2018年3月30日金曜日

Stratos-Fear

監督:アブ・アイワークス
公開日:1933年11月11日
評価点:★8

アイワークス・スタジオが突如放った、狂気に満ちた傑作


『ウィリー・ホッパー』第4作となるこの作品から、それまでは普通の少年としてデザインされていた主人公のウィリーが、まるで風船のように丸々と太ったデザインに変更された。
変更されたのはデザインだけではなく、それまでのアイワークス・スタジオが持っていた些か牧歌的といえる作風まで大転換が行われた。
そう、『ウィリー・ホッパー』は後のボブ・クランペットによる『Porky in Wackyland』(1938)を彷彿とさせる、悪夢のような世界観、シュールなキャラクター造形、前衛的な劇伴音楽(奇しくも音楽担当はどちらもカール・スターリングである)を持ち味とする狂気のカートゥーンに生まれ変わったのである。
そんな狂気が持ち味となったこのシリーズの中でも、特にトチ狂った佳作と呼ぶべきなのがこの作品。

あらすじはまさに悪夢そのものだ。『Dr.A.King』という歯医者で麻酔ガスを吸いすぎてしまったウィリーは、ぷくぷくに膨らんで宇宙の彼方まですっ飛んでしまう。
奇妙な宇宙空間をさまよった挙句彼が着いたのは、逆再生語を話す謎の科学者が怪しげな動物実験を繰り返す、奇妙極まりない惑星だった。実験材料にされそうになったウィリーは慌てて逃走するが、行く先々で『Wackyland』を先取りしたようなキャラクターに邪魔される。BGMも良い感じにミステリアス、カール・スターリングの本領発揮といったところか。そんな彼は突如現れた美女に誘惑されるが、その美女の正体は先程の科学者。
ついに捕まってしまった彼だったが…実は今までの出来事は全部麻酔ガスを吸った彼が見た悪夢だった、というオチがついて物語は終わる。

この作品でアブは、セルと背景はカラーで塗り撮影は白黒で行う、という興味深い試みを行っている。その結果、作品からは従来とは異なる独特の空気感が漂うようになったという。
そんなスタジオの創意工夫のあとも垣間見る事ができる、興味深い作品だ。
(惜しむらくは現在残っているプリントの状態があまり良くない、という事だろうか…)



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年3月28日水曜日

Bimbo’s Initiation(ビン坊の結社加盟)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1931年7月24日
評価:★9

ダークでコミカル。悪夢のような世紀の大傑作


『Talkartoon』第24作となるこの作品は、アニメ史に残る大傑作となった。
まず、この短編は今までデザインが不安定だったビン坊が最終デザインに改訂されてから二作目にあたる作品となっている。より『犬』としての個性が追加されたビン坊に与えられたのは、悲惨でハチャメチャな―それでいてハチャメチャに面白い短編作品の主演だった。
この作品が製作された1931年というのは、ちょうど狂乱のジャズ・エイジが終わりを告げ、大恐慌時代に突入した頃である。そんなダークで重苦しい時代の空気と、フライシャーの持つ軽快かつシュールな作風は見事に溶け合ったのだ。

ストーリーは例によってあってないような物。(…でそれがまた良い味を出しているのだ。)
街を歩くビンボーは、謎のミッキーもどきのネズミによって地下深くに落とされてしまう。やっとの事で着地した彼が目にしたのは、怪しげな秘密結社の集団であった!何度も『Wanna be a Member?』(メンバーにならないか?)とビン坊に問うメンバー達。ビン坊は毎回『やだ!』と叫ぶが、そのたびに酷い目に遭ってしまう。刃物付きの天井が迫ってきたり、セメントのような固いプールに飛び込んでしまったり…。

このビン坊が災難に遭うシーンの作画が実に素晴らしい。ノリの良いBGM『タイガー・ラグ』に合わせて、ハイテンポで背景動画付きの凄まじいギャグが展開されていく。
次々に振り下ろされる斧を避けながら通路を進むと、自分の腰を叩いてくるらせん階段に追われる。かと思えば刃物で自分の影の首をちょん切られ、挙句の果てにはノコギリのような扉が襲ってくる…!
ビン坊ついに疲れ果て座り込むと、そこにいたのはなんとベティだった。(このベティはまだ最終デザインになっておらず、犬のような風貌になっている)
グニャグニャした奇妙な踊りを披露する犬ベティ。ビン坊も思わずニヤニヤし始める。
ここで先程の『Wanna be a Member?』(メンバーにならないか?)がまた登場。色気に負けてビン坊思わず「イエス!」
すると秘密結社のメンバーたちはなんと全員ベティになり、みんなで歌えや踊れや…といった調子で物語は終了する。

