2018年3月23日金曜日

トンボになったヤッちゃん

監督(演出):鈴木元章
製作年:1973年
評価点:★4

優しい紙芝居タッチで描かれる交通事故の悲劇


去る2017年9月に開催された、『時報映画作品研究会』。
現在インターネット上で話題を呼んでいる『星の子ポロン』『ガンとゴン』の製作を担当した映像製作会社『時報映画社』が、1970年代に制作したといわれる児童教育用の短編映画が数点上映された。
俗に言う『カルトアニメ』揃いの上映ラインナップだったわけだが、その中でも特に異彩を放っていたのがこの作品。NHK教育テレビで放送されている『てれび絵本』、あれを貧弱にしたような代物だった。

ずばり『本物の』紙芝居作品だったのである。

つまり一般的なセルアニメではなく、止め絵(水彩画?)の連続でストーリーを展開していく形式となっていたのだ。
その独特の優しい画のタッチは作品のブラックなストーリーにマッチし、良くも悪くも児童の感情を揺さぶる怪作に仕上がっていた。

真面目で良い子なのだが、とっさの時になると交通ルールを忘れてしまう少年、ヤッちゃん。そんなヤッちゃんが大好きで、いつも気にかけている少女ミーコ。この二人を中心にストーリーは展開する。
物語は、ヤッちゃんが紙飛行機に乗ってドラゴンと戦う、ミーコの夢のシーンから始まる。彼女は明るく元気なヤッちゃんが大好きなのだが、いざとなると交通ルールを守れないヤッちゃんの事をいつも気にかけているのだった。
そんなヤッちゃんたちは「青い風」を歌いながら学校の遠足に出かける。
ところが…彼はちょっとした不注意から車道に飛び出してしまい、車に轢かれて死んでしまう。(事故そのものを表現したシーンは存在せず、周りが悲しむ反応やミーコのセリフで彼の死が示唆される演出となっている)

「ー元気の良かったヤッちゃん。皆の誰からも好かれたヤッちゃん。私の大好きだったヤッちゃん…でも、世界中で一番のおバカさんだった、ヤッちゃーん…」
ミーコの悲痛な叫びが、夕焼けにこだまする。夕焼けの空の下、一匹のトンボが飛んでいるイラストで物語は終わる。
そう、タイトルの「トンボになったヤッちゃん」とは、交通事故で死んだ彼を比喩したタイトルだったのだ。

『ルールをわかりやすく教える』のではなく、『交通事故の恐ろしさをストレートに伝える』内容となっていたこの作品、ルール解説ものが多い交通教育アニメの中ではなかなか異質な仕上がりとなっていた。
内容の類似性などから、交通啓発作品の名作『チコタン』(1969年、学研製作のアニメ版は1971年)に影響されたとも考えられる。

ともかく、悪い意味でも良い意味でも強烈な印象が残る一種のカルト的な作品であった。

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