率いる販売車。何やら売っているのは「ジッポー」という薬のようだ。お馴染み道化師ココがシュールなギャグを披露するが、客はまだ薬を買う気はない様子。そこでベティが登場、薬の効能を観客に歌で伝える。
すると幾人かの客が登場。やせっぽちの男は見事な肥満体に、老人は赤ちゃんに赤ちゃんは老人に、髭は髪の毛に変わりと次々に効能が現れる。
ここでビンボーが薬を飲みながらスキャットを披露。スキャットに合わせて客はどんどん増え、薬を飲んだ人々は次々におかしな変化を遂げていく。義足は手になり老人は墓になり花は歌い体から骨が飛び出るといった有様、もはや秩序などどこにも存在しない。
極めつけはスキャットに合わせて動物たちが変幻自在に伸び縮みしながら行進するシーンだろう。この一連のシークエンスから溢れ出る狂気の勢いは半端じゃない。こちらまで気が狂いそうになる。
そうしたクライマックスの中、赤ん坊が薬を飲むとアニメーションはオチに向かって暴走していく。
赤ん坊はヨーデル風のスキャットを歌い始めみるみるうちにリアルな顔つきの化け物へと変化し(このシーンは同年公開の映画『ジキル博士とハイド氏』のパロディである)、化け物となった彼の奇声でこの作品は終わる。オチで何もかもをぶん投げてしまうセンスが素晴らしい。

…とまあ、この時期のフライシャー作品全てに言える事ではあるが、あらすじを書く事なぞ不可能な怪作である。シュールなアニメーション、無軌道なストーリー、奇怪な表現、全てにおいて狂気に満ちている。作画を担当したウィラード・ボウスキーとトーマス・グッドソンは何かクスリでもやっていたんじゃないのかと邪推してしまうほどだ。だがこの作品は何もノリだけが全て、という訳ではない。卓越した作画技術を持っていたからこそ生まれた傑作なのだ。
この作品のスキャットに用いられた『Nobody's Sweetheart Now』は1924年に発表されたヒットソングで、こちらのスウィンギ―BGMもまたこの作品の盛り上がりに貢献したといえよう。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

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