この作品、文章では到底言い表す事の出来ない狂気に満ちた代物である。まさに30年代前半におけるクラシック・カートゥーンのお手本のような作品。一度観てみたら、きっとそのコミカルでダークな雰囲気に魅了される事は間違いないだろう。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.2

2018年3月27日火曜日

The Air Race(ウィリーの飛行機猛レース)

監督:アブ・アイワークス
製作年:1933年
評価点:★6

ユーモアに満ち溢れた佳作


『カエルのフリップ』シリーズを一旦終了させたアイワークス・スタジオが、スタジオの顔として新たに創作した、大ボラ吹きの少年『ウィリー・ホッパー』が主演するシリーズの第一作。
このシリーズは『フリップ』よりも奇妙で不条理なギャグを前面に出しているのが特徴的なのだが、主人公『ウィリー』のデザインが以降の物と異なる今作においてもその独特の魅力は存分に楽しむ事ができる。
なお、この作品は配給側のMGMが作品内容に難色を示したため実際には劇場公開されなかったという、ある意味『幻のパイロット作品』とも言うべき代物でもあるのだ。(同年、本作品のプロット、一部のアニメーションを再利用したリメイク作『Spite Flight』が製作されている)

さて、この作品は以前アイワークスがディズニー時代において製作に関わった『The Ocean Hop』(1927)のリメイク作とも取れる内容となっている。
プロットもよく似ている。どちらも単純明快、愉快な飛行機レースなのだ。最もこちらは『ウィリー』が喋る壮大な作り話だった、という一ひねりしたオチがつく訳だが…。
他にも『悪役が主人公の飛行機のタイヤにガムをつけてレースを妨害する』など、ギャグに関しても共通する部分があるのが興味深い。

作品の質自体はそこそこ楽しめる凡作に留まってはいるものの、幾つか目を見張る小洒落たギャグが登場する。
例えば、飛行機が煙突に激突するシーンでは図のように背景に実写映像を使用。ド派手に崩落する煙突の妙な迫力が笑いを誘う。


他にも、『花火屋』(Fireworks)に飛行機が激突し、ボロボロになった看板はなぜか監督の名前『アイワークス』(Iwerks)になってしまうというダジャレ的なギャグもなかなか魅力的である。


なお、この作品を筆頭とする初期三部作が製作された後、平凡な少年だったウィリーは、グリム・ナトウイックを始めとするスタジオ在籍のアニメーター達によって丸々太った少年へとデザインが大変更される。変更されたのはデザインだけではなく、作品の雰囲気や色彩設計までもが、今までとは異なる独創的な領域に突入していくのだった……。



※収録DVD:Ub Iwerks' Willie Whopper

2018年3月23日金曜日

トンボになったヤッちゃん

監督(演出):鈴木元章
製作年:1973年
評価点:★4

優しい紙芝居タッチで描かれる交通事故の悲劇


去る2017年9月に開催された、『時報映画作品研究会』。
現在インターネット上で話題を呼んでいる『星の子ポロン』『ガンとゴン』の製作を担当した映像製作会社『時報映画社』が、1970年代に制作したといわれる児童教育用の短編映画が数点上映された。
俗に言う『カルトアニメ』揃いの上映ラインナップだったわけだが、その中でも特に異彩を放っていたのがこの作品。NHK教育テレビで放送されている『てれび絵本』、あれを貧弱にしたような代物だった。

ずばり『本物の』紙芝居作品だったのである。

つまり一般的なセルアニメではなく、止め絵(水彩画?)の連続でストーリーを展開していく形式となっていたのだ。
その独特の優しい画のタッチは作品のブラックなストーリーにマッチし、良くも悪くも児童の感情を揺さぶる怪作に仕上がっていた。

