2018年7月27日金曜日

Dinner Time

監督:ポール・テリー&ジョン・フォスター
公開日:1928年9月1日
評価:★3

「蒸気船ウィリー」よりも早く公開されたトーキー作品


1920年代を通じて制作され続けた、サイレント期におけるポール・テリーを代表するシリーズ『Aesop's fables』。このお世辞にも出来が良いとは言えない短編は同シリーズ初となるトーキー作品で、RCAが開発したフォトフォン方式を用いて制作されている。
特筆すべきなのは、この作品があの『蒸気船ウィリー』よりも約二か月前に公開されたという点である。1920年代中盤にフライシャー兄弟が『ココ・ソング・カーチューン』という小唄漫画シリーズをトーキー(ド・フォレストが開発したフォノフィルム方式)で製作していたものの、ストーリーを主体としたトーキーアニメ―ションとしては恐らくこの作品が初めてだと思われる。

ストーリーは一貫しておらず、冒頭では猫が鳥を捕まえようとして失敗するギャグが描かれ、中盤では骨を埋めようとした子犬が他の犬に骨を取られてしまう様子が描かれる。後半は肉屋を営むアルファルファじいさんと肉を奪おうとする野良犬たち、そして野犬収容所が織りなすドタバタ劇である。とにかくギャグの繋がりが乏しく、あらすじを説明するのが難しい作品。唯一面白いのは、猫が電線から落ちた時に9つの幽霊が現れ、失神から目が覚めた猫が飛び出した霊を取り戻すというギャグ。

作画は典型的なヴァン・ビューレン版「Aesop's fables」のスタイルである。ポール・テリーが監督してはいるが、以前ポールが監督していた「Aesop's fables」や後のテリー・トゥーンの作風とは少し毛色が異なるため、恐らくこの作品は共同監督であるジョン・フォスター主導で製作されたのではないだろうか。あまり上手いとは言えない。
目玉であるサウンドトラックだが、こちらも出来は良くない。サウンドと映像が同期している…というよりも、サイレント作品に変な効果音や叫び声を追加しただけのような感じ。
「蒸気船ウィリー」のサウンド化を検討していたウォルト・ディズニーもRCAに赴きこの作品を見ているが、「どたばたばかりで何もない」と評していたという。※
効果音製作を担当したマックス・マンネは他にフライシャーの「トーカートゥーン」最初期の音響監督としてその名前を確認できるのだが、「トーカートゥーン」の方も出来は余り良くないと来ているから困ったものである。一体何者なんだ。



※細馬宏通(2013)『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』新潮社

2018年7月20日金曜日

Mask-a-Raid(ベティの仮装舞踏会)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1931年11月14日
評価:★8

シュールなギャグが次から次へと飛び出す傑作


『トーカートゥーン』第28作であり、シリーズ中で初めてベティ・ブープが完全な人間として登場した作品である。(今までは長い耳だったものがイヤリングになっている)
更にベティのデザイン変更と併せて、今まではあくまでもビン坊が主演だったのが今作を以ってベティ・ブープが主演となり(タイトル上部に大きく「Betty Boop in」と出る)、ビン坊は脇役に甘んじる事となる。
そんなシリーズの転機点となった本作品だが、これがなかなかの傑作に仕上がっている。

仮面舞踏会にやって来たベティは女王の座につくのだが、王様にちょっかいをかけられ憤慨する。そこへ先程まで楽団の指揮をしていたビン坊が仮面を持って現れ、王様と軽妙な歌のやり取りをする。(歌っているのは「Where Do You Work-a, John? 」というノヴェルティ・ソング) 仮面が王様の相手をしている間にビン坊はベティとふたりで会場を行進。奇妙な舞踏会の参加者たちも音楽に乗せてノリノリで行進する。
歌が終わると王様とビン坊がベティの奪い合いを始める。ここでベティのスカートがまくれ上がるという下品なギャグが挟まれるのだが、こういった露骨なギャグはヘイズ規制前である当時ならではと言えるだろう。
今度はベティが『You're the One I Care For』というロマンチックな歌を歌い始め、2人に決闘するようお願いする。
ビン坊チームと王様チームの二軍に分かれて剣術試合が始まり、またも音楽に合わせてノリノリで剣を振りかざす。この辺りのギャグのテンポの良さとシュール加減は素晴らしい。
激闘(?)の末にビン坊が負けてしまい牢屋行きとなるが、ビン坊を監獄へ連れていく騎士が兜を外すと実はベティ。ベティに「結婚してくれない?」と言われたビン坊は歓喜のあまりフライシャー十八番のスキャットを歌い始め、最後は目の中に「THAT'S ALL!」という文字が出て終了する。

