2018年7月27日金曜日

Dinner Time

監督:ポール・テリー&ジョン・フォスター
公開日:1928年9月1日
評価:★3

「蒸気船ウィリー」よりも早く公開されたトーキー作品


1920年代を通じて制作され続けた、サイレント期におけるポール・テリーを代表するシリーズ『Aesop's fables』。このお世辞にも出来が良いとは言えない短編は同シリーズ初となるトーキー作品で、RCAが開発したフォトフォン方式を用いて制作されている。
特筆すべきなのは、この作品があの『蒸気船ウィリー』よりも約二か月前に公開されたという点である。1920年代中盤にフライシャー兄弟が『ココ・ソング・カーチューン』という小唄漫画シリーズをトーキー(ド・フォレストが開発したフォノフィルム方式)で製作していたものの、ストーリーを主体としたトーキーアニメ―ションとしては恐らくこの作品が初めてだと思われる。

ストーリーは一貫しておらず、冒頭では猫が鳥を捕まえようとして失敗するギャグが描かれ、中盤では骨を埋めようとした子犬が他の犬に骨を取られてしまう様子が描かれる。後半は肉屋を営むアルファルファじいさんと肉を奪おうとする野良犬たち、そして野犬収容所が織りなすドタバタ劇である。とにかくギャグの繋がりが乏しく、あらすじを説明するのが難しい作品。唯一面白いのは、猫が電線から落ちた時に9つの幽霊が現れ、失神から目が覚めた猫が飛び出した霊を取り戻すというギャグ。

作画は典型的なヴァン・ビューレン版「Aesop's fables」のスタイルである。ポール・テリーが監督してはいるが、以前ポールが監督していた「Aesop's fables」や後のテリー・トゥーンの作風とは少し毛色が異なるため、恐らくこの作品は共同監督であるジョン・フォスター主導で製作されたのではないだろうか。あまり上手いとは言えない。
目玉であるサウンドトラックだが、こちらも出来は良くない。サウンドと映像が同期している…というよりも、サイレント作品に変な効果音や叫び声を追加しただけのような感じ。
「蒸気船ウィリー」のサウンド化を検討していたウォルト・ディズニーもRCAに赴きこの作品を見ているが、「どたばたばかりで何もない」と評していたという。※
効果音製作を担当したマックス・マンネは他にフライシャーの「トーカートゥーン」最初期の音響監督としてその名前を確認できるのだが、「トーカートゥーン」の方も出来は余り良くないと来ているから困ったものである。一体何者なんだ。



※細馬宏通(2013)『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』新潮社

2018年7月20日金曜日

Mask-a-Raid(ベティの仮装舞踏会)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1931年11月14日
評価:★8

シュールなギャグが次から次へと飛び出す傑作


『トーカートゥーン』第28作であり、シリーズ中で初めてベティ・ブープが完全な人間として登場した作品である。(今までは長い耳だったものがイヤリングになっている)
更にベティのデザイン変更と併せて、今まではあくまでもビン坊が主演だったのが今作を以ってベティ・ブープが主演となり(タイトル上部に大きく「Betty Boop in」と出る)、ビン坊は脇役に甘んじる事となる。
そんなシリーズの転機点となった本作品だが、これがなかなかの傑作に仕上がっている。

仮面舞踏会にやって来たベティは女王の座につくのだが、王様にちょっかいをかけられ憤慨する。そこへ先程まで楽団の指揮をしていたビン坊が仮面を持って現れ、王様と軽妙な歌のやり取りをする。(歌っているのは「Where Do You Work-a, John? 」というノヴェルティ・ソング) 仮面が王様の相手をしている間にビン坊はベティとふたりで会場を行進。奇妙な舞踏会の参加者たちも音楽に乗せてノリノリで行進する。
歌が終わると王様とビン坊がベティの奪い合いを始める。ここでベティのスカートがまくれ上がるという下品なギャグが挟まれるのだが、こういった露骨なギャグはヘイズ規制前である当時ならではと言えるだろう。
今度はベティが『You're the One I Care For』というロマンチックな歌を歌い始め、2人に決闘するようお願いする。
ビン坊チームと王様チームの二軍に分かれて剣術試合が始まり、またも音楽に合わせてノリノリで剣を振りかざす。この辺りのギャグのテンポの良さとシュール加減は素晴らしい。
激闘(?)の末にビン坊が負けてしまい牢屋行きとなるが、ビン坊を監獄へ連れていく騎士が兜を外すと実はベティ。ベティに「結婚してくれない?」と言われたビン坊は歓喜のあまりフライシャー十八番のスキャットを歌い始め、最後は目の中に「THAT'S ALL!」という文字が出て終了する。

