2018年9月29日土曜日

Hunky and Spunky(スパンキー登場)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1938年6月24日
評価:★4

『わんぱくスパンキー』第一作


『カラー・クラシック』第24作。スタジオをニューヨークからマイアミに移籍したフライシャー兄弟が開始したミニシリーズ、『わんぱくスパンキー』の第一作でもある。
このシリーズは良くも悪くもマイアミ時代のフライシャー・スタジオ、そして後期の『カラー・クラシック』を象徴するシリーズとなっている。
まず、このシリーズは全体としてディズニー作品の影響が色濃い。そしてアニメーションはそれまでの作品と比べて格段に洗練されてはいるものの、ストーリーはとにかく甘ったるくて平凡なのだ。ギャグや毒っ気も皆無に等しい。
シリーズ第一作であるこの作品も、作画や美術こそ素晴らしいが物語が退屈という、どうも惜しい作品に仕上がってしまった。
この作品の作画はマイロン・ウォルドマンとグラハム・プレイス。1930年代後半以降のスタジオを牽引したアニメーターだ。

子ロバのスパンキーは、お母さんのハンキーに蹴り方や鳴き方を教えてもらう。ウサギと仲良くなったスパンキーは、お母さんが休んでいる間にウサギと一緒に遊びまわる。
そんな時、人間が油断していたスパンキーを罠で捕まえてしまったのだからさあ大変。ハンキーは急いで息子のもとへ駆けつけ、人間をコテンパンにやっつけてしまう。
これにて一件落着。二匹はまた、長い長い旅を仲良く続けるのだった。

冒頭のステレオプティカル・プロセスを用いた美麗な背景と、ラストの夜空の幻想的な色使いが目を引く作品である。作画は水準レベルを維持しており、細密な背景美術も良い。ただ見るべきところが殆どそれだけなのがなんとも惜しいところだ。
ところがこの作品は大衆の心を掴んだようで、1938年度のアカデミー短編アニメ賞にノミネートされている。(1930年代前半には一回もノミネートされていないというのが、また哀愁を誘う。フライシャー兄弟とテックス・アヴェリーは賞レースに無縁なのだ)



※収録DVD:Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

2018年9月24日月曜日

Colonel Heeza Liar's Knighthood

監督:ウォルター・ランツ(&ヴァーノン・ストーリングス?)
公開日:1924年4月1日
評価:★7


ウォルター・ランツが演出した最初期の作品


1913年に、商業アニメーションの草分け的存在であるジョン・ランドルフ・ブレイによって生み出されたキャラクター『ヒーザライア大佐』。最も初期にセル技法を取り入れた事でも有名なこのシリーズだが、ブレイ自身による製作は1917年に一旦終了してしまう。その後6年間のブランクを経て、1923年にヴァーノン・ストーリングスによって製作が再開された。
この作品は、そんな『ストーリングス版・ヒーザライア』の一篇である。
この作品で特筆すべきなのは、監督としてウォルター・ランツがクレジットされている点である。1910年代にインターナショナル・フィルム社のアニメーターとしてキャリアをスタートさせた彼だが、この辺りから演出業もこなすようになっていた。この作品は、彼が監督した最も初期の作品なのだ。
ちなみに、インターナショナル・フィルム社にはランツの他にもビル・ノーランやバート・ジレット、ベン・シャープスティーン、グリム・ナトウィック、そしてジャック・キングといった後に名を残すそうそうたるメンバーが在籍していた。

剣術の練習をする男(実写。ランツ本人)に睡眠の邪魔をされたヒーザライアは、おもむろに昔の武勇伝を語り始めた。
王様に剣術の腕を見込まれたヒーザライアは、王様の付き添いをすることになる。ところが王様が悪者に捕まってしまったので、ヒーザライアは悪者と剣闘する羽目に。絶体絶命のヒーザライアだったが、蚊のおかげでなんとか勝利する。
―ところがそれはみんな大嘘。話を聞いて怒った蚊に咬まれてしまったヒーザライアは、急いでインク壺へと戻るのだった。