この時期のフライシャー作品を文章で解説するなんて不可能かもしれない。なんてったってあのシュールな面白さは粗筋では決して味わえないのだ。とにかくキャラクターがノリに乗って無駄に動きまくる。本作品では「フライシャーあるある」な繰り返しの動作も少なく、常にキャラがくねくねと動き回るのだから最高だ。
何よりラストのスキャットの素晴らしさ。目がダンスをし、文字に変わるというシュールなギャグもさることながら、あの絶妙なトリップ感覚は格別である。
作画者は不明だが、シェーマス・カルへインとアル・ユーグスター辺りではないかと私は勝手に推測している。(デザインや動きの癖がそれっぽいような気がする)
ちなみに登場する王様は、「ベティの将棋合戦(Chess-Nuts)」に登場した爺さんと同一人物である。ベティの事を一方的に好いており、ちょっかいを出すという役柄まで同じ。この頃のベティはよく貞操を狙われる。




(作中で歌われる挿入歌「Where Do You Work-a, John? 」)

2018年7月15日日曜日

The Mechanical Cow(ザ・メカニカル・カウ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年10月3日
評価:★7

機械仕掛けの牛とオズワルドの冒険活劇


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第4作である。
1932年にサウンドトラックを付加した上で再公開されており、現存しているプリントもその時のプリントが大本だと思われる。(下記の動画リンクは1932年再公開版。鳴き声のような効果音が用いられている)

機械仕掛けの牛を使った牛乳販売を仕事にしているオズワルド。怠け者の牛は朝になってもなかなか起きようとしないが、オズワルドはなんとか牛を起こして仕事を始める。
カバの親子にミルクを売った後、ガールフレンドのオルテンシアに出会ったオズワルドは仕事そっちのけで情事を楽しむ。
ところが突然悪者が現れ、オルテンシアをさらってしまう。オズワルドは牛に乗って悪者の車を追跡し、見事オルテンシアを救出。乱闘の末悪者もオズワルドも崖から落ちてしまうが、オズワルド達はなんとか助かり、悪者は魚に食べられてしまうのだった。

「機械仕掛けの牛」という面白い設定が目を引く本作だが、牛のパーソナリティー自体は他の動物たちと全く変わらず少し没個性な感じ。とはいえ銃に撃たれてバラバラになっても平気で生きていたり、首がマジックハンドのように伸びたりといった破天荒なギャグはなかなか面白い。
本作は『トロリー・トラブルズ』や後の『プレーン・クレイジー』のような、後半のテンポの良さやアクションが醍醐味となる作品であろう。サイレント期ならではのオーバーなリアクションやパントマイムが何度も用いられ、素早いテンポで次から次へとギャグが繰り出されるので、観ていて飽きが来ないのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月14日土曜日

Oh Teacher(オー、ティーチャー)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年9月19日
評価:★6

オルテンシアを巡って猫とオズワルドが正面(?)対決


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第3作である。
このシリーズはオリジナルのネガが失われており、この作品も1932年にウォルター・ランツの手で再編集された再公開用のプリントしか現存していない。その際に幾つかのシーンが散逸したとの事であり、ぜひともオリジナル版のプリントが発掘されてほしいものである。
作画はヒュー・ハーマン、ローリン・ハミルトン、そしてフリッツ・フレレング。三人とも後にワーナーへ移籍し、特にフリッツはスタジオの大黒柱として数々の名作を手掛ける事となる。(ヒューは同じくディズニー組のルドルフ・アイジングと共に初期ワーナー作品の立役者となり、後にMGMに移籍する)

オズワルドは自転車に乗って、彼女と一緒に学校に行こうとする。ところがそれを邪魔するのが悪ガキ猫で、オズワルドから自転車を奪ってしまう。さらに川に落ちてしまったオルテンシアをオズワルドが助けようとするのだが(「HELP」の文字が馬になるというギャグが良い)、これもまた猫によって邪魔されてしまい、彼女に嫌われてしまったオズワルドは呆然とする。
そして、休み時間。オズワルドは猫に逆襲しようとレンガを持って待ち伏せするのだが、猫にその様子がバレてしまった。猫はレンガを投げてオズワルドに戦いを挑むのだが、投げたレンガが自分に返ってきてたちまち失神。オズワルドはさも自分が倒したかのような素振りを見せ、オルテンシアはオズワルドに惚れ直すのだった。