真面目で良い子なのだが、とっさの時になると交通ルールを忘れてしまう少年、ヤッちゃん。そんなヤッちゃんが大好きで、いつも気にかけている少女ミーコ。この二人を中心にストーリーは展開する。
物語は、ヤッちゃんが紙飛行機に乗ってドラゴンと戦う、ミーコの夢のシーンから始まる。彼女は明るく元気なヤッちゃんが大好きなのだが、いざとなると交通ルールを守れないヤッちゃんの事をいつも気にかけているのだった。
そんなヤッちゃんたちは「青い風」を歌いながら学校の遠足に出かける。
ところが…彼はちょっとした不注意から車道に飛び出してしまい、車に轢かれて死んでしまう。(事故そのものを表現したシーンは存在せず、周りが悲しむ反応やミーコのセリフで彼の死が示唆される演出となっている)

「ー元気の良かったヤッちゃん。皆の誰からも好かれたヤッちゃん。私の大好きだったヤッちゃん…でも、世界中で一番のおバカさんだった、ヤッちゃーん…」
ミーコの悲痛な叫びが、夕焼けにこだまする。夕焼けの空の下、一匹のトンボが飛んでいるイラストで物語は終わる。
そう、タイトルの「トンボになったヤッちゃん」とは、交通事故で死んだ彼を比喩したタイトルだったのだ。

『ルールをわかりやすく教える』のではなく、『交通事故の恐ろしさをストレートに伝える』内容となっていたこの作品、ルール解説ものが多い交通教育アニメの中ではなかなか異質な仕上がりとなっていた。
内容の類似性などから、交通啓発作品の名作『チコタン』(1969年、学研製作のアニメ版は1971年)に影響されたとも考えられる。

ともかく、悪い意味でも良い意味でも強烈な印象が残る一種のカルト的な作品であった。

2018年3月21日水曜日

Egyptian Melodies(エジプトの夢)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1931年8月19日
評価点:★7

画作りの美しさが際立った一作


シリー・シンフォニー第21作にあたる本作品は、タイトルの通り古代エジプトの幻想的なイメージを、エスニックな音楽に乗せて描いたもの。
同時期のシリ―・シンフォニーの御多分に洩れず、はっきりと筋の通ったストーリーは存在しない、ひたすら画の美しさで観客を魅せる作品に仕上がっている。

物語はスフィンクスを映した遠景のカットから幕を開け、次のシーンでは一匹の可愛らしいクモが古代エジプトのピラミッドに潜入する。
その次に登場するカットはある意味この作品一の見どころ、いやアニメ作画史に残る名作画と言えるだろう。

クモが薄気味悪い遺跡内部を探検する様子が、一人称視点の見事な背景動画で克明に描き出されている。カメラアングル、緻密な作画どれをとっても素晴らしい臨場感!観ている側はこちらまでピラミッドを探検しているような気分になる。
後にミッキーマウスの短編『The Mad Doctor』(1933)にも流用される、屈指の名作画である。

ようやく内部に潜入できたと思ったクモだったが、そこへミイラ達が現れ怪しげなダンスを踊り始める。なんと壁画まで動き始め踊り狂い、すったもんだの大騒ぎ。
ディズニー持ち前の細やかな作画や迫力ある構図はもちろん、多重露光を用いたり小気味良いテンポで話が展開されたりと、かなり意欲的な表現を試みている。
恐怖に震えるクモは急いで来た道を駆け戻り、砂漠の果てへ逃げていくのだった。

言葉やストーリーの妙よりも、映像の美でひたすら勝負し、魅せる。これこそクラシック・カートゥーンの一つの醍醐味といえるのではないだろうか。



※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年3月16日金曜日

キネマ旬報『内外短編映画欄』作品リスト(1932年6月11-21日号)

★本記事は、1932年~40年にかけてキネマ旬報にて不定期に掲載されていた記事「内外短編映画欄」に掲載されていた短編作品情報を整理したリストになります。
レビュー記事が存在する場合は英題から該当記事にジャンプできるようにしてあります。
あくまでも自分用のメモレベルなのでご留意を。
今回は1932年6月11日号、21日号の2号分を引用。
(※欄は私注)

6月11日号

【漫画】

・シャボン玉
(製作?)水野商會
・気まぐれ船
(製作?)西倉

【小唄漫画】※フライシャー『Screen Songs』の邦題

・朝起きは辛い(Oh! How I hate to get up in the Morning)
〈スタッフ〉
パラマウント発声映画
デーブ・フライシャー監督
シーモア・ネイテル、バアナード・ウルフ吹込※現存プリントでは散逸しているスタッフ情報
※本国では1932年4月22日公開