この時期のフライシャー作品を文章で解説するなんて不可能かもしれない。なんてったってあのシュールな面白さは粗筋では決して味わえないのだ。とにかくキャラクターがノリに乗って無駄に動きまくる。本作品では「フライシャーあるある」な繰り返しの動作も少なく、常にキャラがくねくねと動き回るのだから最高だ。
何よりラストのスキャットの素晴らしさ。目がダンスをし、文字に変わるというシュールなギャグもさることながら、あの絶妙なトリップ感覚は格別である。
作画者は不明だが、シェーマス・カルへインとアル・ユーグスター辺りではないかと私は勝手に推測している。(デザインや動きの癖がそれっぽいような気がする)
ちなみに登場する王様は、「ベティの将棋合戦(Chess-Nuts)」に登場した爺さんと同一人物である。ベティの事を一方的に好いており、ちょっかいを出すという役柄まで同じ。この頃のベティはよく貞操を狙われる。




(作中で歌われる挿入歌「Where Do You Work-a, John? 」)

2018年7月15日日曜日

The Mechanical Cow(ザ・メカニカル・カウ)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年10月3日
評価:★7

機械仕掛けの牛とオズワルドの冒険活劇


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第4作である。
1932年にサウンドトラックを付加した上で再公開されており、現存しているプリントもその時のプリントが大本だと思われる。(下記の動画リンクは1932年再公開版。鳴き声のような効果音が用いられている)

機械仕掛けの牛を使った牛乳販売を仕事にしているオズワルド。怠け者の牛は朝になってもなかなか起きようとしないが、オズワルドはなんとか牛を起こして仕事を始める。
カバの親子にミルクを売った後、ガールフレンドのオルテンシアに出会ったオズワルドは仕事そっちのけで情事を楽しむ。
ところが突然悪者が現れ、オルテンシアをさらってしまう。オズワルドは牛に乗って悪者の車を追跡し、見事オルテンシアを救出。乱闘の末悪者もオズワルドも崖から落ちてしまうが、オズワルド達はなんとか助かり、悪者は魚に食べられてしまうのだった。

「機械仕掛けの牛」という面白い設定が目を引く本作だが、牛のパーソナリティー自体は他の動物たちと全く変わらず少し没個性な感じ。とはいえ銃に撃たれてバラバラになっても平気で生きていたり、首がマジックハンドのように伸びたりといった破天荒なギャグはなかなか面白い。
本作は『トロリー・トラブルズ』や後の『プレーン・クレイジー』のような、後半のテンポの良さやアクションが醍醐味となる作品であろう。サイレント期ならではのオーバーなリアクションやパントマイムが何度も用いられ、素早いテンポで次から次へとギャグが繰り出されるので、観ていて飽きが来ないのだ。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月14日土曜日

Oh Teacher(オー、ティーチャー)

監督:ウォルト・ディズニー
公開日:1927年9月19日
評価:★6

オルテンシアを巡って猫とオズワルドが正面(?)対決


1927年から28年にかけてユニバーサルスタジオ・ウィンクラープロダクションにより配給され、ディズニーのアニメーションスタジオとしての地位を確固たるものにした幻のシリーズ『しあわせうさぎのオズワルド』。本作品はシリーズ第3作である。
このシリーズはオリジナルのネガが失われており、この作品も1932年にウォルター・ランツの手で再編集された再公開用のプリントしか現存していない。その際に幾つかのシーンが散逸したとの事であり、ぜひともオリジナル版のプリントが発掘されてほしいものである。
作画はヒュー・ハーマン、ローリン・ハミルトン、そしてフリッツ・フレレング。三人とも後にワーナーへ移籍し、特にフリッツはスタジオの大黒柱として数々の名作を手掛ける事となる。(ヒューは同じくディズニー組のルドルフ・アイジングと共に初期ワーナー作品の立役者となり、後にMGMに移籍する)

オズワルドは自転車に乗って、彼女と一緒に学校に行こうとする。ところがそれを邪魔するのが悪ガキ猫で、オズワルドから自転車を奪ってしまう。さらに川に落ちてしまったオルテンシアをオズワルドが助けようとするのだが(「HELP」の文字が馬になるというギャグが良い)、これもまた猫によって邪魔されてしまい、彼女に嫌われてしまったオズワルドは呆然とする。
そして、休み時間。オズワルドは猫に逆襲しようとレンガを持って待ち伏せするのだが、猫にその様子がバレてしまった。猫はレンガを投げてオズワルドに戦いを挑むのだが、投げたレンガが自分に返ってきてたちまち失神。オズワルドはさも自分が倒したかのような素振りを見せ、オルテンシアはオズワルドに惚れ直すのだった。

どうも恋敵同士の対決はオズワルド…だけではなくサイレント期の喜劇映画の定番だったようで、この後もまたシリーズ中数度に亘って繰り返されるテーマである。
前作の「トロリー・トラブルズ」と比べると作画や展開に少し粗さを感じるのが惜しい本作品だが、ギャグやキャラクターの感情表現が豊富なので結構楽しめる。特にヒューが手がけた冒頭のオズワルドが花占いをするシーン、ハミルトンが手がけたオズワルドがレンガの言い訳をして猫を怒らせるシーンの二つはキャラクターの感情がよく現れており面白い。
また、オズワルドの首が取れたり「HELP」の文字が馬になるといったサイレント期ならではのギャグも散見されるのが興味深い。



収録DVD:オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット 限定保存版

2018年7月8日日曜日

The Shooting of Dan McGoo(アラスカの拳銃使い)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1945年4月14日
評価:★8