どうも恋敵同士の対決はオズワルド…だけではなくサイレント期の喜劇映画の定番だったようで、この後もまたシリーズ中数度に亘って繰り返されるテーマである。
前作の「トロリー・トラブルズ」と比べると作画や展開に少し粗さを感じるのが惜しい本作品だが、ギャグやキャラクターの感情表現が豊富なので結構楽しめる。特にヒューが手がけた冒頭のオズワルドが花占いをするシーン、ハミルトンが手がけたオズワルドがレンガの言い訳をして猫を怒らせるシーンの二つはキャラクターの感情がよく現れており面白い。
また、オズワルドの首が取れたり「HELP」の文字が馬になるといったサイレント期ならではのギャグも散見されるのが興味深い。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月8日日曜日

The Shooting of Dan McGoo(アラスカの拳銃使い)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1945年4月14日
評価:★8

アラスカで繰り広げられる過激なギャグの数々


ドル―ピーが出演する2番目の作品。とはいっても前作『つかまるのはごめん(Dumb-Hounded)』から約2年のブランクを経ての公開であり、この間にアヴェリーの作風は更に過激に、そして破天荒になっている。この作品も、オオカミの狂気じみたリアクションや洒落の効いたギャグが満載、そして何より美女のセクシーさがいかにも全盛期のアヴェリーらしい一作である。
作画はディズニー出身の敏腕アニメーターエド・ラヴ、アヴェリーと同じくウォルター・ランツ出身のレイ・エイブラムス、そしてプレストン・ブレアの3人。特にブレアは、『おかしな赤頭巾(Red Hot Riding Hood)』を彷彿とさせる美女の色気ムンムンのダンスシーンを担当しており、特筆すべきである。

極寒の地・アラスカにある酒場『マラミュート・サルーン』は、無法者たちが酒浸りになりながら撃ち合いを繰り返す無法地帯と化していた。そんな酒場に突如オオカミが現れ、お客たちを脅かす。美女ルーのダンスにオオカミはメロメロ、その興奮の仕方ときたら椅子をぶん投げるわ目が飛び出るわと大変な騒ぎ。興奮極まったオオカミは美女を誘拐する事にしたのだが、そこへ現れたのはドル―ピー演じる「早撃ちマグ―」。激闘の末見事オオカミを退治したドル―ピーだったが、美女にキスされると彼もたちまちオオカミのように激しく興奮し、最後はお馴染みの『ぼかぁ幸せだ』を言い放つのだった。

この時期(1945ー48年頃)のアヴェリー作品はまさに絶頂期に差し掛かっており、過激なギャグ、時折挟まれる楽屋オチ的なネタ、キャラクターのオーバーなリアクション、そして作品全体に満ち満ちている狂気、どれをとっても完成度が高いのだ。その強烈なテンポの良さは、ある種のカタルシスすら覚える。(もっとも、アヴェリーも50年代になると作風がガラリと変わり、UPAを彷彿とさせるシニカルな作風へと転向するのだが…)
この作品も、狂気度は薄いが例外ではない。特に美女のセクシーなアニメーション、そしてそれに興奮するオオカミのリアクションぶりは抱腹絶倒ものである。もはや芸術作品の域。最高。



収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection

2018年7月6日金曜日

Dumb-Hounded(つかまるのはごめん)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1943年3月20日
評価:★7

逃走劇が楽しい『ドルーピー』第一作


ワーナーでバッグス・バニーやダフィー・ダックといった数々のスター達に命を吹き込んできたテックス・アヴェリーが、MGMに移籍後初めて産み出したスター「ドル―ピー」が主演を務める初の作品である。
ウォルター・ランツのスタジオで頭角を現し、ワーナー時代『メリー・メロディーズ』でその個性を爆発させたアヴェリーだったが、1942年にMGMに移籍するや否や、カートゥーン史上類を見ない爆発的に面白い傑作群を次々と産み出した。この作品は、そんな彼の素晴らしい伝説の幕開けとなった作品と言えるだろう。