6月21日号

【漫画】

・火事だ火事だ(Fire Fire)
【フリップ蛙主演】
〈スタッフ〉
メトロ発声
製作者ウーブ・イワークス
曲目カール・W・ストーリング
〈あらすじ〉
消防夫となったフリップは多数の人命を救い、真空掃除器で火を悉く吸い込ませ、気絶していた娘と二人でその掃除器で空高く舞い上る。
※本国では1932年3月5日公開

・いんちき自動車(The New Car)
【フリップ蛙主演】
〈スタッフ〉
メトロ発声
製作者ウーブ・イワークス
曲目カール・W・ストーリング
〈あらすじ〉
フリップは中古自動車を買い恋人を乗せて速力を出し過ぎ、交通巡査に追われ、鉄道線路を走ってトンネルの中で先方から来た列車に乗り換えて逃亡する。
※本国では1931年7月25日公開

・素晴らしき人生(What a life)
【フリップ蛙主演】
〈スタッフ〉
メトロ発声
製作者ウーブ・イワークス
曲目カール・W・ストーリング
〈あらすじ〉
辻音楽師になったフリップ蛙は無理算段した金を偽片輪の大道提琴家にとられてガッカリする、或る家の奥さんに呼ばれて浮かれ騒いでる所へ主人が帰って来て叩きのめされ警察へ送られる。
※本国では1932年3月26日公開

・ビン坊のヴァイオリン狂(In The Shade of the Old Apple Sauce)※現在プリントは散逸
〈スタッフ〉
パラマウント発声
デーヴ・フライシャー監督
シーモア・ネイテル、ラルフ・サマーヴィル吹込み
〈あらすじ〉
ビン坊がヴァイオリンを弾くと余り喧しいので近所の人に怒鳴られ、音楽学校のベティ嬢を訪れ、稽古して貰うが下手なので散々叱られる中、共鳴して了う。
※本国では1931年10月16日公開

・海賊退治(Swim or Sink)※現存プリントでは"S.O.S"と改題
【ビン坊漫画】
〈スタッフ〉
パラマウント発声
デーヴ・フライシャー監督
〈あらすじ〉
お馴染のビンボー、ベティ、ココの三人が難船して筏に乗り波間を漂う中海賊船に捕まったが大活劇の末海賊を退治する。
※本国では1932年3月11日公開

・舞踏会(The Shindig)
【ミッキーマウス漫画】
〈スタッフ〉
パ社発声
ワルト・ディスニー製作
〈あらすじ〉
納屋で開かれた家畜舞踏会にミッキー・マウスが肥った豚子夫人と踊ってる中押し潰されてペチャンコになって了う。
※本国では1930年7月11日公開

・消防ピクニック(The Fireman)
〈スタッフ〉
ユニヴァーサル発声
クライド・ジェロミニイ画
ジェームス・ディートリッヒ編曲
〈あらすじ〉
消防隊のピクニックに行ったオスワルド兎は小猫と恋を囁こうとするが、小猫の弟に邪魔される。園遊会場では、河馬をはじめ色々な連中の余興がある。
※本国では1931年4月6日公開

【小唄漫画】

・もう一度(Just One More Chance)
〈スタッフ〉
パラマウント発声
デーヴ・フライシャー監督
ジェームス・エッチ・カルヘーン、デヴィット・エンドラー吹込※現存プリントでは散逸しているスタッフ情報
〈あらすじ〉
酒場の主人を中に大勢で賭博をしていると、ベテー嬢が現れてジャレットと共に唄い出す。
※本国では1932年4月1日公開

・ベテーの家出(Minnie the Moocher)
【ベティ・ブープ、ビン坊主演】
〈スタッフ〉
パラマウント発声
キャッブ・キャラウェイ及びそのオーケストラ特別出演
〈あらすじ〉
両親の無情を恨んで駈落ちしたベティとビン坊は途中お化けに逢い再び我家へ逃げ帰る。
※『小唄漫画』に分類されているが正式なシリーズとしては『Talkartoon』にあたる、本国では1932年3月11日公開

2018年3月14日水曜日

Betty boop's birthday party(ベティの誕生日)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1933年4月21日
評価:★7

どたばたパーティーが楽しい佳作


傑作『Snow White』(ベティの白雪姫)の次に公開された、制作時期としては中期にあたる作品。この頃になってくるとココやビンボーの登場頻度は初期に比べると徐々に控えめとなっており、この作品ではほんの少し脇役として登場するに留まっている。