アラスカで繰り広げられる過激なギャグの数々


ドル―ピーが出演する2番目の作品。とはいっても前作『つかまるのはごめん(Dumb-Hounded)』から約2年のブランクを経ての公開であり、この間にアヴェリーの作風は更に過激に、そして破天荒になっている。この作品も、オオカミの狂気じみたリアクションや洒落の効いたギャグが満載、そして何より美女のセクシーさがいかにも全盛期のアヴェリーらしい一作である。
作画はディズニー出身の敏腕アニメーターエド・ラヴ、アヴェリーと同じくウォルター・ランツ出身のレイ・エイブラムス、そしてプレストン・ブレアの3人。特にブレアは、『おかしな赤頭巾(Red Hot Riding Hood)』を彷彿とさせる美女の色気ムンムンのダンスシーンを担当しており、特筆すべきである。

極寒の地・アラスカにある酒場『マラミュート・サルーン』は、無法者たちが酒浸りになりながら撃ち合いを繰り返す無法地帯と化していた。そんな酒場に突如オオカミが現れ、お客たちを脅かす。美女ルーのダンスにオオカミはメロメロ、その興奮の仕方ときたら椅子をぶん投げるわ目が飛び出るわと大変な騒ぎ。興奮極まったオオカミは美女を誘拐する事にしたのだが、そこへ現れたのはドル―ピー演じる「早撃ちマグ―」。激闘の末見事オオカミを退治したドル―ピーだったが、美女にキスされると彼もたちまちオオカミのように激しく興奮し、最後はお馴染みの『ぼかぁ幸せだ』を言い放つのだった。

この時期(1945ー48年頃)のアヴェリー作品はまさに絶頂期に差し掛かっており、過激なギャグ、時折挟まれる楽屋オチ的なネタ、キャラクターのオーバーなリアクション、そして作品全体に満ち満ちている狂気、どれをとっても完成度が高いのだ。その強烈なテンポの良さは、ある種のカタルシスすら覚える。(もっとも、アヴェリーも50年代になると作風がガラリと変わり、UPAを彷彿とさせるシニカルな作風へと転向するのだが…)
この作品も、狂気度は薄いが例外ではない。特に美女のセクシーなアニメーション、そしてそれに興奮するオオカミのリアクションぶりは抱腹絶倒ものである。もはや芸術作品の域。最高。



収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection

2018年7月6日金曜日

Dumb-Hounded(つかまるのはごめん)

監督:テックス・アヴェリー
公開日:1943年3月20日
評価:★7

逃走劇が楽しい『ドルーピー』第一作


ワーナーでバッグス・バニーやダフィー・ダックといった数々のスター達に命を吹き込んできたテックス・アヴェリーが、MGMに移籍後初めて産み出したスター「ドル―ピー」が主演を務める初の作品である。
ウォルター・ランツのスタジオで頭角を現し、ワーナー時代『メリー・メロディーズ』でその個性を爆発させたアヴェリーだったが、1942年にMGMに移籍するや否や、カートゥーン史上類を見ない爆発的に面白い傑作群を次々と産み出した。この作品は、そんな彼の素晴らしい伝説の幕開けとなった作品と言えるだろう。

刑務所から脱獄したオオカミを警察犬が追いかける。その中でもひと際のんびりとしたテンポで犯人を捜すのはドル―ピー。オオカミはアパート、森の小屋、ハリウッド、そして果ては南極へと逃げ回るが、どこに行っても『なぜか』ドル―ピーが彼を待ち構えていた。追い詰められたオオカミは、ついに高層ビルの屋上から飛び降り自殺…と見せかけ華麗に着地。そのまま逃げようと歩き出した途端、ドル―ピーがビルの屋上から落とした巨大な岩に潰されとうとう捕まってしまった。大手柄を打ち立てたドル―ピーはお偉方から褒美として札束をもらうが、途端に先程までの態度が嘘だったかのようにはしゃぎ回り、一言『ぼくは幸せだ』と言い残すのだった。

逃げ回る余りフィルムから飛び出してしまう、落下するオオカミを葬儀屋が取り調べる、元いたすみかに舞い戻る時は『フィルムの逆再生』を用いるといった傑作なギャグもいくつかあるが、この作品の魅力は、やはり待ち構えているドル―ピーを見た時のオオカミの驚くリアクションの面白さに尽きる。
その驚きようときたら、目は飛び出し服は脱げ舌は飛び出しと大変な騒ぎ。テックス・アヴェリー節全開である。

と、もちろん面白い作品なのだが、初期作品という事もあってか彼特有の魅力がまだ充分に発揮されていないのが残念。テンポやタイミング、そして作品の肝となるキャラクターのリアクションが、後年の作品群と比べてまだまだマトモなのだ。
3年後にリメイク版である『迷探偵ドルーピーの大追跡(Northwest Hounded Police)』が公開されるが、こちらの方がギャグの面でも狂気度の面でも数段パワーアップしていて面白い。(ことさら顔芸の面白さが最高)



収録DVD:Tex Avery's Droopy: The Complete Theatrical Collection