刑務所から脱獄したオオカミを警察犬が追いかける。その中でもひと際のんびりとしたテンポで犯人を捜すのはドル―ピー。オオカミはアパート、森の小屋、ハリウッド、そして果ては南極へと逃げ回るが、どこに行っても『なぜか』ドル―ピーが彼を待ち構えていた。追い詰められたオオカミは、ついに高層ビルの屋上から飛び降り自殺…と見せかけ華麗に着地。そのまま逃げようと歩き出した途端、ドル―ピーがビルの屋上から落とした巨大な岩に潰されとうとう捕まってしまった。大手柄を打ち立てたドル―ピーはお偉方から褒美として札束をもらうが、途端に先程までの態度が嘘だったかのようにはしゃぎ回り、一言『ぼくは幸せだ』と言い残すのだった。

逃げ回る余りフィルムから飛び出してしまう、落下するオオカミを葬儀屋が取り調べる、元いたすみかに舞い戻る時は『フィルムの逆再生』を用いるといった傑作なギャグもいくつかあるが、この作品の魅力は、やはり待ち構えているドル―ピーを見た時のオオカミの驚くリアクションの面白さに尽きる。
その驚きようときたら、目は飛び出し服は脱げ舌は飛び出しと大変な騒ぎ。テックス・アヴェリー節全開である。

と、もちろん面白い作品なのだが、初期作品という事もあってか彼特有の魅力がまだ充分に発揮されていないのが残念。テンポやタイミング、そして作品の肝となるキャラクターのリアクションが、後年の作品群と比べてまだまだマトモなのだ。
3年後にリメイク版である『迷探偵ドルーピーの大追跡(Northwest Hounded Police)』が公開されるが、こちらの方がギャグの面でも狂気度の面でも数段パワーアップしていて面白い。(ことさら顔芸の面白さが最高)



収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection

2018年6月29日金曜日

Hold It(猫じゃ猫じゃ)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1938年4月29日
評価:★8

『猫が叫ぶと世界が止まる』


『カラー・クラシック』第23作。公開前月に、フライシャー・スタジオはスタジオ初の長編作品『ガリバー旅行記(Gulliver's Travels)』の製作に向けて本拠地をニューヨークからフロリダ州マイアミに移している。
この作品はスタジオがマイアミに移転してから初となる『カラー・クラシック』だが、ニューヨーク的なノリがまだまだ健在、なかなかの傑作に仕上がっている。
作画はデヴィッド・テンドラー、後身のフェイマス・スタジオでも20年以上に亘って作画に携わるニコラス・タフリ。両者とも後期フライシャー・スタジオ、そしてフェイマス・スタジオを代表する存在である。

真夜中に家から追い出されてしまった猫たちが裏庭に集まり、楽しくジャズに興じる。指揮を執る黒猫が『Everybody Hold!(止まれ!)』と叫ぶと、不思議なことに音楽も、猫も、木から落ちるリンゴも、何もかもが止まってしまう。
猫たちはこの騒ぎで目を覚ましてしまった犬に追いかけられるが、『止まれ!』の合図を猫たちが叫ぶと犬も止まる。これを利用して猫たちは犬を散々にやっつける。後年のテックス・エイヴリーを連想させるこの格闘シーンはギャグのタイミングもアイデアも素晴らしく、この作品が傑作たる所以である。
終いにはこてんぱんにやられてしまった犬を横目に、猫たちは勝利の歌を高らかに歌うのだった…が、今度は目を覚ました人間にやっつけられてしまうのだった。

猫が奏でるコーラスや軽快な劇伴音楽も楽しい本作だが、見どころはやはり『猫が叫ぶと周りにある物が全て止まる』という素晴らしくバカげた、そして魅力的なアイデアだろう。『インク壺』以来、何度も用いられてきた楽屋オチ的ギャグの一環でもある。中でもダイナマイトを加えさせた所で犬を停止させ、ダイナマイトの口火だけが動いて大爆発を起こすというギャグの、その痛快さ。
チャカチャカ動くアニメーションは、30年代終盤にしては少々古臭い。だが、冒頭のステレオプティカル・プロセスを用いたシーンの美しさは格別で、ギャグに満ちたこの作品の良きスパイスとなっている。『シリー・シンフォニー』の亜流じみた作品が目立つこのシリーズの中で、こうしたギャグ物の傑作が生まれたのは驚くべき事である。恐らくシリーズ唯一とも言えるのではないだろうか。
アニメーション研究家の森卓也氏も、名著『アニメーション入門』でこの作品を取り上げ、称賛されている。



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

2018年6月27日水曜日

Dancing on the Moon(月へハネムーン)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1935年7月12日
評価:★7