物悲しげにブルースを歌いながら家事を行うベティからこの作品は始まる。どうもこの作品のベティはメイ・ケステルが演じておらず、ケイト・ライトという別の女優が声を担当しているらしい。(参考)確かにいつもと違う新鮮な声色。
ベルが鳴るので表へ出ると、そこにあるのは大きなケーキ。今日はベティの誕生日で、友達はみんなでベティをお祝いしようとしていたのだ。
様々なプレゼントをベティに手渡す動物たち。赤ちゃんが二つの箱を持ってくると、大きな箱から小さい椅子、小さい箱から大きなピアノが飛び出すというシュールなギャグが面白い。

庭で楽しいパーティーが始まり、テーブルを囲んで動物たちが割と下品なギャグを挟みながら食事を嗜む。ロウソクの数によるとこの作品でのベティは14歳らしい。やたらエッチな中学生だなぁ。

…ところが熊とカバが一匹の魚を巡って喧嘩を始めたのがきっかけで、一同大乱闘に発展してしまう。
パイ投げだの皿投げだの、後のポパイに繋がるようなノリの良い破壊的なギャグが続く。
最後にはベティが『ジョージ・ワシントン』の石像と共にボートで逃走してしまう、というこれまたフライシャーらしいシュールなギャグで作品は終わる。
決してシリーズの一二を争う傑作、という訳ではないが、破壊的かつシュールなギャグの数々は今でも十分楽しめるのではないだろうか。乱闘シーンのアップテンポで軽快なBGMも作品を盛り上げており好印象。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1

2018年3月10日土曜日

【お知らせ】邦題について

このブログでは、当初は原則として邦題を掲載しない方針で執筆していましたが、データベースとして活用する際の事も考え記事タイトルに邦題も付記する事に致しました。

そこで、まずは国内で公式DVDが発売されたことで全作品正式な邦題が決定しており、現在執筆中であるシリ―・シンフォニーシリ―ズから順次邦題を付記するようにしております。
現在執筆中であるベティ・ブープシリーズについても、「ベティ・ブープ伝」(筒井康隆著)所収のリストを出典として順次記事タイトルに邦題を付記する予定です。

また、日本でまとまった邦題付記の作品リストが発表されていない作品に関しては、1931年~40年にキネマ旬報にて掲載されていたコーナー「(内外)短編映画欄」、もしくは当時の広告に記載されていた邦題を出典として掲載しようと思います。

まだまだ建設途中のぐだぐだブログではありますが、よろしくお願い致します。

2018年3月8日木曜日

Lullaby Land(子守歌)

監督:ウィルフレッド・ジャクソン
公開日:1933年8月19日
評価点:★7

夢の世界を美しく描き出した、幻想的な傑作


シリー・シンフォニー38作目と、シリーズの中でも中期にあたる作品。
この時期の作品から、ディズニーは現在にまで受け継がれていく美しい画面構成、卓越したアニメーション技術、色鮮やかな色彩設計を自分の物にしていく。
その最大の成果が1937年の『白雪姫』に始まる長編作品群なのだが、この作品でもそういった後の傑作に繋がる素晴らしい要素を数多く秘めているといえよう。

物語は有名な子守唄『ロッカバイ・ベイビー』をバックに、赤ちゃんと犬のぬいぐるみが幻想的な夢の世界へとたどり着く、安らかで夢見心地なシーンから始まる。

次に我々の目を奪うのは擬人化されたベビー用品たちの大行進。ここまでの一連のシーンにおける色彩設計、そして背景の美しさは素晴らしいの一言に尽きる。
この時期のカートゥーンではこういった『奇妙なキャラクター達の行進』のシークエンスがよく用いられるのだが、幻想的な世界観を演出するにはうってつけの方法だったのだろう。

そうこうするうちに2人は何やら『赤ちゃん禁止の庭園』に迷い込む。そこにあるのはインク、マッチ、はさみといった危険な物ばかり。コーラスによる忠告を無視して赤ちゃんがマッチで遊んでいると、マッチから出た煙が三匹の化け物へと変貌する。
この恐ろしく幻想的な化け物たちのダンスシーンは作品内で最も印象深いシークエンスであろう。
恐ろしい化け物から逃げ、恐怖に怯える二人の前に現れたのは妖精ザントマン。彼の撒く砂を浴びた二人は、瞬く間に安らかな眠りにつくのであった。