同時期のランツ監督作と同じく、この作品はフライシャーの『インク壺』を彷彿とさせる実写とアニメーションの混合スタイルで作られている。とはいえ、『ディンキー・ドゥードゥル』等とは異なりこの作品では実写との絡みは序盤と終盤のみ。メインはあくまでもアニメーションである。後の『オズワルド』を彷彿とさせるのびのびとした動きや自由な発想はもちろん、ランツ自身の怪演も見逃せない。
この作品が発表された時点で、ランツはまだ25歳だった。若々しい自由な発想が光る、楽しい作品だ。

収録DVD:Cartoon Rarities of the 1920s

2018年9月18日火曜日

Hot Dog(ハッドッグ)

監督:デイヴ・フライシャー
公開日:1930年3月29日
評価:★7


フライシャーの転換点


『トーカートゥーン』第4作。この作品は、様々な意味でフライシャー・スタジオのターニングポイントとなった記念すべき快作である。「従来の作品との違い」は主に三つ挙げられる。
第一に、フライシャー作品としては初めて全編にセル画が用いられ、濃淡豊かな背景が使用できるようになった。第二に、トーキー初期のフライシャーを代表するキャラクターのビン坊が初登場した。第三に、音楽監督としてルー・フライシャーが参入し、従来よりもはるかに高い完成度で音楽とアニメーションの融合に成功したのである。

車を走らせるビン坊が、街中の女性を次々にナンパする。ナンパの途中で道路を壊してしまったビン坊は警察に捕まってしまい、『ジョニーが凱旋するとき』のメロディーと共に裁判所へと連行されてしまう。
無実を訴えるビン坊はおもむろにバンジョーを取り出し、『セントルイス・ブルース』を歌いだす。堅苦しい雰囲気だった裁判所もいつの間にかノリノリに。ビン坊はバンジョーを一輪車に見立ててそのまま裁判所を逃げ出すのだった。

アニメーターはノンクレジットだが、後にチャールズ・ミンツのスタジオへ移籍するシド・マーカスと1930年当時のスタジオを代表するアニメーターであるグリム・ナトウィックが幾つかのシーンを担当したと思われる。[参考]
特にシド・マーカスが担当したという「セントルイス・ブルース」のシーンは従来のフライシャー作品とは一線を画すクオリティーである。というのも、スキャットの口の動きやバンジョーをかき鳴らす手の動き、音楽にノる無機物たちの動き、全てが完璧に音楽と同期しているのだ。
トーキー初期におけるフライシャーの見どころといえば絶妙な「スウィング感」、つまりジャズとアニメーションの見事な融合が挙げられるのだが、この作品で初めてそれが本格的に実現したのである。
これには恐らく今作よりスタジオの作品に関わる事となったルー・フライシャーの存在が大きく影響していると思われる。ルーはマックス&デイヴの兄弟で、1942年までスタジオの音楽監督として作品に関わってきた。(彼はポパイのウィンピーの声も一部作品で担当している)

この作品は1931年頃に日本でも公開されたようだ。初期のベティ作品と同じく、観客たちを大層楽しませたことだろう。




(劇中で使用された「セントルイス・ブルース」の録音)

2018年9月14日金曜日

Bold King Cole(勇敢な王様)

監督:バート・ジレット
公開日:1936年5月29日
評価:★6

ヴァン・ビューレン最後のフィリックス


ディズニー出身のアニメーター、バート・ジレットがヴァン・ビューレン・スタジオに移籍して手掛けたシリーズ『レインボー・パレード』。本作は、サイレント時代に絶大な人気を誇ったキャラクター『フィリックス』を主人公とした三部作の最終作である。
この作品が公開された後、フィリックスが主人公のアニメーション作品は1958年のテレビアニメ「とびだせフィリックス」まで製作されなくなる。フィリックスがアニメスターの座を離れている間、原作者のオットー・メスマーは一時期(1944-47年頃)かつて最大のライバルだったフライシャー・スタジオの後身であるフェイマス・スタジオで働いていたというのだから面白い。
本作の監督はバート・ジレット単独。後に彼がディズニー復帰後に監督した『ミッキーのお化け退治(Lonesome Ghosts)』(1937)を彷彿とさせる作品に仕上がっている。