新婚旅行は月で!ユニークなアイデアが魅力的な作品


『カラー・クラシック』第6作。当時ディズニーが三色式テクニカラーを独占していたため、本作は発色が劣る二色式テクニカラーで撮影されている。とはいえ、この作品はかなり状態の良いプリントが現存しており、三色法にも劣らない鮮やかな色彩が楽しめる。
作画は、後にフェイマス・スタジオの代表的な演出家となるシーモア・ネイテルと、『ベティの白雪姫(Snow White)』を始めとする多くのフライシャー作品に携わったローランド・クランドル。2人は当時フライシャー・スタジオのヘッドアニメーターで、ウィラード・ボウスキーやマイロン・ウォルドマンらと共に30年代のスタジオを代表する存在であった。

『月(ムーン)でハネムーンを』と、新婚夫婦たちが主題歌の『Dancing on the Moon』を歌いながら次々と月行きの宇宙船に乗り込んでいく。遅刻してしまった猫の夫婦も慌てて宇宙船に乗ろうとするが、むりやり乗り込もうとしたところでロケットが発車してしまった。宇宙船から振り落とされてしまった花嫁は激怒、宇宙船に取り残されてしまった花婿は一人寂しくトランプなどをして過ごすのだった。
宇宙船は宇宙空間をどんどん突き進んでいき、あっという間に目的地の月に到着。そこでは、見渡す限りの壮大な月世界風景が広がっていた。カップルたちは月世界での甘いひと時を楽しんでいたが、猫の花婿だけは一人悲しそうに座り込んでいるのだった。新婚夫婦たちがダンスを嗜んでいる時も、猫の花婿は寂しく一人で踊る他はなかった。
ダンスの時間が終わると、宇宙船は地球へと舞い戻る。ハネムーンには赤ちゃんが付き物、コウノトリが地球に帰ってきた夫婦たちへ子供をプレゼントするのだった。
ところが花嫁を連れて行けなかった猫の花婿のもとには子供が訪れず、彼は途方に暮れてしまう。そして、花婿の帰りを待っていた花嫁が駆け寄ってきて、哀れな花婿をぼこぼこに殴り倒してしまうのだった。

少々猫の花婿が不憫すぎる気はするが、『カラー・クラシック』にしては珍しく作品全体にユーモアに満ちており、楽しい一編である。何より、『ハネムーン』を文字通り『月旅行』に仕立て上げるという、フライシャーらしいユニークなアイデアには感嘆するばかりだ。また、『天の川(Milky Way)』で牛が乳を絞られていたり、月がまるであの『月世界旅行』のような姿になるなど、シニカルなギャグも随所に散りばめられており、こちらも面白い。
本作でも立体模型を用いたセットバック撮影(ステレオプティカル・プロセス)が採用されており、作品に素晴らしい遠近感を与えている。新婚夫婦たちがダンスを踊るシーンでの月世界の風景は特に魅力的で、この撮影技法の良さが最大限に発揮されたといえるだろう。
アニメート技術は、30年代中期のフライシャーとしては水準程度。いかにも『1930年代のカートゥーン』な動物キャラたちが、かわいく動き回るのが楽しい。



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

2018年6月23日土曜日

Little Dutch Mill(丘の風車小屋)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1934年10月26日
評価:★6

オランダの風車小屋にまつわる、ある騒動を描く


フライシャー・スタジオがディズニーの「シリー・シンフォニー」に対抗して1934年に開始したシリーズ『カラー・クラシック』の第二作。当時ディズニーが三色式テクニカラーを独占していたため、独占契約が切れた1936年度までの作品は発色が劣る二色式テクニカラーで撮影されており、この作品もその中の一作である。(第一作の『ベティのシンデレラ(Poor Cinderella)』のみシネカラー)
作画は30年代の同スタジオを代表する作画スタッフのウィラード・ボウスキーと、後に多くのカラー・クラシックの作画を担当するデヴィッド・テンドラー。汚い身なりをした風車の持ち主の、荒々しい動きが見もの。

舞台はオランダの平和な村。ある2人の少年少女と可愛いアヒルが、丘の上にある風車小屋の周りで楽しく遊んでいた。ところがその風車小屋の持ち主は、ずるをしては金を稼ぐ事を生きがいとする汚い身なりをした男。男がお金を小屋の中に貯め込んでいるのを発見した2人は、男に捕まってしまう。アヒルは慌てて村の大人たちを呼び、男は無事に捕まった。村の人々は男の身なりをきれいにし、小屋の中も隅々まで掃除した。
するとどうだろう。あんなに下品だった男の身なりはすっかり綺麗になり、あんなに汚かった小屋の中も美しく蘇った。男は村の人々に感謝し、貯めこんでいたお金をみんなに分け与えるのだった。

