2018年6月5日火曜日

Who Killed Cock Robin?(誰がコック・ロビンを殺したの?)

監督:デヴィッド・ハンド
公開日:1935年6月29日
評価点:★9

暗黒裁判を痛烈に風刺した、アダルトな傑作


シリー・シンフォニー第54作、シリーズ中期にあたる作品である。公開年は1935年、この年には他に『うさぎとかめ(The Tortoise and the Hare)』『音楽の国(Music Land)』『クッキーのカーニバル(The cookie carnival)』といった傑作群が立て続けに発表された。1930年代のカートゥーンを代表するこのシリーズも、30年代中期に差し掛かりまさに円熟の域に入っていたと言える。
本作の監督は、2年後に『白雪姫』を監督するデヴィッド・ハンド。シリー・シンフォニーではこれ以前にも幾つかの作品を演出しているが、彼のシニカルな一面が最もよく発揮されたのは、この作品と『プルートの化け猫裁判(Pluto's Judgement Day)』(同年公開)の2作だろう。

さて、本作はTVアニメ『パタリロ!』EDテーマの一節としても馴染み深い、有名なマザー・グースの詩『こまどりのお葬式』(Who Killed Cock Robin?)をモチーフとした物語。とはいっても原作の詩からは大きくかけ離れたストーリー仕立てとなっており、こちらは裁判所・警察機関への痛烈な風刺や美女が繰り出す色仕掛けの面白さが前面に出た内容となっている。結末もディズニーらしく、明るいハッピーエンド。

セクシーな美しいミソサザイ、ジェニーに一目惚れしたコック・ロビン。彼女にムードたっぷりな歌を捧げるが、何者かに矢で射られて殺されてしまう。裁判が始まったが、裁判長も警察も裁判官も、そして証言者であるジェニーまでもがどこか投げやりな態度。無実の罪に問われた容疑者たちが次々に酷い目に遭うのだが、そこへ真犯人が現れる。実は真犯人は恋のキューピッドで、コック・ロビンはただ気を失っているだけだったのだ!かくして暗黒裁判は終わりを告げ、二人は熱い熱いキスを交わすのだった。

全体を通して、非常に大人びたシニカルな作風となっている。特に、ハミルトン・ラスクが作画を担当したミソサザイ・ジェニーは、そのデザインや動きや性格、声に至るまで全てが色気に満ちている。既にヘイズ規制が施行されていた1935年に、こうしたキャラクターが登場した事には驚くばかりだ。本来こうした作風を得意としていたはずのフライシャーは、この時期すでに穏当な作風へと転換しつつあった…。

このキャラクターは当時少なからず大衆の人気を掴んだようで(本作品は35年度のアカデミー賞を受賞している)、翌年の『うさぎとかめと花火合戦(Toby Tortoise Returns)』『ミッキーのポロゲーム(Mickey's Polo Team)』にてカメオ出演を果たしている。

『首吊りだ!』と言ったセリフが当たり前のように飛びかい、セクシーなミソサザイが周りを色気で惑わせ、濃厚なキスに酔う。やりすぎ、というくらいに強調された警察の強気な姿勢、裁判のズッコケ感はどことなく批判精神まで漂わせている。数ある「シリー・シンフォニー」の中でも、ここまで大人向けに徹した作品はなかなか見当たらない。
とはいえこれはあくまでも楽しいミュージカル。フランク・チャーチルが手がけたキャッチーでブラックなテーマ曲に乗せて展開する、どこか間の抜けたドタバタ裁判劇を素直に楽しむのも一興だろう。そして、デヴィッド・ハンドの巧みな演出、魅力的なキャラクターの色気に酔いしれるのだ。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

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