この作品は終始甘く美しいBGM、幻想的な世界観で構成されており、カートゥーンに刺激的なギャグを求める人には向いていないかもしれない。(実は筆者もこういう作品が大好き、という訳ではナイ…)
だが、夢見心地で無垢な美しさに溢れたこの作品は、公開から85年が経過した現在でも色褪せる事のない魅力を放っていると言えるだろう。
後にディズニ―自身が似たテーマを扱った短編『子どもの夢』(1938)を発表しており、両作品を比較するのも楽しいかもしれない。




※収録DVD:シリー・シンフォニー 限定保存版 (初回限定) [DVD]

2018年3月5日月曜日

Dinky Doodle in the Hunt

監督:ウォルター・ランツ
公開日:1925年11月1日
評価:★6

若き日のウォルターランツが手がけた楽しい作品


後に『オズワルド』『アンディ・パンダ』『ウッドペッカー』等数々の人気キャラクターを手掛ける事となるウォルター・ランツは、20年代初頭にブレイ・スタジオで演出家としてのキャリアをスタートさせた。
この作品は、そんな彼がブレイスタジオで制作したシリーズ『ディンキー・ドゥードゥル』中の一作である。

このシリーズはフライシャーの『インク壺』のような、実写世界の中にアニメキャラが入り込み暴れ回るという愉快な趣向が凝らされている。まだアニメーションが『奇妙な代物』として扱われていたであろうこの時代、この実写併用のスタイルは大層観客に喜ばれた事だろう。
この作品でも、そんな実写とアニメが融合する事で生まれる魅力が存分に楽しめる一作となっている。

ストーリーはあってないような物で、狩りをしているランツ青年(実写)をディンキーと彼の愛犬がからかい、終いには大きな熊に追いかけられてしまうという代物である。


しかしこの作品の魅力は、ランツの怪演、粗削りだがのびやかで楽しい作画に集約されているといっても過言ではないだろう。
そののびのびとした牧歌的な魅力は、この時期の作品でしか味わえない特別な物なのではないだろうか。 たとえ作品のアイデアの大部分が『インク壺』『アリスコメディー』からの拝借だとしても…。


2018年3月3日土曜日

Betty Boop's Penthouse(ベティの屋上庭園)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1933年3月10日
評価:★8

初期フライシャーの魅力が詰まった珠玉の一篇



ジャズエイジの影響が色濃く残る初期ベティ物としては、1933年制作と比較的後期にあたる作品。この年を境に、ベティ作品からは性的な魅力やドラッギーな表現が影を潜めていき、次第に穏当な作風へと変化していく事となる。
しかし、まだこの『Betty Boop's Penthouse』ではその変化の兆候など微塵も感じる事はできない。全盛期を迎えていたベティの魅力を存分に味わう事ができるのだ。

まず作品が始まると、奇妙な建物が我々の目を引く。『ビンボーの実験室』という看板が掲げられたその怪しい建物では、何やらビンボーとココが怪しげな実験を行っていた。
この一連のギャグにおいては、初期フライシャーが得意とした『メタモルフォーゼ』が上手く活用され、なかなか魅力的なシークエンスとなっている。


彼らがふと窓を見ると、そこにいるのはお馴染みベティ。
水着を着て土いじりをするそのセクシーなアニメーションは非常に魅力的である。(こんなベティのセクシーな魅力も、あと数作もすると徐々に影を潜めてしまうのだが…)

そんなベティに見とれてしまった二人。すると彼らが放置した薬が巨大な化け物に変化してしまう。BGMもスウィンギーなジャズに変わり、ベティを襲おうとする化け物が迫力ある構図で描かれる。
異変に気付いたベティがとっさに香水を化け物に吹っ掛けと、化け物はロトスコープを用いて作画されたリアルなダンスを踊り始め、終いには乙女のような「花」になってしまう。

この作品には特別映えるギャグ、抜きんでた魅力という物は見当たらない。だが、作品から終始漂うジャジーな雰囲気、ベティのセクシーさ、フライシャーお得意の変幻自在なアニメーションはまさに模範的なフライシャー作品とも言うべき魅力を放っている。



※収録DVD:Betty Boop: The Essential Collection, Vol.1