本作では立体模型を用いたセットバック撮影がふんだんに取り入れられており、フライシャー独特の迫力を生み出しているのが素晴らしい。優れた音楽や背景美術もオランダの牧歌的な雰囲気をうまく演出しており、なかなか好印象な作品である。同じく『風車小屋』を作品の主題としたディズニーの『風車小屋のシンフォニー(The Old Mill)』(1937)と対比するのも一興だろう。
ただ、―これは『カラー・クラシック』短編のほぼ全てに言える事なのだが―作品内にユーモアが欠如しておりあまり楽しくないのが残念。1934年以降、フライシャー・スタジオはディズニーの影響を受けて徐々に作風が変化していき、初期にあったシュールな魅力が少しずつ失われていくのである。



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

2018年6月21日木曜日

The Old Mill(風車小屋のシンフォニー)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1937年11月5日
評価点:★10

圧倒的なビジュアルで描き出される自然の美しさ


『カートゥーンの黄金時代』が産声を上げた直後の1929年より製作が開始され、数々の技術革新、そして作品としてのクオリティの高さにより1930年代におけるカートゥーン界を牽引してきた歴史的な短編シリーズ『シリー・シンフォニー』。
その中でもひと際輝いた魅力を放ち、アニメーション史に残る傑作に数えられるこの美しい短編は、同シリーズ第68作・シリーズ後期にあたる作品である。
監督は、これまでにも同シリーズで数々の名作の演出を担当してきたウィルフレッド・ジャクソン。音楽とアニメーションの見事な融合にかけては、この監督に敵う演出家はいなかったであろう。


のどかな田園の奥に、古びた風車小屋が聳え立っている。もう既に使われなくなって久しい小屋の中では、鳥や獣たちが思い思いの生活を営んでいた。夜になると蛙たちが軽快な合唱を始める。彼らの声に合わせるかのようにコオロギが鳴き始め蛍が飛び交い、辺り一面は小さな演奏会と化すのだった。
その時、夜空が瞬く間に雲に隠れ、雨が降り出した。嵐が始まったのだ。風車小屋では歯車が激しく音を立てながら回り始め、植物たちは悲痛な演奏を奏で、風車小屋に棲む動物たちはひたすら自然の脅威に耐えていた。そして突如雷が風車小屋に直撃し、風車小屋は大きな音を立てて半壊してしまうのだった。
嵐が止み夜明けが訪れると、そこには嵐が起こる前と何ら変わらない生活を営む動物たちの姿、そして美しい自然の姿があった。


この作品を語る上では、ある特殊な装置の存在をまず最初に知っておく必要がある。
1937年、ウォルト・ディズニー・プロダクションに所属する録音技師ウィリアム・ギャリティは、初のカラー長篇アニメ映画『白雪姫』の製作に向けて、ある特殊な撮影台を開発した。マルチプレーン・カメラである。この装置は複数枚のセル画を複数の層(プレーン)に設置し、それぞれを異なったスピードで動かすことで作品に立体感を生み出すという画期的な代物だった。
既に1926-27年頃にロッテ・ライニガー、1933-34年頃にはアブ・アイワークスが似た機構の立体撮影装置を開発してはいたが、ディズニーはこれらの装置を更に改良し、作品のリアリティを飛躍的に高めようと目論んだのであろう。また1934年には当時ディズニーの最大のライバルであったフライシャー・スタジオがステレオプティカル・プロセスという立体撮影装置を開発している。こちらは平面のセルの奥に、背景として立体模型をセットし撮影するという方式(セットバック撮影)で、ディズニーのマルチプレーンとは少し毛色の異なる技術だった。
この作品ではそのマルチ・プレーンカメラによる撮影がスタジオ内で初めて取り入れられ、『白雪姫』に先行すること一か月前に公開された。言わば『マルチプレーン・カメラのテスト作』なのである。
この装置を用いて撮影された場面、特に冒頭の風車小屋を取り巻く遠景、そして風車小屋が嵐に翻弄されるシーンは、公開から80年を経た現在でも圧倒的な美しさを放っている。