木の上で楽しく歌を歌っていたフィリックスだったが、突然の嵐に見舞われお城に逃げ込む。その城の主は大ぼら吹きで臆病な王様だった。実はお城には幽霊がたくさん棲み付いており、おしゃべりで嘘つきな王様を凝らしめようと大暴れしてしまう。
フィリックスは雷を使って幽霊を撃退、喜んだ王様はフィリックスを王子にしてやるのだった。

本作も、前2作と同様にデザインや美術設定に関しては非常に洗練されており申し分ない出来である。特に嵐や幽霊といったホラー描写は良く表現できており、甘ったるい描写が目立つ「レインボー・パレード」としては出色の出来栄えといえる。
またウィンストン・シャープルズの音楽も素晴らしく、挿入歌の「Nature and Me」をはじめとするキャッチーな歌や軽快なBGMが作品の魅力を際立たせている。この作品に限らず、ヴァン・ビューレンの作品はとにかく音楽が良いのだ。
ただ、刺激的なユーモアや機知に富んだアイデアが乏しく、全体として平坦な作りになっているのが非常に残念。(これも残念なことにヴァン・ビューレン作品全体に言えることなのだが…)
前2作での最大の問題点だった「フィリックスの性格」も依然として改善しておらず、サイレント時代のブラックさは影を潜めて『勇敢な少年』になっているのも惜しい。

この作品が公開されてから5か月後の1936年10月、配給元だったRKOがディズニー作品の配給を始めた事をきっかけにヴァン・ビューレン・スタジオはアニメーション作品の製作を休止してしまう。そしてさらに2年後の1938年11月12日、ヴァン・ビューレン自身も心臓発作でその生涯を終えるのであった。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX (DVD2枚組)

2018年9月5日水曜日

Neptune Nonsense(フィリックスと海の神様)

監督:バート・ジレット&トム・パーマー
公開日:1936年3月20日
評価:★7

フィリックスが海底で大冒険


ディズニー出身のアニメーター、バート・ジレットがヴァン・ビューレン・スタジオに移籍して手掛けたシリーズ『レインボー・パレード』。本作は、サイレント時代に絶大な人気を誇ったキャラクター『フィリックス』を主人公とした三部作の二作目である。
監督は前作と同じくバート・ジレットとトム・パーマー。二人ともディズニー出身のアニメーターなだけあって、本作も前作同様ミッキーマウスの短編を彷彿とさせる作品に仕上がっている。

フィリックスが飼っている金魚は、なぜか寂しそう。そこで金魚の友達を見つけてあげることにしたフィリックスは、さっそく釣りに出かける。ところが大きな魚に引っ張られて海底の世界へと真っ逆さまに落ちてしまったフィリックスは、そこで金魚の友達を探す事にした。ところが彼を誘拐犯だと勘違いした魚たちによってフィリックスは捕らえられてしまう。
海の神様と面会したフィリックスが事情を話すと、神様はフィリックスを孤児施設へと連れていった。神様は身よりのない金魚を一匹フィリックスにプレゼントする事にしたのだ。喜ぶ自分の金魚を見て、フィリックスも幸せそうな笑顔を浮かべるのだった。

前作と同様、作画面でのクオリティは従来のヴァン・ビューレン作品に比べて出色の出来である。また美術も素晴らしく、海底の幻想的な世界観を上手く演出している。ギャグこそ少ないが魅力的なアイデアは多く、特に海底に棲む魚たちのシークエンスはかなり快調といえるだろう。
問題としてはストーリーが余りにもありきたりすぎる、フィリックスの性格が良い子すぎるなどという点が挙げられるが、これは素晴らしい美術設定のおかげであまり気にならない。
全体を通して、「Sunshine Makers」(1935)と並ぶ「レインボー・パレード」の最高傑作といっても差し支えない快作といえるだろう。



収録DVD:フィリックス Felix the Cat DVD BOX (DVD2枚組)