この作品が製作された1937年当時のディズニー短編は、写実性、抒情性の両面で絶頂期に入っており、一種の芸術作品の域に達していた。アニメーションの楽しさが圧倒的なリアリズムによって表現され、その素晴らしさは現在観ても全く見劣りしない。この作品も例外ではないが、ディズニー作品の中でもかなり『写実性』に重点が置かれている点で一線を画す。
全編通して自然描写に徹しており、劇的なストーリーは持っておらず、ギャグも皆無に等しい。もしかすると人によっては退屈に思える内容かもしれない。だが、私はこの作品を見る度に、この素晴らしく迫力のあるアニメーションと音楽によって描き出される自然の美しさと脅威にひたすら圧倒され、魅了されるのだ。『白雪姫』の美術を手掛けたサム・アームストロングによる絵画のように美しい背景美術も、この作品の大きな魅力と言える。
アニメート技術が飛躍的に向上し、夢の世界が圧倒的な説得力を持って描き出されていた1930年代後半のカートゥーンを代表する、アニメーション史に燦然と輝く名作である。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年6月15日金曜日

Congo Jazz(混合ジャズ)

監督:ヒュー・ハーマン&ルドルフ・アイジング
公開日:1930年4月19日
評価:★5

ボスコがジャングルの動物たちと楽しくダンス


黒人少年ボスコを主人公としたシリーズ『ルーニー・テューンズ』第2作。作画はカーマン・マックスウェル、後にウォルター・ランツのスタジオに移籍し数多くの作品を監督するポール・スミスの2人である。2人はヒュー、ルドルフと同じくディズニー出身であり、『アリス・コメディ』といった初期シリーズの製作に携わっていた。
となると、この作品がサイレント期におけるディズニーそっくりの作風となるのも当然。事実この時期のボスコの動きやパーソナリティーは『オズワルド』そのものである。ストーリーラインもどことなくディズニーの『Africa Before Dark』(1928)や『Jungle Rhythm』(1929)を想起させる物となっている。

あらすじはシンプルで(この作品のメインはあくまでも音楽なのである)、狩りに来たボスコが猛獣に襲われそうになるが、音楽を奏でる事によりなんとか助かり、ラストは動物たちと一緒に軽快なジャズセッションを愉しむ、というもの。
アニメーションは良く出来ており音楽も愉快だが、ギャグや独創性、そしてキャラクターの個性に乏しく少し退屈な印象を受ける。これは同時期のルーニー・テューンズ、そしてハーマン=アイジング作品のほとんどに言える事であった。楽しいが、とにかく平凡でオリジナリティに欠けるのである。

この作品の見どころは、ラストの愉快なジャズセッションである。ディズニーとは異なり、音楽担当のフランク・マーセルズはワーナー・ブラザーズが権利を持つポピュラー音楽をBGMにふんだんに取り入れる事ができた。この作品でも、『Giving It This and That』という1930年に発表された軽快なジャズソングがラストで使用される。



※収録DVD:Looney Tunes Golden Collection Vol.6

2018年6月11日月曜日

Silly Scandals(ビン坊の寄席見物)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1931年5月23日
評価:★7

歌うベティと幻想的なクライマックスに見惚れる一作


『トーカートゥーン』第22作。ベティ・ブープもこの頃になるとビン坊に代わるスタジオの新たなスターとなり始めており、本作でも1930年にヒットした『You're Driving Me Crazy』を一曲披露してくれる。この作品の見どころは、ずばりこのベティの歌声と、後述するクライマックスの名シーンの2つに尽きるのである。

寄席(ヴォードヴィル)のポスターを街中で見かけたビン坊は、お金が無いのでどさくさに紛れて劇場に潜入する。これが本当の"びんぼう"なんちって… 舞台からベティが登場し、名曲『You're Driving Me Crazy』を披露。ビン坊は客席からベティと一緒に歌い出し、他の観客たちに睨まれてしまう。
続いて手品師が登場するのだが、ビン坊が彼の手品を見て大笑い。怒った手品師は催眠術を使ってビン坊を舞台へ誘導し、ビン坊は様々な魔術をかけられてしまう。終いには頭をポカリと一撃され、映像もサイケデリックに一転、目まぐるしいテンポで変化するアニメーションの中で先程の『You're Driving Me Crazy』を歌い上げるのだった。

この作品でもベティはセクシーさが強調されており、歌っている途中でドレスがずり落ちブラジャーが丸見えになる、なんていうギャグもある。また太ももにガーターベルトを付けているなど、現在知られているスタイルにぐっと近づいている。
そして何より、この作品の肝はシュールで幻想的なラストシーン。ビン坊の顔が分裂し結合し、次々に様々な形に変わっていく。ビン坊だけではなく、背景までもが目まぐるしく変化し動きまくる。まさにサイケデリックなアニメーションが次々に展開していくのだ。

ストーリーは平板で、作品前半では目立ったギャグやアニメ―トも少ない凡作なのだが、このラストシーンが素晴らしすぎるが故に、私にとってはシリーズ中で最も強烈な印象を残した作品の一つなのである。クレジットが散逸したために、作画者が不明なのがつくづく惜しい。私の予想ではシェイマス・カルへインやアル・ユーグスター辺りのような気がするのだが…どうなんだろう。(Wikipediaではグリム・ナトウィックが作画者となっているのだが、本当なんだろうか?)




(ルディ・ヴァリーが歌う『You're Driving Me Crazy』。当時人気絶頂だった彼は『スクリーン・ソングス』にも数多く出演していた)

2018年6月5日火曜日

Who Killed Cock Robin?(誰がコック・ロビンを殺したの?)

監督:デヴィッド・ハンド
公開日:1935年6月29日
評価点:★9

暗黒裁判を痛烈に風刺した、アダルトな傑作


シリー・シンフォニー第54作、シリーズ中期にあたる作品である。公開年は1935年、この年には他に『うさぎとかめ(The Tortoise and the Hare)』『音楽の国(Music Land)』『クッキーのカーニバル(The cookie carnival)』といった傑作群が立て続けに発表された。1930年代のカートゥーンを代表するこのシリーズも、30年代中期に差し掛かりまさに円熟の域に入っていたと言える。
本作の監督は、2年後に『白雪姫』を監督するデヴィッド・ハンド。シリー・シンフォニーではこれ以前にも幾つかの作品を演出しているが、彼のシニカルな一面が最もよく発揮されたのは、この作品と『プルートの化け猫裁判(Pluto's Judgement Day)』(同年公開)の2作だろう。

さて、本作はTVアニメ『パタリロ!』EDテーマの一節としても馴染み深い、有名なマザー・グースの詩『こまどりのお葬式』(Who Killed Cock Robin?)をモチーフとした物語。とはいっても原作の詩からは大きくかけ離れたストーリー仕立てとなっており、こちらは裁判所・警察機関への痛烈な風刺や美女が繰り出す色仕掛けの面白さが前面に出た内容となっている。結末もディズニーらしく、明るいハッピーエンド。

セクシーな美しいミソサザイ、ジェニーに一目惚れしたコック・ロビン。彼女にムードたっぷりな歌を捧げるが、何者かに矢で射られて殺されてしまう。裁判が始まったが、裁判長も警察も裁判官も、そして証言者であるジェニーまでもがどこか投げやりな態度。無実の罪に問われた容疑者たちが次々に酷い目に遭うのだが、そこへ真犯人が現れる。実は真犯人は恋のキューピッドで、コック・ロビンはただ気を失っているだけだったのだ!かくして暗黒裁判は終わりを告げ、二人は熱い熱いキスを交わすのだった。

全体を通して、非常に大人びたシニカルな作風となっている。特に、ハミルトン・ラスクが作画を担当したミソサザイ・ジェニーは、そのデザインや動きや性格、声に至るまで全てが色気に満ちている。既にヘイズ規制が施行されていた1935年に、こうしたキャラクターが登場した事には驚くばかりだ。本来こうした作風を得意としていたはずのフライシャーは、この時期すでに穏当な作風へと転換しつつあった…。

このキャラクターは当時少なからず大衆の人気を掴んだようで(本作品は35年度のアカデミー賞を受賞している)、翌年の『うさぎとかめと花火合戦(Toby Tortoise Returns)』『ミッキーのポロゲーム(Mickey's Polo Team)』にてカメオ出演を果たしている。

『首吊りだ!』と言ったセリフが当たり前のように飛びかい、セクシーなミソサザイが周りを色気で惑わせ、濃厚なキスに酔う。やりすぎ、というくらいに強調された警察の強気な姿勢、裁判のズッコケ感はどことなく批判精神まで漂わせている。数ある「シリー・シンフォニー」の中でも、ここまで大人向けに徹した作品はなかなか見当たらない。
とはいえこれはあくまでも楽しいミュージカル。フランク・チャーチルが手がけたキャッチーでブラックなテーマ曲に乗せて展開する、どこか間の抜けたドタバタ裁判劇を素直に楽しむのも一興だろう。そして、デヴィッド・ハンドの巧みな演出、魅力的なキャラクターの色気に酔いしれるのだ。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]